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39歳、妊娠する20 母子同室とうつ全開。

子に会えず5時間半。

出産後、結局LDR に4時間ちょっとの間、滞在することになってしまい、4時間のスピード出産だったものの、入院する個室に移動できたのは夜の7時前。しかも夫に至っては待合室の場所を間違えてしまい(本来はLDR のすぐ横にある待合室で待機なのに、LDRよりさらに通路を出た場所の普通の待合いで待っていた…)子が通るわけもない場所で待機していたため、直前までLDRにいたのに生まれた我が子を一度も見ていないという状況。「えぇ……なんで」と、生まれた我が子がいないシュールなLDRで出産ハイの妻とうつ病の夫という、通常の精神状態でない二人が、なんだかね、と疲労感200%の顔を見合わせながら苦笑し合っている中、子宮の処置を続ける医師の声と作業の音だけが響いていた。

本来の出産なら、ドラマとかでよく見る、「お疲れさま」とか「頑張ったね」とか夫からの労いの言葉もありそうなものだけど、そんなのも皆無。え、産んだんだよね?と、麻酔が効いているのもあり、痛みがないため、ああ、これがうつ病の恐ろしさ……と、虚無感を感じていた。多分、これは一生覚えてるだろうなぁ。

やっと子宮の出血が止まり、「はい、もう大丈夫でしょう」と、明るい医師の声で、個室への移動の許可が出た。ただ、出血量がかなり多いので、いきなり立つのも危険なので、車椅子で移動となり、昨日からの入院荷物と共に運ばれていく。「すみません、こちらの指示が悪く、ご主人がお子様を見れないうちに……」車椅子を押してくれていた看護師さんがかなり申し訳なさそうに言う。「いや、僕も外でお待ちくださいって言われて、聞けばよかったんですけど。かなり切迫している感じだったので。聞くのもな…とか思っちゃって」。確かに本陣痛が始まって、このまま産みましょう、となったときに、赤ちゃんの心拍が弱くなってきたため、酸素を吸うことに。え、この状態で!?と、いきんでいる状態のまま、顔に酸素マスクが被されたときには、だ、だ、だ、大丈夫なのか、、、と緊張感があったのは確かだった。「いや、実はあのとき、もうこのまま帝王切開かな、とあの場にいた全員が思ったんですよ。さすがに初産だし、ここから1時間、2時間って考えたら、もう赤ちゃん危ないって思って……」と、看護師さんがぽろっと言うので、え、そうだったの!?と思わず車椅子から体をひねって「え、そうだったんですか!?」と馬鹿みたいな大きな声できいてしまった。「そうなんですよ、でも、まさか、あの状態から、10分もかからず頭が出てきたので、全員が切らずにいけるってなって」と、実はそんな状態だったとは全然知らずに本当に呑気に安産で良かったなぁと思っていた。それを聞くと、夫がまあ会えなかったのも仕方ないなぁ。夫もそれを聞いて少し納得した顔をした。

それはそうと母子同室。

▲小さな焼肉屋。出産したら当分来れないよなぁと思って食べ納めしてたな…。

そんなこんなでギリギリで帝王切開を回避したことを聞きつつ、5日間入院する個室に到着。「ちょっと説明しますね〜」と、トイレの位置やシャワーの場所と入れる時間などを先に聞き終わると、別の看護師さんがやってきて「赤ちゃん、どうしますか?もう連れてきても良いですか?」と声をかけてきた。NICUにすぐに入った我が子だったが、4時間の間にすっかり体温も安定して、もう大丈夫になったらしい。「あ、夫がまだ会えてないので、ぜひお願いします」と言って、早速連れてきてもらうことになった。この時点では、まぁちょっと顔を見て、また預かってもらうのだろうと、甘い考えでいたのだけど、まさかこのまま母子同室のスタートが切られるとは……。緊張した面持ちの夫の前に、ついに我が子が乗ったワゴンが運ばれてきた。「ち、ち、ちっさ!」、と夫の第一声。2500グラムを切っていたこともあり、確かに低体重なので小さいは小さい。ただ元々の性格もあるのか(お世辞とか言わないタイプ)小さい、顔が猿みたい、などなどもう見たまんまの感想は言うが、可愛いは絶対に言わない。普通、何て言うか、”小さくてかわいいねぇ”みたいなことってみんな世の夫はいうのでは!?とか、本当に心から思ったけど、結局一言も言わず、面会時間終了。恐る恐る抱っこもしたものの、落としそうで不安だし、怖いと言ってすぐに交代されてしまったし、本当にこんなことで大丈夫なのか? これはうつ病のせいもあるのか? と、心の中がスンとめちゃくちゃ冷静になっている自分がいた。

