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多様な”かぞく” を考える 〜選択的夫婦別姓・特別養子縁組・同性婚〜

こんにちは、TRP広報局です。

今回​は、5月5日生配信した「多様な”かぞく” を考える 〜選択的夫婦別姓・特別養子縁組・同性婚〜」のトーク内容をお届けします。

動画もTRPチャンネルにて公開いたしますので、そちらもぜひご覧ください。

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2021年4月24日から5月5日まで12日間にわたってオンラインで開催された「東京レインボープライド2021」。その締めくくりとなった座談会のテーマは「多様な家族」だった。同性婚や特別養子縁組、選択的夫婦別姓など、LGBTQに限らず、すでに多様な家族が日本に生まれている一方で、法的・制度的な遅れが指摘されている。

 それぞれの当事者たちが語り合った座談会の内容を収録する。ゲストは株式会社サイボウズ取締役社長の青野慶久さん、TBS報道局記者の久保田智子さん、一般社団法人マリッジフォーオールジャパン代表理事の寺原真希子さん。モデレーターは本書の共著者の1人、杉山文野が務めた。

(座談会は長文のため、4本の記事に分割しています)

5月5日 (1)

1:同性婚、選択的夫婦別姓、特別養子縁組 多様な家族を考える

それぞれの「多様な家族」

杉山 今回のテーマは多様な家族です。個人のライフスタイルの多様化に伴い、家族の多様化も進んでいます。一方、制度や意識が追いつかず、様々な問題が起きています。本日はゲストをお招きして特別養子縁組、選択的夫婦別姓、同性婚などをもとに、家族について話していきたいと思います。
 ゲストの皆様をご紹介いたします。まず最初にサイボウズ代表取締役社長青野慶久さんです。青野さんは選択的夫婦別姓に関する裁判も起こしています。自己紹介とともに現状を共有いただけますか。

青野 私は会社経営者をしてます。情報共有サービス「キントーン」などを提供している会社で、3人で始めて今は1000人ちょっと。ずいぶん大企業になってきました。日本は選択的夫婦別姓ができない。結婚したらどちらかが苗字を変えるというルールになっていて、それはおかしいと3年前に訴訟を起こしています。東京地裁・高裁と終わって最高裁から呼び出しを待っている。そんな状況です。

杉山 ありがとうございます。続きまして、TBS報道局久保田智子さんです。

久保田 私はもともとアナウンサーをしていて、一時やめたんですね。ニューヨークに留学をしたんですが戻って、今はTBSで報道局記者をしています。若い頃に子供が出来にくいだろうと言われていて、結婚したんですが子供に恵まれない状態が続きました。特別養子縁組という制度を使って現在は2歳3ヶ月の女の子を育てています。
 特別養子縁組を簡単に言うと、様々な事情があって育てられない生みのお父さんお母さんから子供を託され、自分の子供として法律上も戸籍に実子として入る制度です。だから、実の娘として託された娘と家族として暮らしています。

杉山 最後に一般社団法人マリッジフォーオールジャパン代表理事の寺原真希子さんです。

寺原 弁護士の寺原です。私は2019年に全国5ヶ所で提起された、同性婚を認めていない現在の法律が憲法に違反することを真正面から問う日本で初めての訴訟の東京弁護団の共同代表をしています。同時に、訴訟外で同性婚に関する様々なキャンペーンを行う団体マリッジフォーオールジャパンの共同代表も兼務しています。

杉山 今日は三つのテーマを話したいと思っています。最初は、なぜ皆さん声を上げられたのか、です。東京レインボープライドの今年のテーマは「声をあげる。世界を変える。Our Voices, Our Rights. 」です。既存のルールに生きづらさを感じるなら、声を上げることでより良い社会をみんなで作っていくことは大事だよね、ということでこのテーマを掲げました。まず青野さん、何で裁判を起こそうと思ったか。お話しいただけますか。


夫婦同姓「いろんなとこで困ってる」
青野 私、本名は青野じゃないんですよ。結婚したのが2001年で、妻が婚姻届を書くときに「苗字を変えたくない」と。僕はびっくりして、普通は女性が変えるもんちゃうのと思ったんですけど、考えてみたら必ずしも女性が変えないといけないもんじゃないよなって。「わかりました。僕が変えます」となりました。会社は青野名義で上場しましたが、旧姓で働き続ける人もたくさんいるので、特に問題はないだろうと思って、戸籍上の苗字を変えました。なので青野は旧姓です。
 大変なのは改姓の手続きもですけど、使いわけです。例えば株主総会では旧姓は使えないと言われ、年に1回だけ戸籍姓でみんなの前に立つとかよくわからんことがある。契約書にサインするとき、どっちでサインを書いたらいいのかわからないから毎回法務に確認する。面倒臭いことばかりやってるわけです。おかしいと思っていたところ、夫婦別姓をめぐる裁判が起きてるという話があって、それが2015年に最高裁までいって、ようやくこれで法律が変わるのかなと思っていたら、これが棄却されたわけです。
 頭にきまして、いろいろ調べてみたら、伝統的家族観とか、いろんな理由で反対してる人がいて。いやいや、ちゃうねんと。単純に改姓するのも使い分けるのも大変だし、日本中の人たちがいろんなとこで困っとんねん。何とかしろよって思っていたところ、岡山県の弁護士さんが訴訟を考えていると知りました。訴訟にあたって名前を変えて不利益をこうむった男性が原告として必要だっていう話を聞きまして。それ、僕ですね。当時は原告が何かわかっていないけどやりますって言って裁判を起こしたのが声を上げたきっかけです。

