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グラフィックデザイナー 福森美晴 -TDP生のストーリーマガジン【com-plex】 Vol.15 -

デザインだけではない、これまでの経験が活きていく。そんな東京デザインプレックス研究所の修了生を追ったストーリーテリングマガジン「com-plex」。

今回ご紹介するのは、グラフィックデザイナーとして活躍する福森美晴さんです。福森さんはセメントプロデュースデザインへ入社後、グラフィックデザイナーとしての経験を積み、現在では幅広い分野のクリエイティブワークを手がけています。今回は福森さんにグラフィックデザイナーという職業や印象に残っている仕事、TDPでの学びについてお話を伺いました。




忙しくも楽しい日々

セメントプロデュースデザイン チーフデザイナー 福森美晴さん

――福森さんの仕事について聞かせてください。

セメントプロデュースデザイン(以下CEMENT)へ入社してからグラフィックデザイナーとして働いていましたが、現在は多岐にわたってクリエイティブワークをしています。グラフィックだけでなく、Webデザインや展示会ブースなどの空間デザインに携わることもあります。また、CEMENTはコンサルティングとしての事業も行っていて、クライアントの企業と深くコミュニケーションを取りながら、その企業の強みや目的を整理し、商品開発やマーケティングを含んだ企画提案などをしています。

CEMENTはプロデュース部門、デザイン部門、プロモーション部門の3セクションで構成されています。私は入社9年目になりますが、部署の垣根なく様々な業務に携わっており、日本各地で行われるCEMENT代表の金谷勉のセミナーや、金谷が講師として教鞭を執る大学・専門学校の授業などに同行したりもしています。

――これまでに携わった案件で、印象に残っているものはありますか?

文房具メーカーのコクヨさまの案件ですね。2018年に行われた「コクヨハク(~2019年終了)」のトータルディレクションをさせていただきました。コクヨハクは、「これまでに見たことのないコクヨの商品が楽しめるコクヨの博覧会」というコンセプトのもと、通常の販売イベントとは違う企業の新しい見せ方を目指し、文字通り「コクヨの博覧会」を創りあげることで、新たなユーザー層を獲得することを目的としたイベントでした。イベントテーマ、キービジュアル、限定商品のアイデアやワークショップなどのコンテンツ提案はもちろん、会場装飾などにも関わらせていただきました。

2018年「Stationery restaurant」 
2019年「KOKUYO LAND(文具の遊園地をテーマとした企画)」

入社2年目の時期で、前任の担当者から引き継ぎを受けながらの進行だったこともあり、最初は不安でいっぱいでした。テーマは「ステーショナリーレストラン」に決まり、文具イベントが今ほどなかった当時としては攻めたテーマだったこともあって、リリース後は毎日「コクヨハク」で検索してユーザーの反応を気にしていましたね(笑)。私もコクヨさまも売上よりお客さまの反応を1番気にしていたのですが、ありがたいことに行列ができてしまうほど反響があったんです。ただ、予想より多くの方が来てくださったこともあり、限定品を買えなかったと嘆くSNSの呟きも目にしてしまって…。限定品ということもあり全てのお客さまに届けることはもちろん難しいのですが、そういった状況を見て「いかにお客さまに満足してもらうか」ということを改めて考えさせられました。

最終的には、(福森さんに)任せてよかったとのお言葉をいただけるほど大成功に終わりました。さらに嬉しいことに、このコクヨハクでのディレクションをきっかけに新たな仕事を次々と任せてもらえるようになったんです。コクヨさまの自社ブランド「KOKUYO ME」のキービジュアルデザインを担当させていただいたり、弊社の実績を見た手帳メーカーのダイゴーさまにお声がけいただいて自社ブランド立ち上げの際にブランドページを制作させていただいたりもしました。コクヨハクでの成功が私の中での転機となり、大変ではありましたが大切な思い出として心に残っています。

「KOKUYO ME」のキービジュアル(上:2023年、下:2024年)。福森さんはアートディレクションを担当。2024年ビジュアルは、同じくTDP出身の廣部聖子さんがデザインを担当。

――ほかにはどんな案件を手がけましたか?

