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リコリス・ピザ

リコリス・ピザ ポールトーマスアンダーソン監督 2021年 

 登場人物たちがアホである。それは正義の名のもと選挙戦を戦う市長候補においても同様。脆さを抱えている。そのアホさは時代と並走していて、70年代の街の雰囲気とよく合っていた。フィルム然としたルックも、ファッションも、音楽も、まんま経験したことのない70年代のLAの風景。そうであるが故に最初とっつきづらく、映画世界に没頭できなかった。ただ主人公2人がLAの街の中で躍動し、時間が経過するたびに、見たことない70年代のLAが桃源郷のようにキラキラしたものに見えてきた。登場人物のアホな行為も街が優しく包んでいる。つまり映画が優しく包んでいる。

 LAの歴史的なことだったり、主人公2人が抱えてる生きづらさのようなものが確かにあるんだけど、走る2人にはそういうのがふっとんじゃうよなと思う。物語としてもそこが全然全景化されない。よくあるネタで物語が生まれない。走る2人が映画になって、その外側にあるものが全部置き去りにされる。だからこそ物語としてはなんだかよくわからないし、映画としては美しすぎる。所々変な演出入れてくるのは美しくしすぎないためだと思った。とはいえラストは超王道展開。走る二人に、この映画の中で過去走ってるシーンがオーバーラップする演出まで。この過剰さはつまり走ること=動くこと=映画への祝福で、映画最後の「愛してる」はPTAが映画やLAの街に言ってるようにも聞こえた。

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