あるところに、家族と仕事が大好きな、一人の女の人がいました。
彼女の家族は、二人の小さな子どもたち。そして、近くに住む彼女の両親たち。
彼女の仕事は、書くこと。
彼女は、家族も仕事もとても大切に思っていました。大切なものがあって、自分は幸せ者だといつも言っていました。
けれどもある日、彼女は悲しくて泣いていました。
子どもたちが全然ご飯を食べないからです。それだけではありません。小さい方の子どもが全然眠らないのです。
彼は毎日、お月さまがお日さまと入れ替わるまで、何度も泣いて彼女を起こすのです。
眠れない日が続くと、彼女の心は小さくトゲトゲになっていきます。
トゲトゲの心で見渡す世界は、とても暗い世界。彼女は、大好きなはずの子どもたちにトゲトゲの言葉を放ってしまいました。
彼女の近くに住む他の家族は、いつもあらゆる方法で彼女を助けてくれます。ご飯を作ったり、子どもたちのお世話をしたり。
いつもならそんな家族に「ありがとう」と言えるのに、心がトゲトゲになった彼女は「ごめんね」しか言えなくなってしまいました。
そして、トゲトゲはついに、涙になって体の外まで出てきてしまったのでした。
彼女は、小さくてトゲトゲの心を、まるい心に戻すために旅に出ました。
旅に持って行ったのは、仕事・音楽・洋服でした。好きなものを旅のおともに選べば、きっと楽しいと思ったからです。
仕事をしていると、仲間やお客さんが喜んでくれました。彼女はやりがいという宝物を手に入れました。
音楽を聴くと、嫌なことを忘れて体が勝手に踊り出しました。彼女は癒しという宝物を手に入れました。
素敵な洋服を着て歩くと、自分の姿も素敵に見えて嬉しくなりました。彼女はときめきという宝物を手に入れました。
でも……彼女は長い時間、そして遠くまでは旅に出られません。小さな子どもたちが寂しくて泣いてしまうからです。
それに何度も旅に出ていると、お掃除をする暇もありません。彼女の家は汚れてしまいました。
途方に暮れた彼女は、お月さまを眺めていました。お月さまが彼女に気づいて話しかけました。
「いいことを教えてあげよう。」
僕とお日さまが何度も何度も入れ替わるうちに、小さな子どもたちは大きくなる。
そうすると彼らは君と一緒に旅に出られるようになるんだよ。そして旅の先で、彼らもそれぞれの宝物を見つけるんだ。
そのとき君は今よりも長く仕事ができて、今よりもたくさん音楽で踊れて、今よりも自由に素敵な洋服を着れるようになっているはずだよ。
だから、トゲトゲしなくても大丈夫。子どもたちと長い旅を楽しめるまで、ささやかな旅を繰り返すんだ。
焦ってはだめだよ。
僕とお日さまは、毎日同じように空に昇っているように見えるかもしれないけれど、実はね、毎日違う光で君を照らしているんだよ。
毎日少しずつ、君の時間は動いているんだ。
だからトゲトゲして悲しくなったら、「今は今の光の中でできることをすればいい」って心の中で唱えるんだ。
さあ、お日さまが昇るまで、おやすみ。
お月さまのお話が終わると、彼女は自分の心がまるくなっていることに気がつきました。
そして、お日さまが明日の光で照らしてくれるのを楽しみに、寝息を立てる小さな子どもたちの隣で眠りにつきました。
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