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用途変更 ( コンバージョン ) のお仕事(2) | 東京デザインピーエム

現在、首都圏で手がけている研究所から大学へ用途変更( コンバージョン )を行っている建物を例として、注意点などを述べたいと思います。

既存建物は築30年程の鉄筋コンクリート造で、用途は研究所・ホテル、床面積が20,000m2程の大規模物件です。
ホテルは一般利用のものではなく、研修施設として利用するためのもので、プールやフィットネス機能なども併設されています。
バブル期に建てられた贅沢な造りとなっていて、当時の建築雑誌に掲載されていたほど贅沢でデザイン性を優先させた建物です。
大手ゼネコンによる設計施工でしたが、現代の建築の常識に当てはめてみると無駄な部分が多くあり、建物もデザインや工法のトレンドがその時々にあるので、今となっては贅沢な割りに機能性が伴っていないと言わざるを得ない建物です。

大学に用途変更するにあたり最初に確認する事は、既存建物の工事完了検査済証があるか、今回は検査済証があるので、次は建築確認申請に適合するコンバージョン計画にできるかどうかの当たりをつけるために、既存図を読み解いて大学案のラフ図を作成し、関係する行政機関と下協議します。
建築基準法や消防法などの法律に適合させるためのものですが、首都圏では法律よりも条例の方が厳しい部分があるので役所への相談は念のためにしておく必要があります。
避難規定などの表面的な部分の検討もそうですが、用途変更( コンバージョン )の大きな検討ポイントは構造と設備(給排水・空調・電気・ビル管理システム等)です。

構造的には、研究所と大学は建物の荷重設定が同程度になっているのですが、ホテルの客室とでは大学の方が荷重が重くなってしまう傾向にあるので、この部分は大学の教室として利用するのが困難になります。
よって、大学のメインゾーンとして使えるところとそうでないところをすみ分けしてプランを作成します。

↓ 積載荷重(日本建築構造技術家協会サイト)
https://www.jsca.or.jp/vol5/p4_4_tec_terms/200506/20050623.php

何と言っても一番の難点は設備の更新でしょう。
既存設備を使いつつ、大学の機能に合わせた設備を新設しますが、既存図面が手書きのバブリーな設計で図面を読み解くのもかなり難儀します。

設計と並行して、外壁や防水などに併せて設備機器の劣化状況も調査しますが、特に設備機器の現状把握は困難を極めます。

今回は築30年程経過して設備の更新時期を迎えており、特に給湯ボイラーなどの熱源とビル管理システムの更新が大きな問題となり、これらの設備は莫大な更新費用を要する事になりました。
設備は基本的に見えない部分に配してあるので、設備更新する際には壁や天井も解体せざるを得ず、内装工事もそれなりのコストを要します。

用途変更( コンバージョン )と一言で言っても、既存の用途や建物によって設計や工事の手法が大きく異なりますし、設計図では読み解けない開けてびっくり玉手箱のような設備や障害物があるものなので、工事の予算組みをする際には予備費をいくらか計上しておかないといけません。
最初にコストを明確にしづらい事が用途変更( コンバージョン )の工事の課題かも知れません。

今回は既存建物が研究所・ホテルという設備が多く複雑な用途なので、一般の用途変更( コンバージョン )に比べて全体の設備費が高くなる傾向にあり、言い換えれば、設備が複雑でないオフィスビルなどからの用途変更( コンバージョン )であれば、既存設備の改修や更新費用が抑えられる傾向にあるという事です。

私は以前に小規模な築15年程のオフィスビルをカラオケボックスに用途変更する仕事なども手がけてきましたが、その際は既存設備へのコストは比較的抑えられたので、既存の用途によって改修内容も大きく異なってくるのです。

オフィスビルからカラオケボックスにするのと、研究所・ホテルを大学にするのとでは、同じ用途変更( コンバージョン )でも仕事の難易度や建設コストが全く違ってくるので、このような制限の中でいかにマネジメントするか、デザインするかと言う力量が大きく問われるのだろうと思います。

既存建物の建設当時の設計トレンドを把握しながら、現在の建設事情にも考慮して設計・工事監理する必要があるので、用途変更( コンバージョン )は経験がものを言う典型的な建設カテゴリーだと言えますし、建物の竣工後10年、20年、30年と、それぞれの時期によってコンバージョンのための工事内容は大きく異なります。

新築時は意匠や構造の設計がフォーカスされがちですが、中長期的なスパンで建築物を考えてみると設備設計がいかに重要かわかると思います。
建物を所有するお客様にとって、建築設備とどう付き合っていくかは重要な問題なので、建築設計する際には設備設計者がもっとフォーカスされるべきだと思います。
特にこれからは情報イノベーションによって、建物の在り方が激変していくので、ビル管理システムを含めて柔軟に変化できる建築にしていく必要があると思います。

その建物は未来に向けたデザインがされていますか?

されていれば将来のリノベーションやコンバージョン工事の費用は抑制できますし、されていなければ莫大な支出が必要になると言うことです。

マニアックな内容の記事だったと思いますが、建築も多様性が求められる時代になっていると言えるでしょう。

Tokyo Design PM Inc. フネイ リーチェン


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