部屋から出ていく夫を見送り、ベッドに腰かけて、改めて小さな我が子を見つめる。ああ、この子を産んだんだなぁと、感慨深い気持ちに浸るかな、と思ったら、さっきまですやすやと寝ていたのに、急に泣き出した。「え、これ、どうしたら……!?」と思っていたら、泣き声を聞きつけたのか、たまたまタイミングよく夕飯を持ってきてくれたのか、看護師さんが部屋に入ってきた。

「あらあら、目が覚めちゃったんですね。まだ初乳あげてないですよね?あげましょうか」と、言われるがまま、自分の夕飯は後回しにして、授乳スタイルに。「おっぱいは赤ちゃんに吸われていかないと出てこないので、吸わせることがとにかく大事ですから……」と言われ、ギューギューと捻りあげられてマッサージをされながら(本当に拷問級に痛い、、、涙)、泣き続ける我が子の口に乳首を入れる。が、またこれがうまくなかなかいかなくて、何度も何度も口の近くに近づけて、やっと吸ってくれる、というのを繰り返す。ただでさえ、疲労困憊のうえ、大量の出血のため、若干貧血気味の体をなんとか起こしながらなので、一通り、授乳、オムツ替えなどが終わって、赤ちゃんが泣き止むと、「じゃあ」と看護師さんが、声をかけた。すっかり、赤ちゃんはまた連れてってもらえるのかな、と思ったら……「それじゃあ、ひとまず、また赤ちゃん寝ちゃうと思うので、その間に晩ご飯を食べてもらって。また次泣いたら、ナースコールで呼んでくださいね。一緒に授乳またしましょう。それと何か困ったら、いつでもナースコールしてください」と、言って赤子を置いて颯爽と部屋から出て行こうとしたので、「あ、えっと、赤ちゃんはここにいて大丈夫なんですか?」と、何か言い訳のような聞き方で呼び止める。「はい!もう体調も安定してますから、今日から母子同室でお願いします。もし何か辛いとか、体調が悪いとかあればナースセンターの方で預かりますのでおっしゃってくださいね」とだけ言い残して出て行った。

ああ、これが噂の母子同室……。実はこの病院に決めるときに1つだけ気になった口コミが、「母子同室で、母乳育児にスパルタ」ということ。それがすごく辛くて、と書いている人もちらほらいたのだ。出産当日から基本、母子同室だし、なかなか預かってもらいにくい、というのを見ていたのだが、まさに、これ! フニフニと動く、まだこの世に出て数時間しか経っていない小さな我が子を見つめながら、すっかり冷めてしまった夕食を食べ始めた。
夫に今からご飯、もうこのまま母子同室だって、とメールするも何も返答なし。朝からずっと緊張感の中でいたし、薬も飲んでるから、寝てるんだろうなぁと思ったが、いやぁこれ結構きつくないか、とじわじわとスマホを持つ手が冷たくなっていくような感覚。私は私で、こんなに超冷静に赤子も夫も見てしまっているので、手放しで赤ちゃんを心から可愛い、と思えるのか、ということも心配になってくる。夫も赤子も私が支えなければ、本当にそれだけを心に誓った日になったのだった。


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