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人工知能の無料配布は、パンドラの箱か、新しい世界変革のはじまりか

この記事は2022年8月27日Yahooニュース個人寄稿記事の全文転載です。

今月に入り、ネット業界を中心に大きな話題を読んでいたのが人工知能、AIを使用した様々な画像生成サービスです。

8月に入ってから日本でも大きな話題になっていたのが「Midjourney」という画像生成AIですが、8月23日に「Stable Diffusion」というAIモデルが公開され、業界でさらなる大きな衝撃が走っています。

詳細は上記の記事に詳しく整理されていますが、「Stable Diffusion」の最大の衝撃は、個人が保有しているPCでも動作可能なAIモデルが、オープンソースで無償公開されたという点でしょう。

このことが生むインパクトを「Stable Diffusion」公開の前日に記事にまとめた深津さんのツイートが2万を超えてリツイートされ、記事タイトルの「世界変革」がツイッターのトレンド入りしたということが、その衝撃の大きさを物語っていると思います。


1分もかからずに指示された画像を自動で生成

画像生成AIについて詳しくない方に「Midjourney」や「Stable Diffusion」のようなAIが実現してくれることを簡単に説明すると、誰でも自分の専属イラストレーターを雇っているかのように、文章で指示した画像をAIが自動生成してくれるサービスです。

例えば、この記事の冒頭に挿入したこちらの絵は、私が「ドラゴンクエスト をルノワール風に描いて」と指示して生成された画像。

こちらは「ドラゴンクエストをピカソ風に描いて」と指示して生成された画像。

こちらは「ドラゴンクエストを北斎風に描いて」と指示して生成された画像。

そしてこちらは「ドラゴンクエストを写真で」と指示して生成された画像です。

細かい設定をせずに描かせた絵なのもあり、顔がおかしくなっている点が多々ありますが、それでもこのレベルの画像が1分も経たずに生成されてしまうと言うのが画像生成AIの驚く点です。

当然、私が自分でこのレベルのイラストを描くには膨大な時間がかかります、というか、私ではこのレベルのイラストは永遠に書けないでしょう。

そのため、既に8月中旬には、「Midjourney」のような画像生成AIにより、画家やイラストレーターの仕事がなくなってしまうのではないかという懸念が、関係者の間でも拡がり始めていました。

ただ、この時点ではまだ「Midjourney」は無料で25回程度は使えるものの、その後は有料というモデルのため、そのインパクトは限定的と考えられていました。

そこに飛び込んできたのが「Stable Diffusion」というAIモデルの無料配布のニュースというわけです。

一般公開は「社会への影響が大きすぎる」

こうしたAIというのは、これまでにも様々な企業が開発してきたものの、基本的には企業向けであったり有償での利用が前提とされてきました。

冒頭にご紹介した深津さんの記事によると、これまでは、こうしたAIを一般に公開するのは「社会への影響が大きすぎる」という考えを持つ企業や研究者が多かったようです。

しかし、「Stable Diffusion」の開発企業は逆に「すごいAIを、一部の大企業や個人が独占するのは健全ではない」という思想を持っているそうで、従来の企業が一般に公開するべきではないと考えていたAIを無料公開するという決断に至っているわけです。

しかも、「Stable Diffusion」の衝撃は画像生成に留まりません。
今後、音声や映像や3Dの分野にも、同様な可能性を秘めたAIが公開される予定になっているのです。

サンプルとして公開されているこちらの動画では、テニスプレイヤーの動画の背景がAIに指示を出すたびに自動的に切り替わるデモが公開されています。

AI画像生成によって、一般人が専属イラストレーターを雇ったかのように様々な画像を作れるように、今後は一般人が音楽家や映像編集者を雇ったかのように様々な音声や音楽、映像や3Dモデルを作ることができる未来がみえてきているわけです。

AIの無料配布はパンドラの箱を空けたのか

ここで、当然気になるのは、このAIの一般人への無料配布という衝撃は、私たちの社会にどのような影響を与えるかという点でしょう。

これまでの企業や研究者が懸念してきたように、AIの無料配布はいわゆるパンドラの箱を空けるような様々な問題が噴出する結果になるリスクもあります。

特に著作権は、こうしたサービスをこれまで想定していませんでしたから、これから相当な激しい議論や訴訟が行われることになるでしょう。

また、これまではAIを使う企業が限定されていたため、ある程度生成される画像に対する性的なものやフェイクニュース的なもののリスクを回避するような自己規制がされてきました。

