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ロックダウンというキーワードの罪

Facebookのタイムラインを眺めていたら現場のお医者さんの会見のビデオがあった。コロナウィルスの怖さを簡潔に説明していた。

曰く、8割の人にとっては感染しても問題がない。残りの2割にとっては確実に入院が必要、全体の5%は集中治療室に入らないと助けられない。そして怖いのは、状況が数時間で急激に悪化する。だから基本的にかかってはいけない病である。

たしかにこの病気は厄介である。感染してはいけないのも確かだが、感染しているかどうかわからないという状況がさらに厄介な状況を作り出してしまう。

昨日はオフィスで、仕事をしていて、少し、寒気を感じた。いつもなら、無理をしても大丈夫なぐらいの感じだった。でも、僕は、自宅に戻ることを選んだ。

今の仕事では、働く場所を目的に応じて選択するというやり方が可能である。ただ昨日のようにミーティングがある場合には、オフィスに出かけることが多い。

昨日もいくつかのミーティングがあったが、参加者のうちの半分が会議室、その他が、外部からというバランスだった。

着実に、リモートワークの状態はすすんでいる。

昨日の最大の話題は、ロックダウン(首都封鎖)になった時にどうするかということの検討だった。オフィスに多くの人が出入りする事業を行っているので、このロックダウンというのが具体的にはどのような形になりうるのかによっては、事業の進め方が難しい。

シンガポールは、ソフトロックダウン的なガイドラインが出ているようだ。オフィスには10人まではいてもいいとかいうように、オフィスで活動ができる人数を制限するという考え方らしい。

首都圏封鎖(ロックダウン)という時になにが起こるのか。

完全に会社に誰も来てはいけないという状態になるのかどうか。

都知事の声明では、その具体的な部分は明らかにならなかった。状況の展開によって必要な施策が変わるので仕方がないところもある。しかし、現実に彼女の言葉の中のロックダウンというキーワードだけが独り歩きすることになった。

僕たちも、ロックダウン対策を具体的に考える際に、すべての可能性のシナリオを検討することは無理だし、無益ということで、最悪のケース、すなわち、会社に誰も立ち入れなくなったときにどうするかを考えた。

いまだ紙だらけで、リモートワークが難しい管理部は、Business Continuity的な感覚で、証憑類を自宅に持ち帰って作業することができるかどうかを検討させる。外部からの問い合わせを受けるスタッフには、会社貸与のVPNにつなげることができるPCに加えて、スタッフ間での連携を可能にするためにスカイプ等を繋ぎっぱなしにするためのタブレットの貸与などを検討した。

おそらく現実には、完全に会社に立ち入りができないという状況を作り出すほどの覚悟は今の政権にはないと思うので、この最悪シナリオは現実化しないような気もする。

最悪シナリオが本当に最悪なのかと言えば、案外、前提がはっきりしているので対策は打ちやすい。問題なのは、完全ロックダウンから今の状況の間で、段階的に起こり得るシナリオの場合だ。

ビジネスというのは、そもそも自分たちだけで決められるものではない。ビジネスパートナーがいて、顧客がいる。僕たちの仕事はB2B2Cなので、多くの企業の思惑や方針が輻輳する。

実際には、そういった企業との対話の中から、実際の対処策が生まれてくることになる。今回のように突然状況が変わるような場合には、個別交渉で、方向性を探るような余裕がない。

今の政権や官僚に能力があるのならば、そのあたりのシミュレーションに基づいて、作業仮説としての一定のガイドラインを出してみてはどうかとも思う。実際、今後、ロックダウンへの方向が加速する中で、そういった政府発表があるのかもしれない。その精度はともかく、公的なガイドラインが出れば、一定の指針にはなる。

しかし官僚群が別な忖度に振り回されて、そのような本来業務で気が回るような状態でないとするならば、企業側としてできるのは、自分たちのロックダウン等に向けた備えを早めに事業パートナーに開示していくことだろう。

実際に、事業パートナー間では、今後の、事業についての方向性についての打診のコミュニケーションが行われている。ただそれは1対1のコミュニケーションである。

なんらかの形で多くの企業が自分の方針を開示する仕組みが作れれば、そのあたりの不安定さは解消できるのにと思った。

ミーティング中に思いついて、大家である大手不動産会社に対して、ロックダウン等についてのガイドラインはもう作ってるかという照会のメールを入れてみた。ロックダウンの時には、テナントに対して、どういうメッセージを出すのかと。

何か説明がダラダラしてしまったが、そんな状況の中で、寒気を感じた僕は、家に帰ることにしたのだ。

実は、僕たちが、今一番気にしているのは、自分が、先ほどのような集中治療室送りになることではなく、コロナの感染源となり、自分たちのビジネスに影響を及ぼすことなのである。

8割が大丈夫なのだから、事業は普通に遂行できる。しかし、加害者となること、加害者となることのスティグマに企業社会は怯えているのである。それが様々な形での行動の委縮に繋がっている。

この生殺しのような状況のもたらすコストは本当に大きい。



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