CEMENTでは日本各地の地場産業の発展と継続を目指した活動(みんなの地域産業協業活動)も行っています。その中で「ALMA(アルーマ)」という香りを楽しめるアクセサリーブランドを、墨田区でゴム金型の設計・製造を行っている石井精工さまと協業で開発しました。ALMAシリーズにはピンズとピアスがあり、中にアロマオイルや香水を染み込ませたコットンを入れることで香りを身に着けられるという商品です。私も直接工場に足を運びさまざまな作業を見学して、製品のデザインがより良いものになるよう修正していきました。ALMAの鮮やかなカラーはアルマイト処理をした後に、カラー染料を吸着させ材料に着色しているのですが、それは想像以上に繊細な作業でした。染料の液に漬け、それを引き上げる時間で濃さが変わるので、ちょっとした匙加減で色に差が出てしまうんです。何度も実験を繰り返しながら作り上げたのでとても大変でしたが、職人さんと楽しくやりとりさせてもらいながら完成させました。

実はこのALMAは、縁あってキービジュアルをTDPの修了生だけで作り上げたような形になりました。私がアートディレクションを担当し、デザイナーも、ビジュアルモデルもTDPの修了生でした。修了後も一緒にお仕事ができる素敵な縁に恵まれて嬉しかったですね。

香りを纏うピアス「ALMA(アルーマ)アロマピアス」。付属のコットンにアロマオイルや香水を染み込ませ、自分の好きな香りを自由に着飾ることができるアクセサリー。
ALMAシリーズには、ピアスの他にピンズタイプもある。

あとは、千葉のガラスメーカー、岡本硝子さまの自社ブランド「illumiiro(イルミーロ)」のディレクションを担当しています。現在も制作を進めていて、今年の7月頃にクラウドファンディングをおこない「yura glass(ユラグラス)」という底面の丸みによってゆらゆら揺れるグラスを販売する予定です。このグラスはガラスの表面へ100万分の1 ミリ単位でコントロールされた薄い膜をコーティングする蒸着技術によって、繊細で不思議な色を生み出しています。見る角度によって色が変わるんです。岡本硝子さまとは弊社が地元金融機関と開催している事業開発ゼミに参加されたことがきっかけで、商品化に向けてスタートしました。今後はグラスだけでなく、さまざまなガラス製品へと展開していく予定です。

岡本硝子の自社ブランド「illumiiro(イルミーロ)」のディレクションを担当。
底面の丸みによってゆらゆら揺れるグラス「yura glass(ユラグラス)」は、クラウドファンディングにて2024年7月頃に販売予定。

――仕事のやりがいを教えてください。

クライアントの感想をダイレクトに受け取れることがやりがいにつながっています。例えば、先ほどお話ししたダイゴーさまの手帳のブランドページを担当した時は、商品自体のデザインを変えるのではなく、Webでの見せ方やキービジュアルで印象を変える提案をしました。出来上がったページを見て、見せ方を変えるだけでこんなにかっこよくなるんだ、と喜んでくださったんです。その後、営業の方々のモチベーションアップにもつながっていると聞いたときはとても嬉しかったですね。

ダイゴーの手帳ブランド「ハンディピック」のブランドページを製作。キービジュアルの撮影ディレクションもおこなった。

商品開発でも言えることなのですが、新しい機械や技術を導入すれば、良いものを作れるかもしれないけど、それにはもちろん費用がかかります。今持っている会社の強みを活かし、できる範囲で新しい領域を作り出す。限られた予算で何ができるかを考えるのが私たちの仕事だと思っています。私がCEMENTに入社する前に参加したプレックスプログラムの壇上で「デザインは人を救うことができる」と金谷は語っていました。デザインを通じて人助けができること、クライアントの皆さんとともに面白いものをつくっていけることが、私にとっての仕事のやりがいです。


大きな決断の末に得たもの

――現在の仕事に就いた経緯を教えてください。

母が美容師だったこともあり、以前は私も美容師として働いていました。高校を卒業した当時は特にやりたいこともなく、とりあえず美容師免許を取っていただけだったんです。しかし仕事の一貫で、自分でモデルさんをヘアメイクして写真を撮る、いわゆるディレクションをしたのがとても楽しかったんです。それがきっかけで転職を考えはじめました。チラシなどのグラフィックデザインが元々好きだったこともあり、TDPに相談しに行き、本格的にデザイナーを目指すことに決めたんです。

――デザイナーとして就職してから苦労したことはありますか?

私はこの業界に入ったのが28歳と、周りのデザイナーより遅めでした。年下の先輩も多く、上司からも「(年齢的に)新卒の子より頑張らないといけないよ」と言われ、焦ることが多々ありました。28歳というと本来ならリーダーを任せられるような年齢なので、早く結果を出したいと思っていましたね。今はチーフとしてポジションを確立できているかなと思っています。入社する時期が遅かろうが、努力次第で巻き返せると身をもって知りました。

また、今までの経歴が全く意味のないものかというとそんなことはありませんでした。美容師時代に培ったコミュニケーション能力やメイクのスキルは今でも役に立っています。さらに私の場合は、TDPでWebのスキルを身につけたことも大きな武器になりました。私が入社した当時、CEMENTにはWebのスキルがある人がそこまでおらず、コクヨさまの案件のチームに選ばれた理由もWebの知識があるから、という理由でした。28歳で新人だけど、Webはできるらしいという評価でチームに入れてもらえたんですね。Webができなかったら何もない新人だったのかもと思うと、TDPでデジタルコミュニケーションデザイン専攻を選んでいてよかったなと思いました。今でもコーダーの方とお話しする時はスムーズに話を進めることができていると実感しています。

――TDPに入学を決めたときや在学時、印象に残っているエピソードはありますか?

