「まちを面白くしてくれるお店限定」の店舗物件。土を砕いて土器を作る、ユニークな体験教室に @荒川区西尾久
「土器を製作する場だけでなく、土を砕くための、土砕き部屋(つちくだきべや)もつくれる物件を探していました」
そう話してくれたのは、荒川区にある土器作り体験教室「土の子」のお二人。同じ美術大学の陶磁専攻で出会ったのだそうです。
どこかノスタルジーを感じる、けれども活気のある西尾久の商店街にオープンした「土の子」に、開店までのストーリーを伺いました。
●現代の食卓でも活用できる、便利なうつわ
土器というと、なんだか「大昔の物」だというイメージがあり、なかなか馴染みがないかもしれません。
土器には小さな孔や隙間があります。そこに空気が含まれるため、熱いものを入れても持つことができ、さらに水を吸うのでパンやサラダなどとも相性が良いのだとか。
土器は一般的な陶器と組み合わせて、現代の生活にも便利に使えるうつわなのです。
●別々の地で土器に惹かれていた二人
ところで、「陶器」の陶芸教室はよく見かけますが、なぜ「土器」なのでしょうか。
西山さん「大学で陶磁を学んでいた頃は、土器は日常生活で使い物にならないというか、『陶器を作る途中段階の物』という印象で全然興味がなくって。だけど卒業後に土器でお料理を出すお店に出会って、印象が一変したんです。土器の性質のおかげでまろやかになったお料理がとても美味しくて、どんどん土器に引きこまれていきました」
我妻さん「私は卒業後に福島県で地域おこしをしていました。ふと陶芸が恋しくなって、土器ならその辺でも野焼き(掘った穴に藁などを敷いて作品を置き、また藁を被せて焼成)で作れたので、自分で作り始めていました」
なるほど。卒業後にそれぞれ別の地で土器に惹かれていたなんて、うれしい偶然ですね。気になる再会のきっかけは「よく聞かれるのですが、あまり覚えていなくて...」とのことでした。
●「土砕き部屋」を諦めかけた物件探し
そうしてお二人は土器教室を開くべく、物件探しを開始。物件の条件はこちらでした。
焼き窯の重量にも驚きますが、気になるのは「土砕き部屋」というワード。そういった部屋は、陶芸教室に普通あるものなのでしょうか。
西山さん「ほとんどの陶芸教室では買った粘土を使うので、土砕き部屋がある教室は多分他に無いと思います。でも私たちの教室では、自分の手で砕いた土を使うのがとても重要で。『うつわって、普通の土からできているんだ!』ということから体感してもらいたい。だから、どうしても土砕き部屋が欲しかったんです」
しかし、土砕き部屋を設けられるほどの広さがある1階の店舗物件は賃料も高く、「土砕き部屋は諦めなければならないかな..」と感じ始めていました。
●ついに見つけた!予算内で条件に合う物件
我妻さん「最初は大手の不動産ポータルサイトで物件を探していたのですが、もっと面白い物件はないかなあ...と、『アトリエ 物件』のように検索していたら、東京R不動産を知りました」
そうして東京R不動産でついに出会ったのが上の物件。広さは33㎡と十分で1階路面店ながら、賃料はこの地域の相場の8割ほどと、割安の価格帯でした。
割安賃料の背景は、この建物が、東京R不動産が取り組む「ニューニュータウンプロジェクト」の舞台になっている、荒川区西尾久の商店街にあったこと。
「ニューニュータウンプロジェクト」とは、「さびれてしまった小さな商店街でも、『いいお店』が同時多発的に増えたらそのエリアが面白くなるのでは」という目論見のもと始めた、「そのまちの店舗物件の賃料を下げて、ユニークなコンセプトを持つ小さなお店が出店しやすいようにしよう」という実験的な取り組みです。
お二人は、「この広さでこの賃料!?ここなら土砕き部屋もつくれる!」と、内見をしたその日に申し込みました。
●「改装はお好きにどうぞ」でひたすら壊した
さて、入居が決まると次は改装です。
前の入居者の残置物が撤去されると、大量の物で隠れていた「ステージのような謎の台」や「窓を遮る謎の壁」が備え付けられていることが分かり、それらを取り壊すことから始まりました。
我妻さん「大家さんと東京R不動産には、『外観がガラッと変わらなければ、お好きにどうぞ』と言ってもらって。バールや手を使ってひたすら壊しました。楽しかったですね〜」
とにかく大変だったのは電気系の工事。電気屋さんに分電盤を移動してもらったり、大きな電力を使う窯のために電線を引いてきたりと、分からないことだらけの中でなんとか終えることができました。
●土壁の土ももちろん、自分達で採取
完成した教室にお伺いして印象的だったのは、空間に漂うこの「土のぬくもり」。それは全面に並んだ土器作品だけでなく、壁や天井に土が塗られていることも大きいと感じました。
お二人「内装デザイナーさんに土壁を提案してもらった時、実は『そこまでやらなくても』と思ったんです。それよりも、早く教室をオープンさせたくて(笑)。でも、土に囲まれるとやっぱり落ち着くし、土の子らしい空間になりました。言うことを聞いて本当によかったなと思っています」
また、土壁は湿気を吸ってくれるので、エアコンを入れなくても少しひんやりするというメリットもあるのだとか。土壁は再利用ができるので、ゆくゆくは土を外して、再度塗り直すワークショップもやってみたいと考えているそうですよ。
●商店街の仲間入りをした土器教室
この土器教室を開くにあたり、「西尾久」という新しい土地に根を降ろしたお二人。商店街への出店は、近隣との関係性などに身構えてしまう人もいるのではないでしょうか。
西山さん「初めて西尾久に来た時、東京R不動産の方に西尾久をじっくり案内してもらいました。非日常な下町感が広がっていて、商店街は古くありつつも活気があり、プチ旅行の気分でしたね」
我妻さん「私も特に不安はなく、ただ楽しみだな〜って。尾久の雑貨屋さんに土器を並べる棚をお願いしたり、焼き鳥屋さんに串入れの土器を注文してもらったりと、地域のみなさんに面倒を見ていただいています」
と、「土の子」はすっかり西尾久の商店街に溶け込んでいる様子。「土器を土から作る」というユニークな焼き物教室には、家族連れや会社員の方など、さまざまなお客さんが来ているそうです。
西尾久のこの商店街では、東京R不動産が複数の路面店物件を借り上げ、手の届く家賃で新しい人たちに貸して街の変化を生み出していく実験的な活動をしています。この物件でもどうやら、街を面白くしていく拠点が生まれたようです。
みなさんもぜひ、土を砕くところから土器を作れる「土の子」に遊びに行ってみてください。穏やかな西尾久の商店街の雰囲気も、きっと楽しんでいただけますよ。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?