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一晩で中国市場を全て失ってしまったドルガバ炎上事件の衝撃

この記事は2018年11月23日にYahooニュース個人に寄稿した記事の転載です。

日本では、日産とゴーン元会長の話題が、日本とフランスの外交関係に大きな影響をおよぼしそうな昨今ですが、お隣の中国ではイタリアを代表する世界的なファッションブランドであるドルチェ&ガッバーナが大きな炎上騒動になってしまっているようです。

中国とイタリアの炎上騒動ということで、自分には無関係と思う読者の方も多いかもしれませんが、今回の騒動は多くの日本企業にも他人事ではない話だと感じましたので、こちらでご紹介しておきたいと思います。

具体的な炎上の経緯は、こちらのなつよさんのツイートや、下記の英語記事が詳しいですので、是非ご覧頂ければと思いますが。

簡単に時系列でこちらでもまとめてみます。

■11月17日
 ドルチェ&ガッバーナのSNSアカウントに、上海のショーのプロモーション動画が順次3本アップされる。
 この動画が中国に対して失礼ではないかと中国でも騒動に。
 中国のSNSであるWeiboからは結果的に動画は削除(今は消えてるが当時は、インスタやツイッターは削除せず)

■11月19日
 Diet_PRADAなど、影響力の高い英語系アカウントでも批判が高まる。
(このダイエットプラダは、ファッション業界でも恐れられているネタバレアカウントというのがポイント)

■11月19日~21日?
 上記の投稿に関連して、ミカエラさん(@michaelatranova)が、インスタのストーリーズでステファーノガッバーナ氏をIDメンションして批判。
 批判を見たステファーノガッバーナ氏がインスタのメッセージでミカエラさんを挑発。二人の間でチャットでの議論が開始。

 ステファーノ氏は、中国のWeiboから動画が削除されたのは、自らの意思に反して中国のスタッフが勝手にしたもので、自分自身は動画を撤回する意思はなかったと明言。
 さらに中国を明確に口汚く侮辱した後に、こんな投稿など私が恐れると思うのか?と挑発。

■11月21日
 ミカエラさんが、DMのやり取りを全てインスタグラム上にキャプチャで投稿。

■11月21日
 Diet_PRADAが上記の投稿をインスタグラム上に掲載。騒動が拡大。

 並行して、他の人にもステファーノガッバーナ氏が差別的発言のDMのやり取りをしていたことが明らかに。

■11月21日
 夜に開催される上海のショーに出る予定だったメインゲストの一人が出席を辞退して飛行機を引き返す。これが引き金になり、契約タレントがブランドとの解約を宣言しはじめる。

■11月21日
 ドルチェ&ガッバーナの公式アカウントには、公式アカウントとステファーノガッバーナ氏のアカウントがハッキングされていたので法務部が調査している旨の投稿がされる。

■11月21日
 並行して、ステファーノガッバーナ氏がリークされたDMの発言は自分ではないとインスタに投稿。火に油を注ぐことに。


■11月21日
 Weibo上で、Not Meと自分の写真に文字を入れて、ショーに出る予定だったモデル達が次々にボイコットを宣言。
 さらに全ての芸能人、インフルエンサーが出席を拒否。
 チャン・ツィイーの事務所は、今後スタッフも含めてドルチェ&ガッバーナの製品を使用しないと表明して話題に。

■11月21日
 上海で開催予定だったドルチェ&ガッバーナのショーは中止に。

■11月21日
 並行して中国全てのECサイトから、ドルチェ&ガッバーナの商品が消えていく。

■11月21日
 ドルチェ&ガッバーナの公式アカウントに、上海のショーの中止について公式に投稿がされる。

 さらには、中国の空港のドルチェ&ガッバーナのお店からは商品が撤去されているらしく。
 ある意味、まだ現在進行形の炎上騒動であり、今後どのような展開になるのかは先が全く見えませんが、世界のネット炎上の歴史のなかでも、おそらく最速で最大の規模の炎上事件と言えると思います。

■ドルチェ&ガッバーナは4時間ほどで全てを失った

 ここで、ポイントとなるのが2点。
 まずミカエラさんの投稿から、ショーが中止になり、中国のECサイトからドルチェ&ガッバーナの商品が消えるまで、全てが11月21日におこっているという点です。
 インスタグラムの投稿では正確な時間は分かりませんが、具体的には、Diet_Pradaのリーク投稿からショーの中止決定までは、どうもほんの4時間の間の出来事だった模様。

 上海のドルチェ&ガッバーナの関係者からすればまさに悪夢の4時間だったと言えるでしょう。
 ドルチェ&ガッバーナは、上海のショーを通じて加速させるはずだった中国市場への展開を、たった4時間であっという間に全て失ってしまったことになります。

■ハッキングされたという発言を信じる人は少ない

 しかも、さらに注目されるのが、炎上の起点となっているのが、ステファーノガッバーナ氏とミカエラさんの間のインスタでのメッセージのやり取りだったことです。

 現時点では、ドルチェ&ガッバーナ側の公式見解は、アカウントがハッキングされていたということですが。
 状況証拠だけ見ると、その発言を信じる根拠はかなり薄いというのが現状です。
 
