見出し画像

グラフィックデザイナー/イラストレーター 大橋祥 -TDP生のストーリーマガジン【com-plex】 Vol.16

デザインだけではない、これまでの経験が活きていく。そんな東京デザインプレックス研究所の修了生を追ったストーリーテリングマガジン「com-plex」。

今回ご紹介するのは、グラフィックデザイナー/イラストレーターとして活躍する大橋祥さんです。大橋さんは金山淳吾さん率いるクリエイティブアトリエTNZQ(タンザク)と一般社団法人渋谷未来デザインにて、社会課題解決のためのデザインや広告、キービジュアルの制作などをしながら、フリーのデザイナー兼イラストレーターとして活躍されています。今回は大橋さんにこれまで手掛けた案件や仕事のやりがい、キャリアチェンジの経緯などについてお話を伺いました。




渋谷の未来をデザインする

グラフィックデザイナー/イラストレーター 大橋祥さん

――大橋さんの仕事について聞かせてください。

TNZQ(タンザク)にてデザイナーとして所属する傍ら、フリーランスのデザイナーとしても活動しています。ロゴやキービジュアルなどのグラフィックデザインをメインの案件としていますが、Webサイトのデザインをすることもあります。TNZQのメンバーとして渋谷未来デザインにも参加をしていて、TNZQではexecutive designerとして所属していたり、渋谷未来デザインではアートディレクターとして所属していたりしますが、特に肩書きが決まっているわけではなく、案件によって変わります。

――TNZQに所属したきっかけはなんですか?

以前は渋谷のイベント制作会社で企画営業職をしていたのですが、その時のクライアントとしてTNZQの設立者である金山と出会いました。もともとTDPに通っていた時から一緒に仕事をしていたこともあり、デザイナーとしてチームに誘ってもらったことがきっかけでした。デザイン事務所に入ることも考えましたが、とにかく早く打席に立ちたいという思いから参加を決めました。

――渋谷未来デザインでは、どのような活動をしていますか?

一言で表すのは難しいのですが、様々な分野で社会課題の解決を目的としており、環境、防災、子育て、テクノロジー、スポーツ、マナー啓発など多岐に渡りますね。具体的には渋谷区が抱える課題に対して企業や地域と協力しながら、より良い社会を目指すプロジェクトデザイナーのような役割になります。

決まった何かがある訳ではなく、こうしたらもっと社会が、街が魅力的になるのではないかという所からプロジェクトが生まれています。

「Carbon Neutral Urban Design」
渋谷の産官学が脱炭素についての議論を重ねる場として設立されたコンソーシアム。
「SHIBUYA PLAYGROUND」
渋谷の街や公園を舞台にストリートスポーツやアーバンスポーツの可能性を拡張するプロジェクト。
「HOME HALLOWEEN」
2021年、コロナ禍の渋谷ハロウィーンにおける外出自粛を呼びかけ、渋谷らしい新たな楽しみ方を提案するマナー啓発プロジェクト。


ポジティブでいられる仕事

「SOCIAL INNOVATION WEEK 2023」
渋谷・カルチャー・グローバル・サステナビリティ・女性など多様なテーマについて、国内外の最先端の取り組みや研究の成果などを通じて、新たなアイデアに出会い、ソーシャルイノベーションを生み出すことを目的としたイベント。

――具体的にはどのような案件に携わっていますか?

渋谷で毎年開催している祭典、「SOCIAL INNOVATION WEEK」の全体のアートディレクションを担当し、キービジュアルや屋外広告、会場のブランディングなどを手掛けました。あとは企業や地方自治体の取り組んでいるプロジェクトのブランディングや、イラストレーション制作をすることもあります。渋谷駅西口歩行者デッキのアート作品掲出スペースでは大きなイラストを描いたこともありました。そのときは表現したいものを自由に描いて良いという事を言っていただいたので、デザイナーとしての仕事というよりは趣味のように楽しく描かせてもらいましたね。

また、フリーランスとしての案件は、仕事で知り合った方からお声がけいただくことや、これまでのポートフォリオを見てお声がけいただくことがあります。フリーランスとしても幅広い分野の案件に携わらせていただいています。

――仕事でイラストを描くようになったきっかけはなんですか?

