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これからのマーケティングで重要なのは、認知を取った後の体系化されてない9割の部分

今年開催されたマーケティングアジェンダ2018の基調講演が非常に参考になったので、こちらにもメモをシェアさせていただきます。
(先日、アジェンダノートに「私たちはマーケティングのプロ集団「P&Gマフィア」と、どう対峙すべきか」という記事を書きましたが、この記事を書くきっかけとなったセッションです。)

初日の基調講演は、ブランドをテーマに、P&Gのファブリーズとエステーの消臭力の躍進の裏側を、関係者が語ってくれるというとてもプライスレスなセッションでした。

速記メモになりますが何かの参考になれば幸いです。

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■愛を叫べ、意味を創れ
・エステー 鹿毛さん
・クーマーケティングカンパニー 音部さん
・吉野家 伊東さん
・ドミノピザ 富永さん

■テーマ:P&G ファブリーズとエステー 消臭力

■ブランドとは?
・ブランドとはお客様との約束(伊東)
 ブランドにより強い粗利が作れて投資ができてブランドを継続できる
・ブランドとは意味、意味づくり(音部)
 ブランドは変な方に行ってしまうこともあるが、それもブランド。
・ブランドは関係性。消費者側から見て一緒に作っている(鹿毛)
 ブランドは買った人のものでもある(雪印事件の時の経験から)
参考:愛されるアイデアのつくり方 (鹿毛康司) 

■ファブリーズは最初の頃は3%ぐらいの試用率だった。
 最初のターゲットは布製品のニオイ取り。 ファブリックケアの商品だった。
 ソファやカーテンのニオイを気にする人はそれぐらいしかおらず、一度使うと良くなるので減らない

■日本全国の7割の人が毎日のように使ってもらうためにはどうすれば良いか?という議論をした。
 その過程で、ルーティーンで使ってもらう、という視点が出てきた。のちに、ファブリックケアではなくホームケアではないかという視点も出てきた。
 その結果、あらためて仮想ライバルとして置き型の消臭剤をターゲットとしたマーケティング戦略をたてなおした

■衣料の洗剤の棚と消臭芳香剤の棚は担当者も違う
 P&Gは当初、あえて消臭芳香剤とは見せないように当初は展開していた
 通常、守る側のエステー側は消臭芳香剤のPOSデータだけでシェアを判断してしまいがち。(実際には経営者は、早くから合わせて見るようにはなっていた)

■エステーとしては、巨大企業のP&Gが自社の市場に本格参入してくると、広告費の規模感も違うし、どう対応するかは非常に難しかった。

■人の生活において新しいルーティーンを作るのは難しい
 ファブリーズを日本人の生活に定着させるのは当初難しかった

■ルーティーンを変えるための方法
・今あるルーティーンにくっつける (歯磨きした後に口腔洗浄剤でさらに洗う)
・今までのルーティーンと入れ替わる(車での出勤を電車やUBERに買える)
※全く新しいルーティーンを作るのは非常に難しい。

■そこでファブリーズは、お掃除の習慣にくっつけるという選択をした
 これが習慣になれば、置き型の消臭剤を買う習慣を忘れてくれるのではないかという仮説を立てた。
 特に消臭剤は購入サイクルの期間が長いので、変えやすかったはず。

■ただ、置き型消臭芳香剤市場とスプレー型消臭剤市場は9:1の違いがあることが分かった。
 人間はニオイを取るために何度もスプレーをするのは面倒と感じる。
 そこでP&Gもステルスモードを諦め、正面から置き型の商品を出すという選択をした。
 しかし、エステーや小林製薬からシェアを奪うのではなく、新しい市場を取りに行くという選択をした。

■エステーとしては、スプレー型のファブリーズの信者は置き型もファブリーズを買ってしまうので、この顧客を取りかえそうとするのは諦めることに。

■2011年、エステーが震災後にミゲルのテレビCMを実施。
 消臭芳香剤市場の競争の方向性が根本から変わってしまった。

参考:消臭力CM "唄う男の子 ミゲル"