 何しろ、ハッキングされたわりには、公式アカウントにもステファーノ氏のアカウントにも、おかしな外部向けの投稿はされていません。
 炎上の火種になったのは、あくまでミカエラさんとのパーソナルなチャットのやり取り。

 もちろんハッカーが、炎上させるためにアカウントをハッキングして、ミカエラさんに失礼なメッセージを送るという選択をした可能性はゼロではありませんが、ハッカーとしてはやることが小さすぎる印象です。
 おまけに、ミカエラさんとステファーノ氏のやり取りのログを見る限り、ステファーノ氏でなければ投稿しなさそうな発言が随所に出てきますし、さらに悪いことに上海のショーの準備をしているという投稿をインスタのストーリーズに投稿する際に、ミカエラさんの投稿もリポストしていた模様。

 現時点では、ほとんどの人がハッキングという発表自体を信じていないのが現実でしょう。

 実際問題、不適切投稿をしたときにハッキングを言い訳にするというのは、よくある光景だったりしますので、今後よほど明確にハッキングの証拠を提示できない限り、この印象を覆すことは難しいと言えるでしょう。


■炎上の起点は、たった1人とのチャットだった

 ミカエラさんは、ロンドン在住のファッション関係の仕事をされている方のようですが、ミドルネームなどをみるとアジアにルーツがある方の模様。
 ドルチェ&ガッバーナのアジア人差別とも取れる動画に対して抗議をしたら、まさかのステファーノガッバーナ氏からメッセージが届き、延々口論する羽目になり、怒りが収まらずやり取りを公開した、ということのようです。

 (ハッキングの可能性は残っているとして)仮にステファーノ氏が自らメッセージを送っていたとしたら、まさかインスタのチャットのメッセージをそのまま公開され、よりによってDiet_Pradaに大きく取り上げられるとは思っていなかったはず。
 
 逆に言うと、オープンな投稿ではなく、プライベートであるはずのメッセージのやり取りにおける失言が、これだけ大きな騒動になったのは珍しいケースと言えるでしょう。
 
 直接フォローしていないアカウントともメッセージがやり取りできるインスタグラムならではの炎上騒動と言えますが、今後同様のことが日本でもおこらないとは言い切れないわけです。
 実際、ベッキーさんの不倫騒動が明確に炎上したのは、週刊文春によるLINEのやり取りのキャプチャ公開でした。
 
 企業のサポートメールの文面がネット上にさらされることはもはや珍しくありませんし、今回と同様に企業の経営者のインスタのメッセージが、相手にさらされてしまうことは今後確実にありうる未来と言えるわけです。

 たった1人が相手だからといってもはや甘く見てはいけない時代だと言えます。
 実際には、ペヤングの異物混入にしても、PCデポのサポート騒動にしても、ほとんどの炎上は1人の投稿から始まっていますし、そもそも日本の最初のネット炎上騒動は東芝クレーマー事件という1人の人とのサポート対応です。

■過激な発言のリスクは、確実に上がっている時代

 ちなみに、ステファーノガッバーナ氏は、昔から過激な発言をよくすることで有名な人でもあります。

 上記の記事のように炎上をうまくブランディングにつなげていると褒めている記事もあったぐらいですから、ドルチェ&ガッバーナはSNSマーケティングにおいては上級者と言える企業です。 
 今回の問題になった動画も、ステファーノ氏からすると、ある意味ドルチェ&ガッバーナならではの、炎上覚悟のマーケティング活動の一環だったのかも知れません。

 ファッション業界での炎上発言と言えば、日本でもZOZOの前澤さんや田端さんの炎上騒動が記憶に新しい人も多いと思います。

 ある意味ファッション業界は、そういう個性的なキャラクターの人が多い業界ということも言えるのかも知れません。
 無難な発言しかしないアカウントがつまらないのは事実ですし、本音をハッキリ言ってくれるアカウントが人気を集める傾向にあるのは事実です。
 
 ただ、今回のステファーノガッバーナ氏の発言に関しては、明らかに中国国民からすると一線を完全に越えてしまった発言であり、ドルチェ&ガッバーナは文字通り一夜にして(正確には夜を迎える前の数時間に)中国市場の全てを失うことになってしまったわけです。

 この炎上騒動をステファーノガッバーナ氏ならではの特殊な現象と片付けるのは簡単です。

 ただ、当然ながら同じような問題がおこる可能性は、中国市場に進出している全ての日本企業にも存在していますし。
 同じような炎上騒動が、中国以外の国で起こる可能性も、日本国内の市場でおこる可能性も、当然存在しています。
 

 インターネット上においては相手の顔が見えない関係で、どうしても言葉が過激になりがちですし、感情的になって相手を罵倒してしまうシーンもよく見られます。
 ただ、インターネット上の発言は文字に残り、キャプチャされ、簡単に公開されてしまう時代です。

 実は文字のコミュニケーションは、対面の会話よりも表情や声のトーンがない分、誤解されやすく、ケンカになりやすい難しいコミュニケーションであるとも言えます。
 オープンな投稿だろうが、チャットだろうがメールだろうが、全ての発言を人間同士のコミュニケーションと捉えて、冷静に発言していくことが重要になっています。

 過激な発言のリスクが日に日に大きくなってきていると感じるのは、きっと私だけではないはずです。

この記事は2018年11月23日にYahooニュース個人に寄稿した記事の転載です。

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