ブラオケ的クラシック名曲名盤紹介 〜オケ好きの集い〜  #6 『交響曲 第4番『ロック交響曲』 / I.カルニンシュ』

 今回は、イマンツ・カルニンシュの『ロック交響曲』を紹介したい。

 ところで、クラシック音楽の変遷というのを、これまで考えたことがあるだろうか。小学校や中学校の音楽室を思い起こしてみると、大抵の学校では、左から順番に古い作曲家の肖像画が飾られており、通常はバロック初期に活躍したヴィヴァルディの写真が一番左に飾られていることが多いであろう。『いやいや!私の出身校は先生がマニアックだったので…』という人が居れば、もしかするとルネサンス音楽の時代に活躍したギヨーム・デュファイの写真が一番左に飾られていたかも知れないが、これは相当イレギュラーなので、とりあえずバロック音楽以降に話を絞る。そうすると、恐らくヴィヴァルディの右側には、他のバロック時代の著名な作曲家としてのバッハやヘンデルの肖像画があり、その更に右側には、古典派のモーツァルトやハイドン、ベートーヴェンの肖像画があり、その更に右側には、ロマン派のブラームスやシューマン、ショパン、チャイコフスキー、マーラーなどの肖像画があったであろう。このバロックから後期ロマンまでの作品というのは、まさにクラシック音楽の変遷を知る上では非常に分かりやすい時代である。言わば、和声法や対位法といった音楽理論の基本となる部分を忠実に守った古典派の時代から、古典的な楽式論や和声などから良い意味で脱却して壮大な作品を仕上げた後期ロマンの時代に至るまでの響きの変遷というのは、教育的な観点から考えても非常に理解しやすい。

 ところが、その更に後の時代の作曲家になると、クラシック界隈に居ない人にとっては、途端に名前すら聞いたことの無い作曲家で溢れ始める。当然のことながら、これら作曲家の肖像画が飾られている音楽室というのも非常に稀である。もしかすると、ドビュッシーの肖像画はあるかも知れないが、ショスタコーヴィッチやガーシュウィン、さらに後のジョン・ケージなどの肖像画などは、相当な想いを持っている先生で無い限り音楽室には飾らないであろう。勿論、これらの作曲家は決してマニアックな作曲家ではなく、クラシックの世界においては非常に有名な作曲家であるが、実はこのロマン派よりも後の作曲家の中には、これまでの偉大な作曲家たちが培ってきたクラシック音楽に対して、新たなジャンルを取り込んで新しい響きを生み出した作曲家が多く居るのだ。例えば、ショスタコーヴィッチのジャズ組曲は、クラシックとジャズを融合させた作品として世に出しているし、ガーシュウィンもラプソディ・イン・ブルーなどでジャズの要素を取り込んでいる。リーバーマンに至っては、ジャズバンドとオーケストラを共演させる『ジャズバンドと管弦楽のための協奏曲』という作品を生み出しており、良くも悪くも無限の可能性を感じさせてくれる。一方、ジャズ以外においては、例えば、ガーシュウィンのキューバ序曲は、キューバのルンバのリズムを取り込んで、上手くクラシックとルンバを融合させているし、各国独自の楽器(二胡やシタールなど)を活用した協奏曲で新しい響きを生み出しているケースも多々ある。

 数百年前までのクラシック音楽の変遷を見ても、後期ロマンまではある意味分かりやすい変遷ではあるが、それ以降においては、十二音技法であったり、特殊奏法による効果音の活用や、科学技術の発展に伴い生まれたオンド・マルトノやテルミンなどの活用など、それぞれの作曲家がオリジナリティを追求して新しいことを積極的に導入しているため、蚊帳の外に居る人にとっては、もはや何が何だか分からないというのが本音であろう。そんな中でも客観的に聴いて特に分かりやすいのは、クラシック音楽とその他のジャンルとの融合だと思う。今回ご紹介させて頂く『ロック交響曲』というのは、まさにクラシックとロック音楽を融合した作品であり、かなりマニアックな部類に属するが、是非知って頂きたい作品でもある。

 さて、イマンツ・カルニンシュは、1941年にラトビアで生まれた作曲家であり、ラトビア国立音楽院で作曲を学んだあと、交響曲や協奏曲のみならず、合唱曲や映画音楽など多岐に渡る作品を世に生み出した。交響曲は全部で7つの作品を生み出しているが、一方で、ロックなどのポップス音楽を400曲以上も作曲しており、普通のクラシック音楽家とはかなり異なるタイプの作曲家と言える。1960年代には、ロックバンド『2xBBM』のリーダーを務め、旧ソ連の演奏禁止措置に対抗しながら活動するが、なんとそれだけでなく、実は政治家としての側面も持っており、ソ連からの独立運動やラトビア人民戦線に参加したり、ラトビア独立後もラトビアの議会に何度か選出されるなど、かなり精力的に政治活動をしている。今回ご紹介する『ロック交響曲』は、まさにロック魂を持った政治家が作曲したクラシック作品とも言えよう。エレキベースやドラムセットを活用した作品であり、全4楽章から成る。

第1楽章:Allegro

第2楽章:Andante tranquillo

第3楽章:Grave molto

第4楽章:Moderato rubato

 冒頭を聴くと、どこがロックなの?って思うが、確かに途中からはロックっぽい要素が出てきている。ドラムセットを使いながら只管同じようなリズムや音型を繰り返す様は、クラシックではまず聞かない。尤も、どこにロック的要素があるか?と聞かれると窮してしまうが、ドラムセットを使っていることや、金管の力強い演奏のせいもあって、とりあえず雰囲気はロック音楽っぽいのだ。第2楽章はゆったりした作風であり、分かりやすく美しいメロディが特徴的である。音の配置的に、ロック音楽で使われていると言われても不思議では無い印象ではあるため、ロックバンドでバラードとして演奏されていたら、恐らく全く違和感は無いであろう。第3楽章は第2楽章の続きみたいなイメージで、第4楽章は歌が登場する。この歌はクラシックとは言い難く、ロックバンドのボーカルが歌っていた旋律を、声楽のプロがオーケストラバックで歌ったかのような印象だ。つまり、元々はロック音楽だったのを、オーケストラアレンジしたかのような印象ということである。良くも悪くも、クラシックとロックの融合に成功したと思わせる作風である。

 本作品は、賛否両論があり、クラシックをやってきた人や、ロックをやってきた人からすると、受け入れがたい作品だと思われる。ただ、個人的には、これはこれで一つの作品として有りだと考えており、恐らくクラシックが苦手な人の方が受け入れられやすいのでは無いかと思う。幸いにも、本作品はYou Tubeでも聴くことが出来るため、是非聴いてみて頂きたい。

(文:マエストロ)

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