ジョジョラビット最高

ジョジョラビット　タイカワイティティ監督

10歳の男の子ジョジョの親友は自分が作り上げた妄想のヒトラー。ジョジョはナチスに盲信している。画面は暗くコントラストが強い。そこにもの苦しい不協和音の電子音が流れる。家の扉が開くと、一人ナチスの賛辞の言葉をつぶやく少年の姿が。顔にクローズアップする。少年の目は虚ろで、顔は青白い。そんな少年の姿をみて、母な嘆き悲しみ、希望なき世界を憂う。

そんな映画ではない。全然ない。

まず冒頭の数分間、ドイツ語のビートルズの「抱きしめたい」に乗せて、ナチスの少年部隊の訓練に参加するジョジョの光景がカラフルな色彩で生き生きとコミカルに描かれる。肯定していると感じる。ジョジョがナチスの信者であることを。ありのままでいることを。それだけで私は涙腺が緩む。もちろんナチスの信者でいることではない。ジョジョがナチスの信者であることを許容し、許すところから始めるこの映画の優しさに感動して泣きそうになる。

冒頭の映画の立場表明に使われるのがビートルズの「抱きしめたい」。パンフによるとビートルズの楽曲使用料金はとんでもなく高いらしい。にもかかわらずここで使う「抱きしめたい」。

ねぇ、君に話したい事があるんだ
きっとわかってもらえると思う
君にその話をする時
君の手を握りたい

とジョンとポールは歌う。しかも英語じゃない。ドイツ語で。泣くよ、そりゃ。冒頭だけでそんな感じなんで、可愛いジョジョが、妄想のヒトラーを自らの力でぶち倒すラストで涙腺は余裕で決壊。我が子の成長を見てる気分になってしまった。冒頭以外でも感想は山ほどある。ヒトラーを監督自身が演じてること、ヒロインのユダヤ人役の女の子がとっても可愛いこと、お母さんのスカーレットヨハンソンが大らかで愛に溢れていること、サムロックウェルがジャンプ漫画のめっちゃええお大人みたいなこと、ジョジョの親友がジャンプ漫画のめっちゃええ少年みたいなこと、街が色彩に溢れてること。最後がダンスで終わること。いいところが本当にたくさんある。

監督の母親はロシア系ユダヤ人で、ヒトラーを肯定出来るわけはない。でも中盤まではヒトラーがジョジョの救いにちゃんとなっていて、ジョジョの目線を通して、親友としてのヒトラーが描かれる。だからこそその思考が変化し、他者を受け入れていく過程はとても感動的に思えた。監督自身「ジョジョの成長物語の素敵なところは、いろんな人の影響を受けながらも自分の意思と体験によって考えを深め、羽ばたいていくところ」と言っている。本当にこの映画はそのことがよく伝わってくる。

ああ、パラサイト見に行こうと思ったのに土壇場で変えてよかった。子育て真っ最中の私には刺さりまくりました。大傑作。