ブラオケ的名曲名盤紹介〜マニアックな世界へようこそ…〜 #3「銅鐸」

 1000年以上も昔の音楽がどういうものか、興味はあるだろうか?現在良く知られているクラシック音楽であっても、大抵の音楽の授業では、17世紀初頭から18世紀半ばまで流行したJ.S.バッハなどのバロック音楽以降からしか学ぶことが出来ず、それ以前の音楽というのは未知という人が多いと推察される。日本においては、雅楽や能など、様々なジャンルの伝統音楽が発展してきたが、それも平安時代や室町時代の頃に成立した音楽であり、さらに昔の音楽となると案外知られていない。今回は、約2000年前の弥生時代に製造された楽器『銅鐸』をテーマに、銅鐸を使った音源があるので紹介したい。

 そもそも、銅鐸とは何だろうか?未だ解明していない点が多々ある状況ではあるが、銅鐸というのは弥生時代に製造された釣鐘型の青銅器であり、紀元前2世紀から紀元後2世紀の約400年間に渡って使用された楽器である。表面には農耕生活を象徴したものが描かれており、当時、日本で初めて米作りが行われた時代という背景を鑑みると、豊かな実りを願う村全体の祈りのための農耕祭器として使われたのではないかと言われている。なお、銅鐸の鳴らし方は、梵鐘のような胴体部の外面を叩く方法とは違い、西洋の鐘のように、内側から叩く方法に依るとされている。

加茂岩倉遺跡出土の銅鐸(Wikipediaより)

 現在では500例ほどの銅鐸が出土しているが、通常の打楽器に比べて圧倒的に少なく、希少価値も高く、壊れるリスクもあるので、気安く叩くことは出来ない。従って、銅鐸がどういった音を放つのかは、真の意味では誰も分からないというのが実情ではあるが、打楽器奏者の土取利行氏が、その謎を紐解く活動を行い、録音までしたという事例がある。銅鐸の研究者たちとタッグを組んで、銅鐸の成分である銅、錫、鉛から成る合金を、3つの金属の合金比率を変えて21種類の銅鐸を復元鋳造し、それを打楽器としたのだ。その銅鐸を使った録音は、昭和58年4月7日に奈良県の畝傍山山頂にて行われ、以下の作品が収録されている。なお、一部は銅鐸ではなく、弥生笛や銅鼓による演奏となっている。


1. 湛 [たたえ] :銅鐸
2. 流水 [りゅうすい] :銅鐸
3. 畝傍 [うねび] :銅鐸
4. 気吹 [いぶき] :弥生笛
5. 雷神 [らいじん] :銅鼓
6. 黎明 [れいめい] :銅鐸

 実際に聴いてみると、確かに複数の銅鐸を打ち鳴らしている。梵鐘とは違い、短い時間で何度も音が発せられるため、何度も銅鐸の響きを楽しむことが出来るのだ。梵鐘に比べて高い音ではあるが、梵鐘と同じく、打つ瞬間の音から、その余韻が消えていくまでの一連の流れをじっくりと大音量で聴くと、様々な銅鐸の音響性が複雑に絡み合い、その物理現象に感動せざるを得ない。尤も、銅鐸は梵鐘と比較すると圧倒的に小さいので、残響中の倍音の豊富さも梵鐘ほどでは無いが、金属の配合比が異なる複数の銅鐸から放たれる響きの交錯は非常に趣深いものがある。CDの解説書によると、録音の終盤(明け方)においては、銅鐸の音に呼応して鳥が鳴きだし、暫くすると、何羽もが激しく頭上を飛び交い、同時に幾種類もの小鳥の合唱が湧き起こり、演奏の最後を盛り上げてくれた…とコメントされている。演奏者である土取利行氏も、演奏が終わった後は「私の身体は軽かった。そして明け方、さえずり戯れる小鳥の声がとても新鮮にきこえた。」と感じられたようだ。

 2000年前の弥生時代では、このような響きを農耕祭器として活用していたと考えると、非常に感慨深いものがある。現代では、様々な楽器を組み合わせることで、多種多様な響きを簡単に実現出来てしまう時代ではあるが、弥生時代のように、現代ほどたくさんの音が無い時代においては、1つの音色に対する意識の違いは明らかに大きいと思われる。そういった意味で、初心に返らされるCDでもある。今では廃盤となっているので、ヤフオクなどでしか入手出来ないと思われるが、興味ある人は是非とも銅鐸の音響性の奥深さを実感して頂きたい。

(文:マエストロ)

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