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ワスレナの朝に

目が覚めて、ベッドの隣を確認する

不自然な空白

冷たいシーツ

触れたところからジワジワと広がっていく行き場のない悲しさが君のいない事実を教える


独りになってどれくらい経ったのだろう


未だぼんやりしている頭を起こすため洗面所に向かう

顔を洗って、焦げたトーストとつぶれた目玉焼きを食べ、スーツに着替えて家を出る

なにも変わらない

君がいなくなっても僕の生活は変わったりしなかった

決まった時間に会社へ行き、決まった時間に帰宅する

日々等しく夜は訪れるし、夜を越せば必ず朝がやってくる

君とおそろいのマグカップ

子ども用の変な味の歯磨き粉

録画に失敗した恋愛ドラマ

窓際に置かれた勿忘草

人の話を聞かない上司も、金曜日になると飲みに行こうと言い出す友達も、よく行くコンビニの店員も

なにも なにも変わらないのに

君が 君だけが この世界にいない


一緒に暮らすことになったとき、君は少しの荷物と勿忘草の鉢植えを持って家に来た

ー勿忘草にはね “私を忘れないで” って花言葉があるの。だからこの花を見るたびに私のこと思い出してよね、忘れたら怒るから

そんなことを言って意地悪な笑みを浮かべて楽しそうにする君が

とても愛おしかった

だから冷たく息苦しく感じるこの日々を、つらくないと言えば嘘になる

でもそれでいいのだと思いたい

きっと君なら笑ってくれる


いつか僕はまた恋をするだろう

君以外の誰かと

君とは見られなかった未来を描いていく



この窓際に置かれた勿忘草と一緒に













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