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「短編」 風邪は万病のもと、お金のもと、戦争のもと  “1人が言えば信じないけど、まわりのたくさんの人が言えば正しく思えるので、なんて不思議な感じ”

 ( 火のないところには煙は立たない、でも煙が立ったのはドライアイスだったかもしれない )


 以前のことだった。ここはアメリカ。マンハッタンに建ち並ぶ高層ビルの、あるマンションの一室。社会の底辺から上級国民まで上りつめた、ある経済人はひとり、思いあぐねていた。

 これまで政治家にけしかけて、戦争市場をもくろんできたものの、さすがに頭打ちになってきた。これ以上の儲けも限られている。

 思えば、と男は考えた。アメリカは独立以来、西へ西へと侵攻していった。アジア、中東、そしてとうとうヨーロッパの端まで来た。
 黒人と黄色人種に対しては平気で人を殺してきたが、さすがに白人にはいいがかりをつけて、戦争爆撃なんかできやしない。やれるものなら、やってみろ。

 飽和すれば、収束するのが宇宙の原理、自然の掟。人間の歴史も同じだった。

 古代のアレキサンダー大王のマケドニアやローマ帝国、さらにジンギスカンのモンゴル帝国。そして近代のナポレオン帝国。

 新しい国になり、周辺に拡大したけど、最後には縮んで、ふるさとの一国になっちゃった。
 新しく青年に生まれ変わって大きく成長するけど、やがて歳をとり、老人になって縮こまってしまう、そんな人間の一生にも似て、まったくいやはや。

 とはいってもなあ、男はなにげなく、テレビをつけた。


「ハロー、エブリバディ。
 WHOとともに信頼できるCDC(米疾病対策センター)によると、アメリカ国で2019―2020の冬シーズンのインフルエンザ。患者数2600万人以上、入院者約25万人、死者約1万4000人。

 例年1万2000人から5万6000人が、インフルエンザで死亡。2017―2018シーズンはなんと、6万1000人が死亡しました。
 アメリカでは例年なので、あまり実感がありません。馴染みがあるし、予防接種もあるから大丈夫なんて、皆さん、安心しないでくださいね。では次のニュースです」


 そうか。アメリカは海の向こうの日本みたいに、健康保険みたいな3割でいいというのがないから、誰も医者へ気軽に行けない。
 昔、わたしのおじいちゃんがないよくいっていたものさ。歳をとったら、風邪が一番危ない。風邪をひいたら、命とりだって。

 でも、そんなふうには見えないけどな。感染じゃなく、患者といっていた。それにしても、アメリカだけで患者数が2600万人以上か。桁が多すぎる。
 もしおじいちゃんがいうように、風邪が万病のモトといったら、肺炎でもなんでも、歳とって死んだら風邪のせいになる。

 さすがにエイズは違うだろうけど、モトはといえば風邪が悪い、風邪がモトでなくなりましたといったら、全部風邪で死んだことになって大変だ。
 いくら風邪の方でも、なんでもかんでもボクたち風邪のせいにしちゃったら、怒っちゃうぞ。


 うん、風邪のせい?
 おっ、いま、いいこと思いついた。これは、もしかして世界的キボのビジネスチャンスになるかもしれない。ただ下準備に、いろいろ「根回し」とか「カネ」がかかるけど、投資だと思ってがまんしよう。

 さあ、これから新しい形の戦争が始まるぞ。







































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