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広めたい点字とゲームの輪

先日友人家族とトランプのばば抜きをして遊ぶ機会がありました。視覚障害があるなしにかかわらず、就学前の子供から50代の男女まで、同じゲームを楽しみ大いに盛り上がりました。世代を超えて盛り上がることができた理由としては、もちろんばば抜きというゲームの持つ魅力のおかげというのもあるのですが、実はそればかりではなく、そのトランプが点字トランプだったということも大きかったようです。

特に4歳と7歳の子供にとっては、初めての点字の触感や点の数や配置の違いで文字や数字が表せるという事実はかなり衝撃的だったようです。私が指で点字を読み取るのを見て、2人して私の指にどんな仕掛けがあるのかと入念に調べ、大きさ以外には特に自分たちの指と変わるところはなさそうだと知ると、今度は自分たちも指で点字が読めるようになりたいと、目を閉じて熱心にカードの点字を触っていました。

来年2025年は、ルイ・ブライユ氏が点字を考案して200年になる年です。それに先駆けて、今年は現代点字の生みの親であるルイ・ブライユ氏、またそこから日本点字を考案した石川倉次氏に感謝し、改めて点字の大切さを分かち合い広める講演会やイベントが各地で開催されています。

私が始めて点字に触れたのは、たしかまだ就学前のことでした。当時は、触って確認できる点字の学習のための補助具のような商品はほとんど販売されておらず、子供たちの必要性に応じて学校の先生方が手作りで準備してくださっていました。私が使っていたのは、1マスに6個の穴があけられ、マス間も分かるよう工夫して作られた木製の物でした。板にあけられた穴に1本ずつ自分でリベットを差し込んで点字を作り出し、まるでゲーム感覚で楽しく50音の形を覚えたことを懐かしく思い出します。

見えている方が点字を目で見て読み書きできるようになることは、一覧表を使えばそう大変なことではありません。しかし、視覚障害者がその技術を習得し自由自在に使いこなせるようになるためには、学び始める年齢にもよりますが、かなりの覚悟をもって根気強く鍛錬を積まなければならず、途中で挫折してしまう方も多くいらっしゃいます。ただ、そこまで完璧に読み書きができなくても、点字を活用できる機会、点字で楽しめる機会はたくさんあります。

まず、点字を活用できる機会としては、CDや書類、缶詰や瓶詰め、レトルト食品などに種類別に触って分かりやすい点字のシールを貼り付けて整理すれば、自身で持ち物の管理が容易にできるようになります。ここで使う点字は、正式な6点点字でなくても、自分だけがわかる点字の記号でもいいわけです。また、点字を使って楽しめることとしては、使用される文字数が限られているゲームはとてもおすすめです。点字を付している分、カードの一部に厚みが出てしまうために、カードがきりにくいなどちょっとした使いにくさを生じることがあるかもしれませんが、晴眼者と視覚障害者が一緒にゲームで盛り上がり楽しむことができるようになるのです。

私の知り合いの中途失明者の方は、マージャンをやりたいという強い意志のもと、それに使われている文字を点字で読めるよう努力をされました。その結果、点字シールを貼られたマージャン牌をすばやく正確に読み取れるようになったのです。(マージャン牌以外の点字はあまり読めないようですが。笑)また、視覚障害者の訓練施設である私の職場でも、点字の紹介にトランプを使用すれば、少ない文字を覚えることでカードの判別ができるため、訓練プログラムとして取り入れることを希望された方がいらっしゃいました。実際に短期間で達成感を実感していただけたようです。この二つの例を見ていただいても、点字を学ぶとき、すべての段階をクリアしなくても、点字を学んだことで得られる楽しさを実感していただけることが分かります。

私はこれまでの自分の経験から、カードゲームを活用して点字を普及させることに関心を持っています。ただ、最近はゲームもスマートフォンやパソコンで楽しむ時代になり、点字図書館などで販売されている点字を付したカードゲームも、昔はいろいろな種類のものがあったのに、現在ではトランプとウノくらいになってしまいました。最近はボードゲームやカードゲームが隠れたブームだそうで、面白そうなゲームがたくさん販売されています。そのなかには晴盲の隔てなく楽しめるものもいろいろありそうです。そうしたゲームを発掘して、点字を付すことで、楽しく点字とゲームの輪を広げていけたら、そんなことを夢見ている今日このごろです。

文:大沼 美紀

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