杉山 選択的夫婦別姓に関する議論って、いつごろから起こったものなんですか。

青野 議論は私が結婚するころからあったんです。私も05年とか09年とかメディアに呼ばれておかしいですよねって話はしてたんですけど、まぁ進まなかった。

杉山 青野さんみたいに男性で声を上げる方はまだ非常に少ないんですか。

青野 そうなんです。僕が声を上げるまでは女性が女性の権利を獲得するための運動みたいに捉えられていました。日本は男尊女卑なので、ずっと無視されてきたところがある。僕が取り上げられたことで、男性でも困る人いるんだとなった。(夫婦同姓は)96%は女性が変えるっていう現実がありますからね。

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世論は賛成なのに国が認めない同性婚
杉山 今度は寺原さんに。先日、札幌地裁で同性婚をめぐって現状への違憲判決が日本で初めて出たことも話題になりました。

寺原 2019年に札幌、東京、名古屋、大阪、福岡で訴訟が始まって、札幌が一番進行が早くて今年2021年3月17日に札幌地裁で同性婚に関する日本で初めての判決が出たわけです。今の状況は憲法違反だと判断してくれた。札幌判決は画期的なんですけども、100%訴えが認められたわけではないので、札幌の原告・弁護団は控訴しました。他の4ヶ所の裁判についても、これから続々と判決が出てくる状況にあります。

杉山 寺原さん自身はなぜマリッジフォーオールジャパンという団体の代表、同性婚訴訟の弁護団の代表として関わることになったんでしょうか。

寺原 私は今のところシスジェンダーの異性愛者という認識です。同性婚によって自分が直接利益を得ることはないかもしれないですが、同性婚がないことはセクシュアルマイノリティに対する象徴的な差別だと思うんです。具体的な権利利益がないこともそうですけど、同性婚がないこと自体が、同性カップルあるいはセクシュアルマイノリティを異性カップルと同じように対応しなくていい、一段劣った存在かのような負のメッセージを国が発し続けている状態だということが問題と思ってきました。マイノリティに何か問題があるということではなく、私を含む異性愛者のようなセクシュアルマジョリティーがこの問題に無関心で差別が放置されてきた。マイノリティもそうですけどマジョリティにはこの状態を変えられる力があるし、責任もあると感じていまして、それが私の原動力のひとつです。

杉山 同性婚に賛成の方たちってかなり増えてますね。

寺原 色々な調査があるんですけど、去年12月の電通アンケート調査ですと82%が賛成です。同性婚ではないですけどパートナーシップ制度も100以上の自治体が導入し、社会の意識は高まってます。けれど国会が動いてくれていない状況です。

杉山 同性婚訴訟と選択的夫婦別姓、似てるとこもあるんじゃないかと思います。

青野 本当に似てますよね。いろんな家族があるのに法律が手当してくれてないからそれで困ってる人がいる。そこを手当てしてくれればいいだけの話なんです。どっちかが進めばね、どっちも進みそうな気がしてて、楽しみにしています。

杉山 選択的夫婦別姓に関しても賛成意見は高まっていると伺ってます。

青野 世論調査では6割から8割ぐらいは賛成と出てきます。反対する人の2倍ぐらいは賛成というデータが多いです。

杉山 同性婚に関しても選択的夫婦別姓に関しても反対される方は年代差が大きいんですよね。

寺原 夫婦別姓も同性婚も統計で20〜30代、あるいは50代ぐらいまでは明らかに賛成が大きい割合で上回ってる。けれども70代ぐらいになると、それが反転していたりということで、その方々に問題があるというより、日本社会がそう進んできたので、その中で生きていらっしゃった方々からすると、考え方を変えるのが難しいという側面はあるかと思います。
特別養子縁組を知ってもらいたい
杉山 久保田さんは訴訟という形ではないですが、ご自身が特別養子縁組をされたことを公表されました。