ただ、例えば「Stable Diffusion」の画像生成サービスで「オバマ大統領」を依頼すると、あっさりとこんなフェイク画像が生成されてしまいます。

現在のロシアとウクライナの戦争においても様々なフェイクニュースが飛び交っていると言われていますが、そうしたフェイクニュースや嘘の写真をこれからは一般人も簡単につくり出すことができるリスクがあるわけです。

AIによって生成されたウソの写真や動画によって戦争が始まってしまう、という未来さえ、もはや笑い話ではなくなりつつあります。

私が「ウクライナとロシアの戦争の写真」とAIに指示しただけで、こんな写真のような画像が生成されてしまうのです。

また、一部のイラストレーターが懸念しているように、これまで想像していた以上に、人間の様々な仕事がAIによって奪われてしまう可能性は高いでしょう。

これまでは、AIやロボットが行えるのは、どちらかというと単純作業であると考えている方が多かったと思いますが、ついに絵を描くというクリエイティブな領域にもAIが進出してきたことになります。

イラスト、音楽、動画など、人間の領域と考えられていた部分の様々な仕事の一部が、思ったよりも早くAIに置き換えられていく可能性が出てきているわけです。

既に新しい創作活動も生まれている

一方で、当然ポジティブな変化も様々に考えられます。

私が画像生成AIのおかげで、数分の作業で何枚もこの記事の挿絵を作成できてしまったように、これからは誰もが専属のイラストレーターがいるかのように、気軽に画像を生成することができるようになります。

それにより、これまでは文字だけだった小説や記事に挿絵を作ることが手軽にできるようになるわけです。

実際に、Twitter小説「ニンジャスレイヤー」は8月上旬から「Midjorney」を使って挿絵を入れて話題になっていました。

また、絵師のあぶぶさんは「Stable Diffusion」などで生成させた画を30枚ほど並べ、それに台詞をつけてマンガを作るという実験的作品を早速公開。
ツイッター上で話題になっています。

また、AI画像生成はプロの漫画家やイラストレーターにとっては、自分の仕事を奪われるというリスクがあるだけではなく、AI画像生成を自らが使うことで自分の作業を効率化できるというメリットがあることも明確になっています。

例えば、フガクラさんは「機械仕掛けの想像力」という記事で、イラスト生成の過程でAI画像生成サービスを活用することで、大幅な時間短縮ができる可能性を解説し、業界関係者の間で話題になっていました。

「Midjourney」が日本で話題になり始めてからまだ1ヶ月程度、「Stable Diffusion」の無料配布がはじまってまだ1週間も経っていないことを考えると、こうした新しい活用事例が今後飛躍的に増えていくことも間違いないでしょう。

新しい世界変革の入り口にいるのは間違いない

「Midjourney」も「Stable Diffusion」も、画像生成の指示をする際に基本的に英語を使うため、日本人で少しハードルを高く感じる方も少なくないかもしれません。

ただ、そういう方向けに、清水さんが日本人向けに無料で使えるAI作画サービスを公開するなど、「Stable Diffusion」の無料配布の理念は日本でも拡がり始めています。

「Stable Diffusion」の無料配布から数日でこうした新しいサービスが生まれているという事実が、これからAIによる変革がますますスピードアップしていく可能性を体現しているようにも感じます。
この記事を書いている間にも、世界中で「Stable Diffusion」を活用した新しいツールやサービスが次々に生まれているのです。

今後、AIの無料配布をめぐってどのように社会や政治が反応するのかは分かりませんし、ポジティブな結果とネガティブな結果のどちらが多くなるのかも分かりません。
ただ、少なくとも私たちが、活版印刷や銃の発明、そしてインターネットの登場やスマホの普及などに匹敵する、新しい大きな世界変革の入り口に立っていることは間違いないでしょう。

まずは百聞は一見にしかず。
自分自身でAIの実力を体験してみることをお勧めします。

この記事は2022年8月27日Yahooニュース個人寄稿記事の全文転載です。


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