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映画『トラペジウム』の感想

※原作及び映画『トラペジウム』のネタバレがあるので注意!

映画版の方の『トラペジウム』を観たのでその感想を書いていこうと思う。この映画はTwitter(X)でやたらと賛否が分かれ話題になっていたので気になっていた。事前に小説を読み映画を観るという順番だったが結果としてその方が楽しめたと思うので良かったと思っている。

ちなみに平日の夜に行ったからというのもあると思うが、その日の映画館で観ている人は自分一人しかいなかった。完全に貸し切り状態である。しかもトラペジウムの上映はその映画館でその日はその上映1回しかなかった。つまり自分が行った映画館でその日にトラペジウムを観たのは自分一人というなんとも特異な状況である。人気がないというのは悲しいことでもあるが、幾ばくかの特別感は得られたのでそこは良かったかもしれない。

余談は置いておいて、本編の話に入ると個人的には普通に楽しめたという感じがする。事前に小説を読んでいたというのもあり大筋はわかっていたが、それでも映像化されたことで異なる場面や異なる印象を抱く場面もいくつかありその差異が面白かった。

序盤から中盤にかけては原作に比べると若干描写を省いているなという感じだったけど、アイドル活動が本格化してからは映画の方が密度が濃くかつ長く描かれていたので非常に満足感があった。原作だとアイドルの期間の描写がそもそも少ないのであまり臨場感が得られず淡白な印象だったけど、映画ではそれが結構な分量で描かれるのでとても入り込むことができる。

原作の方はどちらかというとアイドルになる前の描写が濃かったと思う。亀井美嘉が通っている馬場さんのボランティア団体や伊丹さんの話など、このあたりは原作だと結構リアルかつ丁寧に描かれているが、映画だとこのあたりが淡白だった。

つまりアイドル前の描写に比重を置くのが原作小説で、アイドル期間の描写に比重を置くのが映画ということである。比較するとどちらも良さはあると思うが自分は映画の方が好きだった。映画では東ゆうと他三人の決裂の過程が丁寧で東ゆうのエゴイスティックな一面が前面に出ておりとても良かった。

やはりこの作品の一番の目玉は東ゆうの性格だろう。東ゆうはわざわざ自分を含む東西南北のアイドル候補を集め、遠回りともいえる方法で話題になろうと画策する。アイドルのオーディションに落ちたからといってそんな方法までやってしまうのは狂気の沙汰としか言いようがないし、他の3人を利用しているという側面もあるので自分勝手でもあるが、本作では奇妙にも東ゆうのこの強烈な個性が魅力的に映るように描かれていると思う。

おそらくトラペジウムという作品を好きになれた人は西南北の3人同様、東ゆうに魅せられた人だろう。東ゆうはエゴイスティックである。だがそのエゴっぷりも別の側面から見れば魅力的なのだ。東ゆうはブレないし普通に強い。おそらく他の3人はこういった東ゆうの力強さに惹かれたのだろう。視聴者である我々としても東ゆうの行動や言動を見ることでその強さを感じ取ることができるとも思うし、それにより惹かれる人もいるだろう(少なくとも自分は惹かれた)。

西南北3人の心情は作中でそこまで深く描かれないが、本作を見てると東ゆうの言動や行動により「やっぱり東ゆうには狂気的な魅力があるよな……!」ということを無理矢理納得させられる感覚があるのだ。ここおいては西南北3人の心情が描かれずとも東ゆうの描写だけで視聴者側が西南北3人に感情移入させられるという奇妙な構造があると思う。

西南北3人は東ゆうの野望に薄々気付きながら、それでも東ゆうについていく。それは3人が友人に飢えているというのもあると思うが、それ以上に東ゆうがいろんな面で魅力的だからついていくことにしたのだろう。結果として無理が来てアイドルグループは決裂してしまうが、それでも他の3人は東ゆうのことを嫌いになりきることができない。このあたりは歪な関係に見えてしまう人もいるかもしれないが、その歪さもまた独特の生々しさがあって良いと思う。実際に東ゆうのような魅力あるエゴイストっていると思うし、そういった存在が危険だと知りつつも惹かれてしまう人もいるだろう。そういった部分を創作物で描いたというのは面白いと思う。

とにかくトラペジウムは非常に楽しめた。本作は人を選ぶが謎の魅力があると思う。東ゆうを好きになれるかどうかが楽しめるかどうかの線引きとなるが、少なくとも自分は楽しめた側である。

あと余談だけど最近は本作の東ゆうや、ガルクラの井芹仁菜、学マスの月村手毬のように反骨精神にあふれるキャラクターが人気となっていて興味深い。偶然そのようなキャラが一時期に集まっただけの可能性もあるけど、こういったキャラたちの反骨精神が今の世に受けているのは面白い現象だと思う。一括にして語れるほど似た性格はしていないが、「面倒くさい」という点と「人に与(くみ)しない反骨精神がある」という点は一致しているので今後はそういったキャラクターが流行るんじゃないかと個人的には思っている(よく考えたら手毬はそこまで反骨精神ないかもしれないが……)。

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