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地方から、演劇に向き合い続ける

青森県弘前市という街のイメージといえば、何が思い浮かぶだろうか。有名なところでは春の弘前さくらまつりや、日本一の生産量を誇るりんごなどがよく挙げられる。

その弘前で1978年に旗揚げされ、30年以上に渡り数々の演劇作品を生み出した、「弘前劇場」という劇団があった。県内や日本各地、またドイツや韓国など海外でも公演を行い、国際的にも高く評価された劇団である。かつて弘前劇場で活動し、今も俳優や演劇の活動を続けている人は多い。

学生時代に弘前劇場に出会い、今も演劇を続ける藤島和弘(ふじしまかずひろ)さん(35)も、その一人。現在は弘前市を拠点とする演劇ユニット「一揆の星」の代表を務め、劇作家と演出を担当している。地方の演劇を探求し続ける、藤島さんに話を聞いた。

地方の劇団で学んだ、演劇の力

秋田県の北秋田市(旧鷹巣町)に生まれ、秋田県立能代高校の演劇部で演劇を始めた藤島さん。2007年、弘前大学への進学を機に弘前へ移り住んだ。進学先を選んだ理由の一つに、「地域劇団の雄」と評された弘前劇場の存在があったという。

「弘前劇場の作品は当時テレビの深夜放送でも放送されていて、秋田にいる頃からよく見ていました。入学後、最初は大学の演劇サークルに入部したのですが、大学2年生の時に客演として初めて弘前劇場の作品に出演し、それをきっかけに弘前劇場にも入団しました。」

弘前劇場の演劇にかける情熱はすさまじかった。所属する劇団員はそれぞれ働きながら活動していたが、表現に妥協することはなく、稽古は濃密で時に辛いものだったという。藤島さんはその中で、津軽という地方から演劇に向き合う意味を、全身で学んでいった。「地方にいることによるコンプレックスや悔しさなどのネガティブな感情を、演劇によって力に変えていた」と、藤島さんは語る。

「弘前劇場の演劇は、津軽のじょっぱり(意地っ張り)の精神を固めて、ダイヤモンドにしたようなものでした。作品に関わる中で僕自身も、地方にいることの意地を持たねばならん、と感じるようになりました」

劇団の裏方手伝いもしながら、弘前劇場で数々の作品に出演した藤島さん。大学を卒業して弘前の企業に就職した後も、働きながら演劇活動を続けた。しかし、その後劇団の体制の変化などもあり、2014年に藤島さんは弘前劇場を退団した。

都会と地方で対比されたもの

しばらくの間は演劇の活動から離れた藤島さんだったが、街中で演劇仲間と偶然再会したことをきっかけに、再び活動を始める。2016年に青森市の劇団「空間シアターアクセプ」に加入し、俳優や脚本などを担当した。

その後、2018年からは結婚を機に3年ほど東京へ移住。東京でも、学生時代の演劇サークルの仲間と共に公演を行った。住む場所や自身の生活が少しずつ変わりながらも、演劇には関わり続けた。

そして2021年の夏頃に、再び弘前へ戻った藤島さん。移り住んですぐの頃、知り合ったりんご農家に誘われ、ちょうど繁忙期だったりんご畑の収穫手伝いに通った。しばらく東京に住んでいたことで、弘前の山里に広がるりんご畑で見えた景色が、これまでになく新鮮に映ったという。

「東京にいたことで都会と地方の対比が明確になり、改めて見えてくるものがありました。例えば、りんご畑では木から落ちたりんごが地面で腐って、酸っぱい匂いがしてきて、そこに虫や動物が寄って来て、土地の栄養になる。生と死が繋がっている。こういう場面は、都会では感じられないものでした」

このりんご畑で働いた3か月ほどの体験が、その後の演劇の創作活動にも大きく影響している、と藤島さんは語る。地方にいるからこそ表現できるものがある、という想いが強まり、その後の作品づくりに活かされていった。その年の12月には、りんご畑で過ごした体験を元にした脚本を書き下ろす。こうして、弘前での藤島さんの演劇活動が再び始まっていく。

地方からかっこいいものを作りたい

2022年秋、東北六県を横断する演劇イベント「みちのく演劇フェスティバル」への参加をきっかけに、演劇ユニット「一揆の星」を立ち上げた。藤島さんは一揆の星の代表を務め、劇作家と演出を中心に活動している。メンバーには古巣を同じくする弘前劇場出身者や、芸能事務所に所属し東京と青森2拠点で活動する俳優、50代で演劇を始めた現役公務員など、個性豊かな面々が同志として集まっている。

地域住民へのインタビューを繰り返して作り上げた公演や、演劇の手法を用いたワークショップの開催など、設立2年目ながら活動の幅はどんどん広がっている。今後も演劇をずっと続けていきたい、と語る藤島さん。

「都会と比べて不利なところがある地方で、かっこいいものを作ることにこだわりたい。演劇をこれからもずっと続けて、いい作品をたくさん作って、人がうなるようなものを生み出していきたいですね」

ライター:鎌田祥史

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