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「撮影現場」という世界への挑戦【2】

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初現場

迎えた撮影初日、勉強の甲斐あって・・・とはいかず、勉強が全く意味なかったのではないかと思うほど何もできませんでした。機材の名前を覚えている、覚えていないと言うことよりも前に、自分がどこにいたらいいのかも分かりませんでした。カメラや人の動く道を予測して行動することができず、何度も邪魔だと注意されました。

覚悟していたより厳しい日々になりそうだと認識した1日目。それからは毎日必死に、機材の名前を覚えたり、人の動きを観察したりして、少しずつ現場のスピードや自分の役割に慣れていきました。

悔しさも力に

撮影が始まって2週間ほど経ち、スムーズに動けるようになってくると新たに仕事を任されるようになりました。それは、現場で実際に機材を準備したり動かしたりすることでした。

それまでは、先輩が欲しいものを持って行ったり、かたづけたりと機材の管理がメインだったので、実際に機材を扱うことはあまりありませんでした。先輩に言われた物を持っていき、渡して終わりだったのが、「自分でやってみろ」と言ってもらえるようになりました。

2週間前まで照明機材にはほぼ触ったことがない状況だったので、初めは当然うまく扱えません。もたもたしていると「もういい」と先輩が続きをやります。基礎中の基礎である、「脚」と呼ばれる、カメラでいう三脚の役割を果たす物を立てることすらままなりませんでした。一つ一つの脚は重量がある上に、ねじがたくさんあるため、どこを緩めると脚が開き、安定した状態で立てられるのか分からなかったからです。

機材をうまく扱えず、「もういい」といわれた後は、とても悔しく、空き時間に裏で何度も練習。裏ではうまくできるようになったと思っても、いざ本番で指示されると焦ってしまい、失敗することが何度もありました。さらに、狭い部屋などでの撮影となると、中に入れる人数が限られてしまうため、ひたすら外で機材の整理をする日もありました。

現場でするすると動いている先輩を見て、早く仕事ができるようなりたいと思いました。もっと挑戦したい、成長したいと焦る気持ちを持ちながらも、まずは自分にできることを完璧にやることが成長への近道と自分に言い聞かせ、自分の仕事に取り組みました。

見えなかったものが見える

忙しくも充実した日々を過ごす中、先輩と食事に行く機会がありました。そこで先輩に言われたある言葉がずっと忘れられません。それは、「照明は光を作る仕事ではなく、影を作る仕事」という言葉です。

先輩は、「今の時代、映像の色や光は編集ですぐに変えることができる。でも、影の雰囲気や色はまだ人の手でしか作れないと思っている。だから、光はもちろん大事だが、自分は、影に目を向けるのが好きだ」と続けました。衝撃的でした。それまで、光しか見ていなかった私は、次の日から影に注目するようになりました。現場で作られた影はもちろん、日常の中で自然にできている影にも目を向けるようにしました。すると、それまでどうしてその向きに光を当てるのか、光を遮る物を置くのか分からなかった場面で、日常の影を思い出し、自然に近い影を作るためのセットだと納得して準備することができるようになったのです。また、自然にできている影を見ながらこの影を作るためにはどこからどんな風に光を当てるといいかも考えるようになりました。

よく観察すると、影の柔らかさや硬さ、色が見えるようになります。照明という仕事をすることで、それまで見えなかったものが見えるようになりました。こうして、たくさんの学びがあった、約3ヶ月に及ぶ撮影が終わり、初現場をやりきりました。ありがたいことに、この現場からつながりができ、また新たな現場での仕事が決まりました。怯まず、怯えず、萎縮せず、まだまだ挑戦していきたいと思います。

Written by ISHI


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