 これまで消臭芳香剤市場は、商品の価値や市場が人の生活にどう役に立つかというコミュニケーションばかりをしてきた。
 エステーにおいても、消臭剤ごときが社会的なことや消費者の生活を語るというのはありえないと思い込んでいた。
 ただ、この時は震災後ということもあり、悩みながらやってみたら予想以上にうまくいった。

■P&G側は、エステーのミゲルのCMがなぜ消臭力の躍進につながっているのか、外国人の上司には説明のしようができなかった。
 P&Gの視点からすると、屋外で少年がうたっているだけで商品の便益も価値も何もアピールしていない、謎の広告に見える。

■なぜミゲルのCMは消臭力の売り上げを大きく上げることができたのか
・そもそも「消臭力」という言葉自体で「ファブリーズ」に比べるとイメージがしやすい
・ニオイを消したいという商品は想起率勝負のカテゴリー。
・15秒惹きつけられて、ポジティブな感覚になるテレビCMにより、想起率が大きく引き上げられた結果、棚の前で商品を選ぶ時に商品名との組み合わせで消費者は自然と消臭力を選択する結果になったはず。
・子ども達が覚えてうたってしまう歌というのも大きかったはず。

■エステーでは消臭力のテレビCMは鹿毛さんが半分以上作曲している
 エステーでは音から入ってテレビCMをつくることが多い。

■ミゲルのCMのようなテレビCMをP&Gのような会社がやりにくい理由
・ブランドが確立されると長期的に利益をあげやすくなる
・ブランドに寿命がないのは、存在理由を意味、つまりベネフィットに依存しているから
・そうすると全てのマーケティングコミュニケーションはブランドのベネフィットを伝えるための活動に投資すると判断しがち
・ミゲルのテレビCMのようなものは、投資によるベネフィットコミュニケーションの成果へのつながりが想像しにくく、決定しにくい。

■実は消臭力のテレビCMの歌は、あるテーマに沿って常に新しいものに変えつづけている。
 ブランディング広告なんてものは信じていない。
 常にエステーではテレビCMをうつごとに売上にどう反映されているのかを確認している。
 社長に、「あなたに投資しているんだ」と言われているので物凄く怖い。

■ファブリーズにおいても、テレビCMは2週間で結果が出ていた。
 良いテレビCMを作れば売上はポンと跳ねるが、悪いテレビCMではびくともしない。

■恋に落ちることと例えると分かりやすいかもしれない。
 ベネフィットをアピールする手もあるかもしれないが、エステーは「好き」を作ることに成功したと言える。

■名前を覚えてもらうのが「認知」ではない。
 どういう人かを覚えてもらうのが「認知」になる
 ただ、ここまでは恋に落ちることで考えると10%ぐらいでしかない。
 体系化されていないものが9割ぐらいあるはず。
 エステーでは、そこで勝負している

■恋をするためには、相手のパーセプションをどう変えるか、と考える
 それを論理的に考えれば、打ち手は考える手もあるはず。

・パーセプションフローモデル

■体系化されていないことが、説明できないことが多いのは事実。
 相手が自分のことを好きになるように、相手の良い○○の考えを、自分が有利になるように変えることを考えるべき。
 それが市場創造につながる

■テクノロジーもマーケティング手法も変わっていくけど、人間はそれほど変わらない。
 右手と左手を両方組み合わせることが重要。

■富永さん的まとめ
・P&G
 良い男の定義を変えて良い男になろう
 損得や便益を意識することで投資対効果も大きくできるはず

・エステー:
 必ずしも良い男は作れるわけではない
 相手の好きを作るしかない。

■説得をする時には、論理的に説得する必要はないが
説得をするためには論理的な分析が必要


■セッション後に、登壇者にインタビューさせて頂いた記事がこちら


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