デザイナーとしての仕事でイラストを使うことになった時に、もともと絵を描くのが好きだったのとイラストレーターの知り合いがいなかったので、自分で描いちゃおうと思ったんです。それから徐々にイラストも描くようになりました。あと、僕には「自分の絵のタッチ」がなく、案件に応じてテイストを変えています。テイスト関係なくいろんなプロジェクトに対応できるので、それがお声がけいただきやすい要因でもあり、自分の強みになっているのではないかと思っています。

「Like Anytime」
再開発をしている渋谷駅西口歩行者デッキのアート作品掲出スペースにて展示されたイラストレーション作品。
「ALWAYS, BE TOGETHER」
秋田・大館に移設が決まっていた渋谷・ハチ公前広場のモニュメント「東急5000系車両(愛称=青ガエル)」に、「ありがとう」の思いを込めたラッピングのデザインを手がけた。
「あすチャレ!」
日本財団パラスポーツサポートセンターが展開するパラスポーツ体験型授業のラッピングカーの
イラストレーションを担当。
「PARASPORTS SUPPORT CENTER」
日本財団パラスポーツサポートセンターでは、各種パラスポーツ競技のピクトグラムのデザインも担当した。


――仕事のやりがいを教えてください。

大きく3つあって、まず1つ目は自分が納得できる、いいなと思うものを作れること。2つ目はクライアントに喜んでもらったり、作ったものを誇らしく思ってもらえたりすること。3つ目は、自分がデザインで携わったイベントなどに参加した方が、その空間で楽しんでいるのを見ることです。人の思い出の中に、自分がデザインしたものが残ることが嬉しく感じますね。

あと、好きなことを仕事にできているので、仕事が辛いなと思ったこともないんです。もちろん修正が何度も入ったり、いつまで経っても着地しなかったりすることもあります。でも、いいものを作りたいし、お客さんが喜んでくれて周りにもそれを伝えたいって思えるものを作れると思うと苦労に感じなくて。しんどいと感じるときって、だいたい自分の知識や経験が不足しているときだと思うので、そうなったらインプットする時間を作れば逆にレベルアップできると思っています。仕事が好きなので、どんな状況でも仕事に対してはポジティブでいられますね。

「ChillOut Sauna in Inawashiro Lake」
猪苗代湖の湖畔に特設サウナを設置し、湖水浴で整う音楽イベントのブランディングを担当。
「画のないグルメガイド」
12人の視覚障がい者が、グルメリポーターとなり作成したグルメガイド。料理の姿は見えないけれど、香り、食感、味わいを言葉にして渋谷区の名店を紹介。 2023 63rd ACC TOKYO CREATIVITY AWARDS、Cannes Lions 2023 Publications & Editorial Designを受賞。
「GO Journal in SHIBUYA」
アート、ファッション、カルチャーを切り口にパラスポーツとパラアスリートの魅力を伝える蜷川実花氏が監修するグラフィックマガジンの展示空間において、アートディレクションとデザインを担当。


ヒントは現代アート

――幅広い分野のデザインを手掛けられていますが、アイデアはどのように出していますか?

2年ほど前から、いいなと思ったロゴを1日1個手書きでトレースするのを続けています。同時に、どのような考えで作られたロゴなのか、規則性があるのか、なぜ自分はそのロゴに惹かれたのかなども書き出しています。自分の場合、ネットで検索して画像を保存するだけだと頭から抜けていってしまうので、この作業をすることで記憶に定着するし、アイデアの引き出しになっていると実感していますね。移動時間でロゴをいくつか探し、家に帰ってからトレースしているのですが、仕事で忙しくても1日1個なら5、10分程度でできるので長く続けられています。

――お忙しい中でも習慣づけられているのが素晴らしいですね。ほかにもインプット方法はありますか?

