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エステーの消臭力「空気を変えるぞ」CMに学ぶ、企業の「広告」ができること

今週月曜日から、エステーの「消臭力」の新しいテレビCMの放映が開始されました。

歌手の西川貴教さんが、
「悲しい時は泣けばいい。ただ明日の朝には笑ってる、君がいてほしい」
と歌い始め、最後には「空気を変えるぞー!」と、大声で崖の上から叫んでいる、なんとも不思議なテレビCM。

実際に、このテレビCMをご覧になった方は、泣けるような笑えるような、きっと不思議な感覚を覚えているのではないでしょうか。

「空気を変える」エステーのテレビCMの歴史

消臭力のテレビCMといえば、東日本大震災後の2011年4月、「ラーラーララー」とうたいながら最後に「ショウシュウリキー」と歌い上げる不思議なテレビCMを覚えている方も多いはず。

当時、震災直後にテレビCMが自粛ムードでACのコマーシャルに差し換えられ、何度も何度も流される同じテレビCMにつくづく飽きていた私たちにとって、ある意味、この消臭力のテレビCMはクスッと笑わせてくれる救いをもたらしてくれる存在でした。

ちなみに、そのテレビCMを見て、その曲をコンサートで披露するという西川さんのツイートから、西川さんが消臭力のテレビCMにでるようになったという経緯があります。

その西川さんが、この新型コロナウイルス感染拡大で不安が拡がる日本で、「空気を変えるぞ」と私たちに呼びかけてくれているのを考えると、また違ったものをこのテレビCMから受け取れる気もするはずです。

ギリギリで間に合ったテレビCM撮影

東日本大震災後、日本全国が自粛ムードの中であのテレビCMを制作し、放映できたエステーですから、今回の「空気を変えるぞ」CMが作れるのも当然と思う方も少なくないかもしれません。

ただ、この広告を企画されたエステー執行役員の鹿毛さんにとっても、今回のテレビCMを放映する上では大きな葛藤があったと聞きます。

筆者は、鹿毛さんと10年以上のお付き合いで、お仕事もご一緒したことがあります
先日も、私が企画したオンライン勉強会で、鹿毛さんに背景をお聞きする機会がありましたが、CMを撮影した頃と現在の状況が大きく変わった点を、当時は想像できていなかったとはっきり発言されていたのが印象的でした。

このテレビCMを鹿毛さんが企画されたのは2月。そして撮影をされたのは3月12日のことです。
今振り返ると信じられない話ですが、3月12日の段階では、まだ日本の感染者数は600人台に留まっており、アメリカの感染者数も増え始めてはいるものの1600人台でした。

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それが1ヶ月の間に、事態は急速に悪化していきます。

日本でも3月下旬の外出自粛要請、4月の非常事態宣言と事態も社会の空気もどんどんと悪くなっているわけです。

現時点では当然CM撮影も自粛でできなくなっていますから、このCMはギリギリのタイミングで運良く撮影できた、と言うことができるかもしれません。

意思が込められた広告は、私たちの心を動かす

個人的に、いま実際に放映された消臭力のテレビCMを見て、あらためて感じるのは、やはり広告と言うものには大きな力があるということでしょう。

ネット広告技術の発達により、バナー広告がいつまでも追いかけてくるようになったり、スマホのポップアップ広告や記事閲覧中に邪魔してくる広告などの登場により、「広告」というものが多くの人にとって嫌われ者になっていると言われています。

最近では本来はステルスマーケティングという消費者に気づかれずに広告をするやらせ的な広告のことを「ステマ」と呼ぶはずが、一部のネットユーザーの間では宣伝広告行為そのものを「ステマ」と呼んで叩く傾向すら出てきています。
その結果、一部企業の間では、いかに広告を広告と分からないように実施するかという手法が進化してしまい、結果的にその手法がステマと指摘されて炎上するというケースも増えているわけです。

しかし、今回のエステーのテレビCMが教えてくれるのは、企業の「意思」が込められた広告には、明らかに私たちの心を動かす力があると言うことです。

いま、企業が「広告」でできること

テレビをつけていると、次々に新型コロナウイルス関連のネガティブなニュースが流れ込んできますし、医療崩壊の危機が叫ばれ、飲食店やイベント企業などは本当に深刻な状態に追い込まれていると言われています。
テレビでもネットでも、様々な人がお互いを非難したり、責任をなすりつけたりと、明らかに新型コロナウイルスがもたらしたストレスが、人々の間の空気を悪くしています。

ウイルス感染拡大以前に制作したテレビCMが世相に合わず批判されるケースも出てきているようですし、ウイルス感染拡大に便乗した広告も増加してしまっているようです。
今後は、景気の悪化による企業の業績悪化が見込まれるため、真っ先に宣伝広告費から削減されているという話も聞きます。

一方で、そういう状況だからこそ、特に大企業においてはこれから、自分達の「広告」をどのように実施していくのかというのが問われていると言えるでしょう。

ビジネスだけを考えたら、ウイルスの脅威をアピールして自社商品を売り込むことも可能ではあります。
ただ、もし多くの企業がエステーのように、私たちを少しクスッと笑わせてくれたり、勇気をくれる広告を展開してくれたなら。

日本の空気が少しずつ良い方向に変わっていくかもしれない。
そう考えてしまうのは、きっと私だけではないはずです。

この記事は2020年4月16日にYahooニュースに寄稿した記事の転載です。


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