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グラフィックデザイナー 立石彩花 -TDP生のストーリーマガジン【com-plex】 Vol.12-

デザインだけではない、これまでの経験が活きていく。東京デザインプレックス研究所の修了生を追ったストーリーマガジン「com-plex」。

今回ご紹介するのは、グラフィックデザイナーとして活躍する立石彩花さんです。食に興味があった立石さんは、輸入食品会社などに勤めていました。TDPでグラフィックデザインを学び、千原徹也さん率いる株式会社れもんらいふに入社。フリーランス転身後は、食品パッケージのデザインを中心に活躍しています。今回は、立石さんにれもんらいふ時代に携わったデザインや食品パッケージの魅力について、お話を伺いました。




“ストーリー”を提案する

グラフィックデザイナー 立石彩花さん

——立石さんの仕事について聞かせてください。

フリーランスとして、お菓子のパッケージやパンフレット、ロゴなど、紙媒体を中心にデザインを手掛けています。もともと食べることが大好きで、お菓子を手にとることが多かったのですが、いつしかパッケージにも魅力を感じるようになりました。フリーランスになってからは、お酒のラベルデザインをきっかけに、食品関連のデザインの仕事が増えていきました。

——お酒のラベルデザインはどのような仕事でしたか?

フリーランスとして初めての仕事で、「その街を象徴するお酒を自分たちで造ろう」という発案のもと、中目黒周辺の飲食店が集まって開発した、クラフトジンのラベルデザインでした。そのジンは原材料にリンゴやシナモン、山椒、レモンピール、桜葉などを使用していて、豊かな香りと味わいを特徴としていました。その特徴を表現するため、原材料のモチーフをグラフィカルに落とし込んだラベルを制作しました。商品開発の資金調達にはクラウドファンディングを活用しており、お客さまにとっては味が分からない状態での訴求となりましたが、達成率200%を超えるほどの反響がありました。この仕事をきっかけに、その後の仕事へとつながったと感じています。

フリーランスになって初めて手がけた案件「NAKAME GIN」

——印象に残っている仕事を教えてください。

菓子メーカー2社のコラボレーション商品の、パッケージデザインを手掛けました。各企業のお菓子の世界観を活かしつつも、コラボレーションという特別感を出すために、思い切った色使いにも挑戦しました。2社からの依頼となるため、両社からの意見を取り入れ、本来の目的を崩さないように、一つの商品として作り上げていくことに面白さと難しさを感じましたね。

——パッケージデザインの制作工程について教えてください。

はじめにクライアントへのヒアリングを行い、商品の概要や目的を確認してから、デザイン案の制作に取り掛かります。デザイン案のプレゼン時には、商品の“ストーリー”を提案するように心掛けています。目的に沿ったストーリーを構築して、デザインを提案する。何度も何度もコミュニケーションを重ねて落とし込んでいきます。

2社のコラボレーション商品「ピエール・エルメ・パリ×鎌倉紅谷」

——パッケージデザインで意識していることはありますか?

あくまで主役は食品であり、パッケージは食品を美味しく見せたり、魅力を高めるためのものです。そのためには、色使いが重要な要素となります。たとえば、ピンク色を使うにしても種類はさまざま。商品とのバランスを考えたとき、商品をくすませてしまうピンク色もあります。パッケージ内の商品がより魅力的に感じられるような色を選択することは、この仕事では重要なことです。色を選ぶ際は、どういう印象にしたいかで絞っていくので、がむしゃらに色をはめるのではなく、知識や経験に頼っています。

——食品パッケージを制作する上で、あまり使用しない色はありますか?

食欲をなくす青系の色はあまり使わないですね。ですが、鎌倉紅谷さんより期間限定で発売された「マロングラッセ」のパッケージデザインでは、あえて水色を使いました。「マロングラッセ」をイメージさせるブラウン系のカラーに、差し色でシックな水色を入れることで、企業が大切にしていた高級感が生まれました。特別な贈り物として、上品な仕上がりになったと思います。水色が少しでも明るくなると、チープな印象になってしまうので、その加減は印刷担当の方へ口頭で説明しながら慎重に行いましたね。

シックな水色を入れることで、高級感を演出した鎌倉紅谷「マロングラッセ」


俯瞰して物事を考える

れもんらいふ在籍時に手がけた「50th CUP NOODLE Collection in Laforet HARAJUKU」

——れもんらいふでは、どのようなデザインに携わりましたか?