入学したときはもう27歳で、正直年齢のことを考えると不安しかありませんでした。思い切った決断をしたと自分でも思います。でも入学してみたら自分より年上の方もいた。多種多様な経験を積んだ様々な境遇の方が集まっているTDPの環境に身を置いてみて、とても励みになったんです。あの環境が不安を消してくれたし、自分も頑張ろう!と思えました。当時のクラスメイトとは、いまだに何人かで集まって近況報告会や食事会をしています。

また、在学中は授業以外にラボラトリー(フューチャーデザインラボ)での活動もしていました。私は高卒ですぐ社会人になったので、チームのみんなで活動したりご飯に行ったりしたのが第二の青春のように感じて楽しかったですね。ただ、グループワークのようなチームで何かを成し遂げようとすることが初めてだったので、最初はうまくいきませんでした。自分のやりたいことへの熱量が凄すぎて、チームメイトとぶつかってしまうことがよくあったんです。でも徐々に冷静に話し合う術を身につけ、最終的には良いものができたと思っています。このラボでの活動は実際に働くことの練習になったし、自分の得意不得意がわかったので参加してよかったですね。

あと、プレックスプログラムも有意義な時間でした。たくさんのトップクリエイターのお話を2年間受講できるのは大きかったです。CEMENTに入社を志望したきっかけもプレックスプログラムで金谷の講義を聞いてのことでした。いまだに覚えている話もありますし、働き出してからはいろんな方のお話を聞く時間というのもなかなか取りづらいので、参加できてよかったなと思っています。話を聞くだけでなく、発表の場が与えられるのも嬉しかったですね。

セメントプロデュースデザイン代表の金谷勉氏によるプレックスプログラム。「地域産業とデザイン&プロデュース」というテーマで講義とワークショップを実施。金谷氏には2014年度から度々ご登壇いただいている。


地域に根ざした会社を目指して

――今後の目標や展望を教えてください。

CEMENTはかつて表参道にオフィスを構えていましたが、2018年12月に墨田区に移転してきました。もともと金谷が墨田区のものづくりコラボレーション事業にコラボレーターとして参画していて、それがきっかけで移転することになったんです。今は「すみだクリエイターズクラブ」という墨田区内のクリエイターが所属している団体に金谷と共に参加していて、今後は墨田区と様々な事業やイベントができたらなと思っています。CEMENTがコミュニティづくりや町おこしをする会社としても広く認知されるよう活動していきたいです。

また、以前「すみだ子ども創造部」という、小学生を対象としたデザインワークショップにアドバイザーとして呼んでいただき、子どもたちにデザインの話をする機会がありました。デザインと聞くと「綺麗に飾る」とか「かっこよくする」というイメージがありますが、実は「誰かの生活を少し便利にする」のもデザインのひとつだと思っていて、その「創造力」という武器はどんな職業にも使えるものだと思うんです。それを小学生のうちから知ることができるって良いなと思ったので、今後教育的な分野にも関わりたいなと思いましたね。あと、TDPで1年間学んで修了した日、まだ就職先も決まってないのに「プレックスプログラムに登壇します!」と宣言したことを今思い出しました(笑)。それも実現できたら嬉しいですね。

――TDPへ入学を検討している方へ一言お願いします。

TDPは熱量のある人が多いです。社会人スクールだからこその環境で、いろんな人の考えを知りながらデザインを学べるのが楽しかったし、モチベーションアップに繋がりました。当時学んだことは今でも活きているし、この時に築いた人脈があったからこそ実現したこともあります。私は27歳で入学して28歳でデザイナーになれたので、年齢で諦めずに少しでも興味のあることにチャレンジしてもらいたいですね。TDPは、挑戦したいという気持ちを受け止めてくれる学校だと思っています。是非飛び込んでみてください。

——福森さん、本日はありがとうございました。



今回のインタビューでは、ご自身の転機となった仕事や、仕事のやりがい、TDPでの経験などを福森さんに伺いました。

20代後半で、不安に思いながらもデザイン業界に飛び込んだ福森さん。しかし、努力を重ねて結果を残し続け、今では素晴らしいデザイナーとして活躍している福森さんはとても輝いていらっしゃいました。今後も福森さんの活躍に期待したいですね。

次回も、今まさに現場で活躍しているTDP修了生にお話を伺っていきたいと思います。

◇セメントプロデュースデザイン
Webサイト:https://www.cementdesign.com/
コトモノミチ Instagram:@coto.mono.michi