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自然に触れ、食の本質を考えたい ユズの調味料など人気の農家 美馬市の足立さん夫妻【my life-私はこの道を見つけた-】

 小鳥の声が響く美馬市美馬町の山の中。足立由美子さん(50)は夫の匡嗣さん(47)と共に、世界農業遺産「にし阿波の傾斜地農耕システム」が息づく地域で、無農薬・無施肥にこだわって農業に励む。京都から移住して2017年に就農した。持ち主の高齢化により手入れができなくなったユズ畑を引き継ぎ、加工食品を手がけ、昔ながらの手植えや手刈りで米の自然栽培に取り組むなど、さまざまな挑戦を続けている。

Kotorineの畑。取材時はニンニクが植えられていた

 農地を借り、ユズ0・3ヘクタール、畑0・3ヘクタール、田2ヘクタールを2人で管理する。自分たちで育てたユズやニンニク、唐辛子などと地元産品で作る加工食品は、自家製米麹が入った味わい深い「柚子こしょう」や、地中海地域発祥の調味料をモチーフにした、ニンニクのうまみと唐辛子の風味が特徴の「VIVASSA」が主力。スパイスとの相性抜群のインディカ米「サリークイーン」も人気だ。「Kotorine(ことりね)」のブランド名で、基本的にECサイトで販売するほか、県内外のイベントにも出店している。

インディカ米「サリークイーン」

 由美子さんは生まれも育ちも京都。京都で美容師をしていたが、以前から有機農業に興味があり、京都や滋賀、福井の農家に畑作業や田植えなどを体験させてもらっていた。長女が生まれ、子どもに安全安心なものを食べさせたいとの思いも強まった。農家の人たちと交流する中で、自分も農業を始めたいと考えたきっかけの一つに11年の東日本大震災がある。

 「(東京電力福島第1原発事故で)放射能汚染など農作物に対する風評被害が問題になりました。そのとき、産地だけで農作物を判断しようとする自分に気づいて、それがすごく嫌だと感じたんです」と当時を振り返る由美子さん。「消費者である私たちは農家さんが作ったものを食べなければ生きていけない。農業を始めたのは『消費者ってなんだろう』と思ったことが大きいですね」

 美馬には知り合いが移住したのがきっかけで足を運ぶようになり、地域が気に入って、15年に由美子さんが長女と移住。農地の確保など就農に向けた準備を進め、行政書士をしていた匡嗣さんも17年に移り住み、家族で農業を始めた。

 農業の傍ら、由美子さんは食の本質を伝えようと、食育カウンセラーを招いた「食のお話会」を開催。徳島県西部の観光振興に取り組む一般社団法人「そらの郷(さと)」(三好市)の体験型教育旅行を受け入れ、児童生徒や学生、民泊向けの農業体験などを積極的に行っている。

 「自然の中で土に触れて、誰かとしゃべりながら作業をして、五感を使いながら自分が食べるものに関わることで、心の在り方が変化することを期待しています」。そう語る由美子さんは、田んぼのシェアオーナー制度もスタートさせた。一枚の田んぼを一口いくらで買ってもらい、月に一度くらい集まって一緒に作業し、最終的に自分のお米として食べてもらう。「そういう体験は貴重だと思うし、高齢化や過疎化で放棄地となっていく田んぼを利用すれば土地を守ることもできます。一石二鳥です」と笑う。 

田んぼのシェアオーナー制度「kotorine田んぼファンクラブ」を始めた足立さん

 さらに、石井町のだしソムリエと共に「薬膳粥(がゆ)」を開発するなど異なる業種の人と協力して新商品を作ったり、知人のつてで調味料をアラブ首長国連邦(UAE)・ドバイのタコス屋に置いてもらうためハラル認証を取得する計画を進めたりと、活動を広げている。既存商品の展開拡大に向けて広報用のパンフレットも作る予定だ。

 「どういうことをしていきたいのか、未来のことを少しでも発信していれば、いろんな人が応援してくれて、それがチャンスにつながることもあります。一つ一つを大切にして、チャレンジしていきたいですね」と夢を膨らませている。


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