主に広告関連のデザインに携わっていました。会社員時代は修行だと捉えていたので、記憶にないほど大変で刺激的な日々でした。それでも日清食品のカップヌードル誕生50周年を記念した、ラフォーレ原宿とのコラボレーション企画は印象に残っています。1枚のビジュアルポスターから限定カップヌードルのパッケージ制作など、デザイナーとしてとにかく手を動かしていました。店舗前のインスタレーションでは、深夜、美術さんとともにカップヌードルをショーウィンドウに積み上げる作業を行いました。昨日まではなかったのに、明日にはここにあって、誰かの心を動かしていく。それがなんと素晴らしいことだろう!という、初心を思い出した、貴重な経験となりました。

——その他にも、印象に残っている仕事はありましたか?

れもんらいふ入社後、初めてデザイナーとして担当させていただいたCDジャケットの制作が思い出に残っています。吉澤嘉代子さんの「サービスエリア」という楽曲のジャケットデザインでした。楽曲を聴きながらアイデアを練っていたとき、映画のワンシーンのようなビジュアルにしたいと思いました。それからはイメージに合う撮影場所を探して、ロケハンを重ね、車を手配して……。とにかく全てのことが初めてだったので、バタバタでしたね。

当日は吉澤さんに車に乗ってもらい、明け方の一瞬の空模様を狙って撮影しました。ジャケットのアクセントには、「サービスエリア」から連想し、ソフトクリームの照明も入れました。この照明は撮影の直前になって、急遽会社近くのカフェの店主に直談判してお借りしたもの。想像していた以上に、たくさんの方々の協力のもとで仕事が成り立っていることを学びました。良い思い出です。

吉澤嘉代子 4thシングル「サービスエリア」

——ぎりぎりまで悩んだりすることは、よくあることですか?

会社員時代はいくつもの案件が同時進行していて、一つひとつの案件にかけられる時間が限られていました。そうした状況下で、千原からよく言われていたことが「俯瞰して物事を考えろ」。あらゆる角度からデザインを確認した際に、直前で変更を加えることは多々ありましたね。ジャケット制作の時はそれがソフトクリームの照明でした。

一度は固まったアイデアも少し時間をおいたり、俯瞰して考えてみると、より深度の深い問題点に気づくことがあります。そしてそれこそがアイデア以前に、確認すべき重要事項であることも。逆を言えば、常に俯瞰して考えていないと重要なことに気がつかずに過ぎていってしまうということです。会社員時代はいっぱいいっぱいでしたから、フリーランスになってようやく理解できました。


紙ならではのぬくもり

株式会社竹尾で開催された「STOCK MEMBERS GALLERY 2023」に出展

——クライアントワークの他に、個人での制作活動も行なっていると伺いました

昨年は、紙の専門商社である株式会社竹尾が運営する勉強会に参加させていただきました。竹尾さんは数千種類もの紙を取り扱っており、よくお店に紙を選びに行っていたんです。勉強会では3人1組のグループごとに紙を使った作品を展示する「STOCK MEMBERS GALLERY 2023」の開催が企画されていました。それぞれの個人作品を展示するグループが多い中、私たちのグループは3人だからこそできる作品を共同で制作することに。まずは「人々が紙に対して持っている固定概念をくつがえし、紙は人の五感にうったえる力強いものになるのだと伝えたい」という構想からスタート。展示期間がちょうど春の始まりの時期だったので、春を「ひらく」、お花見ができるような空間を目指して作品の制作に取り掛かりました。

——どのような作品になりましたか?

春の象徴として、開花を待つしだれ桜のような立体作品を制作しました。蕾には4種類の紙を用い、よく見るとそれぞれ風合いが異なります。また蕾の一つひとつは手に取ることができ、中には鈴や飴をひそませ、少しの幸せを感じていただけるような仕組みにしました。自粛期間が明けて初めての春、希望が花開くように願いを込めた作品になります。

紙で制作した桜の蕾やひらがなを吊るし、五感で春を感じられる空間を表現した「ひらくてん」

——その他にも紙を使った作品はありますか?

竹尾さんの「ファインフルート」という紙を使って、カレンダーを制作しました。段ボールのなみなみの部分を「フルート」と言うのですが、そのカラーを複数から選べるところが魅力的です。その他にも、紙を使った制作は続けています。紙でもWebでも永遠というものはありませんが、紙に触れた感覚は自分のものとしてずっと残りますよね。それが紙の魅力であり、パッケージを作りたいという想いにも通じています。これからも、紙ならではのぬくもりを大切にしてゆきたいです。

多様な色の組み合わせができる「ファインフルート」を台に使用したカレンダー


仕事に誇りをもつ姿

——立石さんがクリエイティブ業界を志したきっかけを聞かせてください。

大学では栄養学を学び、卒業後は輸入食品会社を経て、撮影用調理器具のリース会社へ転職しました。その中で「私も何かを生み出したい」という想いを抱くようになりました。そして自分の好きなものであるイラストや食品パッケージへの想いを活かせればと、 グラフィックデザイナーを目指すことにしたんです。

——TDPに入学した理由はなんでしょうか?

