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演歌歌手・琴けい子氏が『希望(のぞみ)』を持って全国の刑務所を巡る理由

約40年にわたって演歌歌手として活躍し続けている琴けい子氏。芸能活動と並行して、長年にわたって力を入れてきたのが全国の刑務所を巡るボランティアだ。刑務所に対して、どこか仄暗いイメージを抱いてしまう人も少なくないだろうが、琴氏の口から出る言葉は非常に愛に満ちたものだった。刑務所での慰労活動を絶えず続け、日本にある全77ヶ所すべての刑務所に足を運ぶことを目標として掲げている、その想いの深層に隠れた真相にせまる。


ー簡単な自己紹介や略歴を教えてください。

(演歌歌手の琴けい子さんとその歌を聴く青森刑務所の受刑者たち)

生まれは青森県の南部町です。1981年に出場した歌謡選手権大会でグランプリを獲ったことがきっかけで、演歌歌手としてデビューしました。現在は千葉県の浦安市を拠点に活動しています。

デビュー後、北島三郎さんなどの師匠としても知られている船村徹先生の門下生となりました。他にも、有能なマネージャーとの出会いなどもあり、デビュー直後からレコードを発売したりCMに出演したりと、さまざまな縁に恵まれてここまで歌手活動を続けることができました。

また、デビューした頃から今に至るまで、全国の刑務所を巡る慰労活動を続けています。元々、船村先生がこの活動に精力的に取り組まれていたことがきっかけです。受刑者の前で歌を披露するほか、埼玉県にある川越少年刑務所では「篤志面接委員(とくしめんせついいん)」という外部講師の役割も担っています。

普段の慰労活動の際は講堂のような場所でショーを行いますが、篤志面接委員は教室の中で受刑者の子どもたちに向けて話をします。歌も歌いますが、皆と気軽にコミュニケーションを取れるような空気づくりを大事にしていますね。

長年携わってきたこの慰労活動を評価していただき、2015年に当時の法務大臣から感謝状をいただきました。ここ数年は新型コロナウイルスの影響でなかなか刑務所を訪問できませんでしたが、基本的には月に1〜2割ほどの割合で慰労活動を行うようにしています。篤志面接委員としては、2ヶ月に1回のペースで川越少年刑務所を訪れています。


ー全国の刑務所での慰労を行っている理由は?

青森刑務所の受刑者たちと演歌歌手の琴けい子さん

どこの刑務所に行っても、受刑者の皆さんはとても温かく出迎えてくれます。歌を披露すると、大きな拍手をしてくれたり、「いいぞ!」と声を上げてくれたり、反応は思っている以上にさまざまです。初めて刑務所を訪れた時は少し緊張しましたが、特別に身構える必要はないのだとすぐに思うようになりました。

私の持ち歌で「希望(のぞみ)」という曲があるのですが、こちらは刑務所での慰労活動を通じて、船村先生が感じたことを元にして作ってくださった曲です。

“ここから出たら 母に会いたい
おんなじ部屋で ねむってみたい
そしてそして 泣くだけ泣いて
ごめんねと おもいきりすがってみたい”

これは曲の一節ですが、私が歌うと、受刑者の皆さんはほろほろと静かに涙を流されます。おそらく、塀の外にいるご家族や大切な人のことを想って、切なさや恋しさが自然と溢れてしまうのでしょう。皆さんのそんな反応に触れると、歌を届けることの意義を刑務所という場所でも痛感できます。


ー慰労活動で苦労した点や嬉しかったことはありますか?

演歌歌手の琴けい子さんの歌を聴く青森刑務所の受刑者たち

各地で公演を行った際、出所された方が「琴さんに会いに行きたい」と足を運んでくださることがあります。「以前自分は◯◯刑務所に入っていて、その時琴さんが慰労で来られて…」と、周りに人がいても、私だけをまっすぐに見て律儀に挨拶してくれるのです。

刑務所の中で聴いた私の歌を覚えてくれていて、時を経て再び会えることも嬉しいですし、新たな人生へ足を踏み出すために頑張っていらっしゃることを直接伝えてくれるのも、また喜ばしいことです。前を向いて生きていく力に少しでもつながっているのであれば、刑務所の慰労活動は出所後の再犯防止に確かに寄与していると信じ続けています。

慰労活動に対して誹謗中傷を受けたことはこれまで一度もありません。「どうして刑務所に行くの?」と不思議がられたことは何度かありましたが、長い間足繁く訪れている私の姿を見て、「自分も行ってみたい」と逆に興味を持たれるようになりました。周囲の目が少しずつ優しいものになっているという点でも、塀の中と外の垣根を低くする役割を自分が担えているのかなと思っています。

慰労活動のなかで「苦労したな」「大変だったな」と感じたこともあまりないです。ただ、川越少年刑務所の篤志面接委員を依頼された時は、自分に務まるのだろうか…と、夜眠れないくらい不安になりました。それでも所長さんが「そこにいる受刑者の子どもたちは母親のような存在を求めているから、母になった気持ちで穏やかに接すれば大丈夫」とおっしゃってくれて、思い切って臨んでみたらあまりにも素直な子たちばかりで、良い意味で驚きました。


ー今後の目標やビジョンを教えてください。

慰労活動での感謝状を受け取った際の記念撮影
(慰労活動での感謝状を受け取った際の記念撮影)

慰労活動を始めた時から通算すると、現時点(2023年8月)で69ヶ所の刑務所を回ってきました。まず大きな目標として、日本全国77ヶ所すべての刑務所に足を運ぶことを目指しています。この慰労活動はボランティアなので交通費も宿泊費も自己負担ですが、それでも私は歌を通じて受刑者の皆さんとふれ合うことをやめたくはありません。この先もずっとずっと続けていきたいと思っています。

また、歌を歌うことは、1人ひとりに想いを届けることだとも考えています。私はデビュー当時から、公演に足を運んでくださったお客様に直筆のお手紙を欠かさず贈ってきました。もうかなり長く応援してくださっているお客様もいて、お手紙も大切にとっておいてくれています。人と人との縁を切らさずにつなげていくためにも、こういった小さな心遣いは引き続き自分のルーティーンとして続けていきたいです。

慰労活動や芸能活動を長く続けていくためにも、まず大前提としていつまでも元気でいなければいけません。声はおかげさまでまだ出ていますが、年齢のことも考えて、健やかな身体を保つことをより意識していきたいですね。


(プロフィール)

演歌歌手
琴 けい子(こと けいこ)

1981年デビュー。代表曲「希望(のぞみ)」「なみだの舞扇」「雪国恋歌」「男の花道」「おけいちゃん音頭」ほか多数。芸能活動と並行して、全国の刑務所を巡る慰労活動にも積極的に取り組んでいる。この長年の慰労活動を讃えられ、2015年には上川陽子法務大臣から感謝状を授与された。


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