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【空白の5マイル】読書感想文

【今回紹介する本】

空白の五マイル チベット、世界最大のツアンポー峡谷に挑む (集英社文庫) 角幡唯介著

【感想】

これは休日の昼下がりにスタバで読む本ではなく、1人寂しい静かな夜に冷蔵庫がウーンと唸る音を聴きながら向き合う本だ。

話の内容も、1人の男が修行僧のように自分の精神性を突き詰めていくものだ。

私が筆者の角幡唯介を知ったのは、新宿の紀伊国屋のノンフィクションコーナーに平積みにされた「極夜行」だ。

これはまだ冒頭ちらっとしか読んでないのだが、めちゃくちゃ面白そう。近々読むとしよう。

今回『 空白の5マイル』を読もうと思ったのは、エンタメノンフィクション作家の高野秀行さんと角幡唯介さんの対談本『 地図にない場所で眠りたい』がきっかけ。早稲田大学の部活の先輩後輩繋がりとのこと。

コミカルな文体の高野さんとはうってかわって、今回の筆者の文体は真摯で息が詰まるほどに重かった。

早稲田大学の探検部で活動していた男が、卒業後も未知の開拓というロマンを頑なに追い続けて、チベットの謎多き峡谷にいたる話。

筆者自身の峡谷の探検に、その峡谷に過去に挑んだ世界の探検家や、峡谷の激流で不慮の事故を遂げた先輩の話を織り交ぜながら進んでいく。

私も、何を好き好んでチベットに、と思っていたのだが、峡谷をめぐるミステリーと筆者の真摯な探究心に、次第に緑の深い峡谷と正対していることに気付かされる。

鬱蒼とした薮の中をかき分ける風景描写が続く序盤に少し気疲れしていたが、後半になり生死の淵を彷徨う筆者の葛藤やスリルにページをめくる手も早まる。

誰もいない森の中を24日も強行する本は、静けさの中で読むべきだろう。

至るところに男子学生とでもいうか、粗野でいて力強い表現が見られる。己を突き詰める切迫感も気難しい思春期のようだ。
部活に明け暮れ、気難しさゆえに自分や他人の甘さが受け入れられなかった中高生の頃、何者かになりたくて何にでも挑戦したかった大学時代を思い出した。

そんな本だった。

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