現代アートからヒントをもらうことも多いですね。アメリカの画家、エルズワース・ケリーが好きでよく参考にしています。先日、現代アートの聖地ニューヨークに行ってきました。ニューヨークは自由な場所で、日本では落書き扱いされてしまうようなグラフィティーも、向こうでは作品として受け入れられるカルチャーがあります。ロゴなどのデザインでも、「こうあるべき」という固定観念を覆すような、あまり日本では見ないパターンのデザインがあったのも面白かったです。シンボルマークって大体左側にあるけど、右に置かれているとか。ルールに捉われずもっと自由でいいんだなって思えて、良い刺激になりましたね。

また、海外のクリエイティブな要素を吸収したくて初めてニューヨークという遠方まで行ったのですが、日本を離れて改めて日本のデザインや絵画の魅力にも気づきました。アートだけでなく、日本の製品は機能性まで含めてデザインされているものが多くて、随所に日本人の思いやりを感じられます。ニューヨークに行く前は海外のテイストを吸収したいという思いが強かったのですが、帰ってきてからは日本の魅力、日本人の感覚を海外の人に知ってもらいたいなと思うようにもなりました。


セカンドキャリアへの道

――クリエイティブ業界を目指したきっかけはなんですか?

子供の頃から絵を描くことやものづくりが好きで、元々クリエイティブ業界への憧れがありました。でも、デザイン事務所は美大に行ってないと目指せないと思っていたので、一般大学に通っていた僕には無理なんだろうなと諦めていました。せめてデザインやディスプレイなど、クリエイティブなものに少しでも触れられる仕事を探して、イベント制作会社へ入社しました。そこでは営業企画職としてイベントの企画やコンセプトを考え、グラフィック、Web、空間、映像など、様々な領域のクリエイターたちに声をかけて形にしていく、ディレクション側として働いていました。そこで活躍するクリエイターを見ているうちに、次第に自分も作り手になりたいと強く思うようになったんです。それから仕事を辞めてTDPに入学しました。

――TDPを選んだ理由はなんですか?

学校を探している時にTDPのサイトを見て、働きながらセカンドキャリアを考えている人が多いという点に魅力を感じました。同じ志を持った人が通っているので、刺激をもらえそうだと思って。入学前のカウンセリングでも改めて通っている方の様子を聞き、背中を押してもらいました。

――TDP在学中、印象に残っていることはありますか?

退職はしていましたが、業務委託としてデザインの仕事をしながら通っていたので、課題提出が大変だったのをよく覚えています。夜中まで作業して、寝ずに朝そのまま授業へ向かうこともありました。大変だったけど、その時の経験がインプットとアウトプットの定着に繋がったと実感しています。授業では、講評のときにクラスメイトの作品を見られたのも楽しかったですね。

ほかにも、今までは絵を描くときは感覚的に作業していましたが、デザインやレイアウト、配色の理論を体系的に学べたので、今の仕事にとても活きているなと実感します。授業の初めに配られたテキストは今でも参考にすることがあります。あと、仕事で古いハードディスクを引っ張り出すこともあるのですが、その中に過去の自分の作品が入っているのでたまに見返すことがあります。今見ると出来が悪くて恥ずかしいのですが、思い出としてデータは消さずに残しています(笑)

――今後の目標や展望を教えてください。

デザイナーとしての仕事とは別で、創作活動をしたいなと思っています。もちろんこれからもデザイン業界で頑張っていきたいのですが、それと同時に自分のB面としてなにか表現できないかとずっと考えていて。具体的になにをするかはまだ決まってないけど、Tシャツを作ってみるとか、趣味程度のことから始めてみようかと思っています。あとは、イラストの個展もできたらいいなと思っています。イラストレーターとして仕事をするときはいろんなテイストで絵を描きますが、創作活動の中で自分の色を出してみたい気持ちもありますね。

――これからデザインを学ぼうと思っている方へ一言お願いします。

ちょっとでも学校について調べたり、カウンセリングに来たりするということは、何か想いがあって行動に移しているはずです。気持ちが動くのであれば、あまり悩みすぎずにその気持ちを大切にして、正直に向き合ってみてもいいのではないかと思います。

――大橋さん、本日はありがとうございました。



今回のインタビューでは、ご自身の手掛けられている仕事や、仕事のやりがい、TDPでの経験などを大橋さんに伺いました。

様々な肩書きで、枠にとらわれない活動をする大橋さん。好きなことを仕事にしていると話す大橋さんは、クリエイターとして理想の姿を実現されているように感じられました。今後も大橋さんの活躍に期待したいですね。

次回も、今まさに現場で活躍しているTDP修了生にお話を伺っていきたいと思います。


◇TNZQ
Webサイト:https://tnzq.jp/
◇一般社団法人渋谷未来デザイン
Webサイト:https://fds.or.jp/
◇大橋祥さんPortforlio
Webサイト:https://sho-ohashi.com/