TDPを選んだ理由は、丁寧なカウンセリングです。どのような仕事をしていきたいのか。どのようなデザイナーになりたいのか。担当の方が親身になって話を聞いてくださり、「ここで学びたい」と思いました。

——TDP在学時、印象に残っているエピソードはありますか?

最終課題は今でも覚えていますね。ブランディングがテーマでした。私含め働きながら通うクラスメイトも多く、終始バタバタしながら取り組んでいましたね。私はクレープ屋のリブランディングを行ったのですが、モックアップを制作し、発表ではクレープの食品サンプルまで用意して、全力だったなぁと思い返します。作品を見せあっては鼓舞しあい、時にはこっそり嫉妬したり(笑)そんなクラスメイトの存在は、とても大きかったです。

——TDPの講師の印象はいかがでしたか?

先生が実際にデザイン業界で活躍している方々なので、現場のお話はとても勉強になりました。大変そうな話もありましたが、なぜか楽しそうに感じられて。自分の仕事に誇りを持っていることが、表情に表れていたからだと思います。先生方から学んだ技術はもちろんのこと、当時から、妥協せずにとことん手を動かしてモックアップを制作していました。慣れておいてよかったと感じています。

TDP時代、課題で制作したチョコレートのパッケージ


「好きなこと」と「どういう人でありたいか」

——立石さんにとって、食品パッケージをデザインする魅力は何だと思いますか?

商品を受け取った方の感想がダイレクトに聞ける点ですね。もちろん「美味しかった」という言葉が一番うれしいのですが、例えばSNS等で「パッケージもかわいい」などの投稿があるとよりうれしいですね。何事にも代えがたい達成感を感じます。

フリーランスとして食品パッケージに携わる前は、デザイン事務所であらゆる広告デザインを行ってきました。多くの予算や時間をかけてみんなで作り上げていく広告は、そこでしか得ることのできないやりがいがある一方で、掲出期間が一週間など、短い場合も。そこに儚さも感じていました。その頃から残っていくものを作りたいと思うようになり、今の仕事があります。形として残ることは、食品パッケージの魅力の一つだと思います。

今は、商品を手に取ってくださった方にエールを送れるような、やさしく寄り添えるようなパッケージデザインを目指しています。

——今後の展望を聞かせてください。

引き続き、食品パッケージに携わることができたらうれしいですね。世界観を作り上げることも好きなので、食品やお店のブランディングにも挑戦したいです。そのためにも、今はたくさんのものを見ておきたいです。今年は、念願だったフランス滞在を予定しています。以前からフランスのデザインや文化に魅力を感じることが多かったので、実際に滞在する中でいろんなことを吸収したいです。

——最後にTDPへの入学を検討している方にコメントをお願いします。

「好きなこと」と「どういう人でありたいか」。この2つを追求してほしいですね。今の私があるのはその2つを追求した結果だと思います。

子どもの頃から食べることが大好きで、食品パッケージにも魅力を感じていた私が、したいこと、できることってなんだろうと考えていました。フリーランスになってからは言われたことをそのままするのではなく、対話を重ねながら提案していく、舵を取っていくことがデザイナーの仕事だと気づきました。それは、お客さまに寄り添ったデザインにもつながるはずです。私はそんなデザイナーでありたいと思っています。

みなさんも「好きなこと」と「どういう人でありたいか」をしっかりと持って、あとは全力で突き進んでみてください。すぐには結果につながらなかったとしても、いつか伏線を回収するようにやってきたことがつながっていくと思います。

——立石さん、本日はありがとうございました。



今回のインタビューでは、デザイン事務所で携わったデザインや食品パッケージの魅力について、立石さんに伺いました。
 
紙媒体を中心に食品パッケージのデザインを手掛ける立石さん。「好きなこと」と「どういう人でありたいか」という軸を定め、食品パッケージを通じて人を幸せにし、寄り添っていきたいという想いが伝わってきました。今後の立石さんの活躍に期待したいですね。

次回も、今まさに現場で活躍しているTDP修了生にお話を伺っていきたいと思います。

◇立石彩花さんSNS
 Instagram:@works___910


[取材・文]岡部悟志(TDP修了生)、土屋真子
[写真]前田智広