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「短編」 ビートルズ刈り

 月を指さす指を見て、月を見ない  


「歌手や作家になれるなら、金儲けにされる人形でもいいわ、輝いていたいのよ、わかる、あたしの気持ち」
「ああわかるよ、歌手に成りたいんだろう」

「歌って踊って小説書きたいのよ、マルチでレオナルドな女性になりたいわけ」
「レオナルド・ディカプリオ?」

「ディカプリ、あなた、わざとハズしたでしょう」

 ちょっとね、
それにしても今ふと雑誌読んでいたら、むかしビートルズ世代で育った男が久しぶりにビートルズの記事を見て怒っていた
マッシュルームカットじゃねえや、ビートルズ刈りと言うんだよ

 別に怒ることでもないけど、どうもこの記事を書いたやつが当時のことを何もわかっていない、雰囲気もわかっていない、ただ後追いで表面的に書いているな、そう感じたらしい
同時代に生きたファンにとって、些細なことだけど、お前なんかとは共有できないぞ、なんてね

 つい最近亡くなった石原慎太郎さんも、デビュー当時慎太郎刈りというヘアカットしていたらしい
ただの短髪じゃねえか、といったら怒られるかな

 そんな感じで新進評論家のM.は偉人とか作家を知る場合、初めに本人が書いた本を読むことにしていた

 でも最近、行き詰まっていた
目の前にいるカノ女から、アナタなんだかんだ言って結局、他人が書いた本を読んで引用したりして、文章書いているだけでアナタの素の言葉がないじゃないの、他人の言葉についてばかりでアナタの元の言葉がない、それを “月を指さす指を見て月を見ない” 、と言うのよ

 引用されてしまった
それはたしか中国唐代の禅僧、第六祖慧能えのうの言葉など言っている場合じゃなかった
じっさいオレが評論している本を読んでないと、本を指さしているだけだもん
中学生高校生に人生とは何か、と予告編を言っているようなもの

「でも最近、月を指さして金儲けする、作家や芸能関係、宗教法人が多いわね」、
とカノ女の素の言葉がポツリ、


 ( 時代に影響される文学とはいっても、自分のことしか興味なく、あるいは嫌なこと辛いことがあったら、社会や政治を横目に見て、世の中を超越して美しい内面だけを見て行きたがる人が多くなるのはしかたなく、いっぱしの人生論をいいながら、ヤクザで風俗的な文化におちいりがちだった、裏の道を歩いていこうとする。

われわれが知るように
偉人が生まれる素地は逆境のときであり、すぐれた芸術が生まれて来るのもこうした情況の中だった。
笑顔で近づいてくるモノはどこか打算的で胡散臭く、
内から込み上がってくる反抗精神はひとりの自分じしんが現れてくるようだった。

ある女性の競技選手が切なく言い放った言葉は、かの女の存在をボクに感じさせた。
「わたしは、あの人の引き立て役じゃないのよ」 )


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