久保田 昨年12月です。娘がまもなく2歳というような段階のときですね、Twitterとあとは雑誌でインタビューを受けました。

杉山 きっかけがあって声を上げたんですか。

久保田 「子供を育ててるんですよ」って、最初は誰にでも言ってたんです。そしたらびっくりされるとか、えらいね、いいことしてるね、と言われる方が結構いらっしゃって。悪気は全くない思うんですけれども。私、本当に幸せですって言えば言うほど「そうだよね、そうだよね」っていう感じで。
 オープンにしたのは子供が2歳になるまで待ったんです。自分の中でもこれってどういうことなんだろう、産んで育ててない自分は足りないものがあるのかもしれないっていう葛藤が多少あったんです。最初はすごい幸せと思っていたのが、あれ私って何か欠けてることがあるのかもと思い、でも子育てをしてきて、だんだん自信を持って、公表できるようになりました。

杉山 僕もニューズウィークの記事を読ませていただいたり、お話を伺ったりしたんですけれど、公表していいかお子さんに意見を聞けないことに迷いがあったっていう話が、僕自身も共感できるところでした。
 今更ですが自己紹介忘れてましたね。杉山文野です。NPO法人東京レインボープライドの共同代表理事をやっています。僕自身はトランスジェンダー男性で戸籍上は女性です。ゲイの友人から精子提供を受けて、10年以上共にする僕のパートナーの女性が体外受精で妊娠出産。0歳、2歳の子供がいるんですけど、婚姻の平等がないということで僕はそのパートナーとも子供とも法的関係性も血の繋がりもない。でも、家族として生活している。すごく幸せな日常も嘘ではありませんが、法的関係性がないことから常に不安もあります。また、この現状を公表していいのか。しないのもおかしいし、葛藤がありました。結果的に僕は公表した方がより暮らしやすい社会になるんじゃないか、子供のためにも、社会のためにもいいんじゃないかという結論で公表しました。久保田さんも同じような葛藤があったんですね。

久保田 「子供がかわいそうだと言われますよ」って色々な方から言われたんです。最初は私も「本人に確認もできないし、そうかもしれないな」と思いました。確かに発表してから懸念するコメントをいただいたこともあったんです。でも、そもそも子供がかわいそうって思うこと自体が正しいんだろうかって思ったんです。自分が負い目を感じて子育てをすれば、子供に影響すると思うんです。私はポジティブであるべきだと思うし、そもそもポジティブなことなんだって思うようになって。家の中でのこのポジティブさが社会に出てポジティブでないと判断されるんであれば、社会の側が変わることを望む。できることをやる方がいいんじゃないかって思ったんですよね。

杉山 LGBTQのご家族でお子さんを持ったときにね、ママが2人だったりパパが2人だったりすると、子供がいじめられたらどうするんだって議論、必ず起こるんです。それっていじめられる子供が悪いんじゃなくて、いじめるような社会を変えた方がいいんじゃないってところにたどり着くということですごく似た議論かなと思います。

久保田 言ってくださってる方たちも、今の社会の現実を見て、優しく、そういうコメントだったり、アドバイスしてくれるんだと思うんです。けれど、それを一緒に変えていきましょうよって声を掛け合いたいなって思います。

寺原 別姓で互いの名字を維持していきたいってことで事実婚で暮らして、その状態でお子さんを育てる方がたくさんいます。そのお子さん方は成人した方もたくさんいて、別姓の親に育てられたことに全然問題はなかったと言っています。それをちょっと前に自民党の勉強会でお子さんたちが議員さんに話しに行ったこともあります。家の中ではすごく幸せに暮らしてきたんだけども外からかわいそうと言われて、意味がわかりませんと。

杉山 寺原さん、特別養子縁組、養子縁組、里親制度の違いはどうなっているんでしょう。

寺原 特別養子縁組と普通養子縁組の一番大きな違いは、特別養子縁組をすると元々の実親との親子関係がなくなって、養親、つまり、縁組をした新しい親との関係だけが戸籍上に反映されます。普通養子縁組だと、養子縁組をした後も、実の親と養親の両方と、親子関係が続く。どちらも戸籍上にのる関係ですね。里親はその二つとは違っていて、戸籍上に親子の関係がのるとか法律上親子になるということはなくて、育ての親です。一時期、基本的には最大18歳まで家庭環境を提供して親子のように暮らす、けれど、法的な関係性、戸籍上の関係はないという違いがあります。

杉山 同性同士だとダメみたいなことではなく、自治体によって決められてるんですよね。

寺原 里親はそうです。里親は異性カップルでないとダメだという法律にはなっていないので、自治体が同性カップルでもOKだと決めればOK。実際、同性カップルで里親制度を使ってお子さんを育ててる方もいらっしゃいます。一方、特別養子縁組は結婚をしていないと利用できないので、同性婚がない状態では同性カップルは特別養子縁組を利用することができない。ここはだいぶ違います。

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第2回目に続きます。

TRPチャンネルでも公開しましたのでそちらもお楽しみください。