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横着者のための『新スター・トレック』シリーズの歩き方

 日本でもいよいよAmazon・Primeビデオで配信される『スター・トレック:ピカード』はかつて放送されていた『新スター・トレック』(1987年~94年)のピカード艦長を主役にした、実に四半世紀ぶりの「続編」である。
 その配信が開始される前に『新スター・トレック』シリーズの「文脈」を最短で理解したい「横着者」の皆さんのための「歩き方」ガイド。下記の3つの方針で書き進めます。

・『新スター・トレック』関連のドラマ・映画のみを論じる(特に必要性がないかぎり、他のシリーズには触れない)
・合計視聴時間を24時間(人生のたった1日!)以内に収める
※単純にドラマ1話を1時間、映画1作品を2時間として計算する
・シリーズが「文脈」がわかる作品を選択する(ほかにも「名作」はたくさんある)

 現時点で『新スター・トレック』を観るには、Netflixやケーブルテレビに加入する、あるいはDVDボックスを買うしかない。DVDが全部レンタルできる店はかなり少ないと思われる。それを踏まえ、また全178話にもなるシリーズの「文脈」を効率的に探るために、ここでは「前後編」となっているエピソード10本(話数にすると20話)と劇場版4作品のうち2本を取り上げることにする。
「前後編」のエピソードはそれぞれ独立してDVD化されてもいるので、比較的レンタルしやすいはずである。ただし、『新スター・トレック』はリマスター版(特撮シーンのリメイクもしている)があるので、Netflixかケーブルテレビで観るのがベストだろう。

①第1・2話「未知への飛翔」(シーズン1)
 主要メンバーの紹介に加えて、その後も幾度となく登場する「Q」(特殊な「連続体」に属する異星人だが、人間の姿で登場する)という“トリックスター”がいきなり重要な役割を演じる。初航海に出る「エンタープライズD」が「円盤部」を切り離す珍しいシーンや、ラストのSFらしい「センス・オブ・ワンダー」も面白い。オリジナルシリーズのドクター・マッコイが“137歳”の提督としてゲスト出演する。

②第74・75話「浮遊機械都市ボーグ」(シーズン3・4)
 いきなりシーズン3の最終話まで飛んでしまうが、このエピソードでシリーズ最大の敵「ボーグ」が登場してからが、真の『新スター・トレック』といっていい。しかも前編でピカード艦長は「ボーグ」に同化させられてしまう。そこからどう彼を救出するかが後編のテーマであり、同化された経験はその後、大きなトラウマとして残ることになる。

③第100・101話「クリンゴン帝国の危機」(シーズン4・5)
 オリジナルシリーズで最大の敵だった「クリンゴン帝国」とこの時代は和平が結ばれ、エンタープライズにはクリンゴン人ウォーフが配属されている。地球人の養父母に育てられた彼は、かつての「ミスター・スポック」と同様、二つの文化の狭間に生きる存在で、「クリンゴン・サーガ」とも呼べるエピソード群を形成する。その重要な1作である。

④第107・108話「潜入!ロミュラン帝国」(シーズン5)
 ここでは「ミスター・スポック」が登場。バルカン人の彼が、惑星連邦とは中立地帯を設けて対立しているロミュランとの再統一を目論む話である。彼を助けるためにピカードはクリンゴン戦艦を借り、ロミュラン人にまで変装をして敵地に乗り込んでいく。

⑤第126・127話「タイム・スリップ・エイリアン」(シーズン5・6)
 19世紀の地球を舞台にしたタイムスリップもの。ここではシーズン2から準レギュラーとして登場した艦内バーラウンジの女主人ガイナン(演じるはアカデミー賞女優のウーピー・ゴールドバーグ)とピカードとの「本来出会う前の出会い」という奇妙なシチュエーションが描かれる。非常に寿命が長い異星人だからこそ、こういう展開が描けるのだ。

⑥第136・137話「戦闘種族カーデシア星人」(シーズン6)
 シェークスピア俳優でもあるパトリック・スチュアート(ピカード役)の熱演が楽しめる一編。カーデシア人は『新スター・トレック』と並行してはじまった『スター・トレック:ディープ・スペース・ナイン』で重要な役割を担う人種で、本来は2つのシリーズのクロスオーバーを予定していたらしい。

⑦第142・143話「バースライト」(シーズン6)
 ウォーフを描いた「クリンゴン・サーガ」の1本であり、同時にもう一人の重要なキャラクターであるアンドロイドのデータの「出自」にまつわる話でもある。有能なアンドロイドだが「感情」を持たされていない彼は、「ミスター・スポック」が担っていた、もう一つのテーマ(つまり「論理」と「感情」)をまさに“体現”している。

⑧第152・153話「ボーグ変質の謎」(シーズン6・7)
 タイトル通り、最大の敵「ボーグ」に起きた変質が描かれる。『新スター・トレック』で彼らが描かれるのはこれが最後で、以後は「劇場版」と『スター・トレック:ヴォイジャー』に引き継がれる。本作で「ブルー」と名付けられたボーグは『ピカード』にも再登場するらしい。一方、データはここで「エモーショナル(感情)チップ」を手に入れることになる。

⑨第156・157話「謎のエイリアン部隊」(シーズン7)
 チェックが必須のエピソードではないが、ピカードと副長のライカーがつづけて行方不明になったあと、階級的に艦の指揮を執ることになったデータとウォーフが描かれて、キャラクターの成長が感じられる一編。またピカードとライカーが敵対しなければならない状況に置かれる展開も面白い。

⑩第177・178(最終)話「永遠への旅」(シーズン7)
 堂々の最終話。しかもこの時点での「25年後」のピカードが登場する。まさに『スター・トレック:ピカード』における彼と同じ年の姿が25年も早く描かれていたわけだ。しかも今回の事件を引き起こすのは第1話に登場した「Q」であり、物語としてもきちんと円環を閉じている。

⑪劇場版第7作『ジェネレーションズ』(1995)
 これまでに全13作ある「劇場版」のなかで『新スター・トレック』のメンバーが登場するのは第7~10作までの4本。しかもここではオリジナルシリーズの「カーク船長」が満を持して登場し、主役の交代が描かれ、さらには「エンタープライズD」から「E」への世代交代も図られる。

⑫劇場版第10作『ネメシス』(2002)
 現時点での『新スター・トレック』の「完結編」。ピカード自身にとって大きな意味を持つシンゾンという敵(演じているのはトム・ハーディ)が登場し、データにとって重要な事件が起きる。正直なところ「完結編」と呼ぶには不十分な出来栄えだったが、これも『ピカード』への壮大な伏線だったと考えれば、きっと納得できる結果になるだろう。

 最後に余裕があれば1エピソードだけ第63話『亡霊戦艦エンタープライズC』を観ておくといい。これを観ると、これまでに紹介した「前後編」の何作かがより楽しめるし、『ジェネレーションズ』と合わせて「エンタープライズ」の「B」「C」の雄姿を確認することができる。

 以上、12作品24時間(全作品では150時間近いので圧縮率約6分の1)をチェックすれば『新スター・トレック』32年の「文脈」をざっくりと理解することができる。ぜひともそこまで準備した上で『スター・トレック:ピカード』をお楽しみください。

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