流行を皮肉る曲が流行る時代ーピノキオピー・卯花ロク
VOCALOID楽曲というとやはり代表的なソフトは初音ミク。名前や絵だけ見たことがある人も多いのではないでしょうか。
平成のうちに全盛期を迎え、現在はスマホゲーム「プロジェクトセカイfeat.初音ミク」のリリースもあり、再び熱が上がっている界隈です。
そんなVOCALOIDを始めとするネット上での音楽活動、最近は少し皮肉っぽい曲が流行る傾向にあるような気がします。
今回は流行りの曲や流行る理由について考えてみます。
VOCALOIDの進化と流行
(出典:クリプトン公式HP)
VOCALOIDとはPCにインストールして使う音声合成ソフトで、ソフトとしてプログラムされた音声を自在に歌わせ、オリジナル楽曲の制作などが行えるDTMソフトです。
初音ミクの他にも、鏡音リン・鏡音レン・Megppoid・KAITO・MEIKOと、多くのVOCALOIDが販売・使用されてきました。
「キャラクターボーカルシリーズ」「バーチャルアイドル」として、ただ音声ソフトとしてではなく、そこにイラストやキャラクター設定を付与することでより愛されるよう工夫されて発売されました。
可不の登場による加速
(出典:可不公式HP)
「音楽的同位体 可不」を御存知でしょうか。
可不は2020年に制作プロジェクトが立ち上がった音声合成ソフトであり、2021年に正式リリースを迎えました。VTuber・花譜の声をもとにしています。
その声はあまりにも人間らしく、元の声である花譜との比較などでは、画面を見なければ切り替えたタイミングがわからないほどです。
一度落ち着いたVOCALOIDの流行は、可不の登場によりまた盛り上がっています。
※厳密にはVOCALOIDと音楽的同位体は別物ですが、今回は便宜上【VOCALOID】としてまとめています。
流行の曲
可不の登場で再び勢いをつけたVOCALOID界隈。
全盛期から長く活躍し続けるボカロP(楽曲制作者)から、新しく注目されているボカロPまでが多くの楽曲を制作し、動画共有サービスへ投稿しています。
文字通り数え切れないほどの楽曲が日々増え続ける中で、注目を浴びる曲は一体どのような曲なのでしょうか。
流行を皮肉るー視聴者の反応
2021年2月末現在、注目を浴びている曲を2つピックアップしてご紹介します。
2曲とも共通して流行を皮肉る内容の楽曲。歌詞やMVなどの考察もしつつ1曲ずつ見ていきましょう。
神っぽいな/ピノキオピー
(出典:ニコニコ動画)
ピノキオピーはボカロ全盛期から現在まで、長く支持を得ているボカロPの一人です。
代表曲には「m/es」「すきなことだけでいいです」「腐れ外道とチョコレゐト」などがあり、ニコニコ動画で殿堂入りを果たした数は90曲にものぼります。(2021年2月時点)
そんなピノキオピーの新曲「神っぽいな」はYouTubeの再生回数2000万超、いいね34万超と、投稿して半年経とうとしている今も数字を伸ばし続けています。
歌い手によるカバーなども多い神っぽいなは注目の楽曲ですが、MVや歌詞を含めて楽曲を見ていくとどうにも皮肉っぽさを感じます。
”何言ってんの? それ ウザい 何言ってんの? それ
意味がよくわかんないし 眠っちゃうよ マジ
飽きっぽいんだ オーケー みんな 飽きっぽいんだ オーケー
踊れるやつ ちょうだい ちょうだい ビーム”
(YouTube概要欄より)
「意味がよくわかんないし眠っちゃうよ」と、ノリや雰囲気優先で意味の薄い歌などをつついているように感じませんか?
「みんな飽きっぽいんだ」は流行は去っていくことを指しているのでしょうか。飽きたら次の「踊れるやつ」を求める、流行という時代の流れを感じます。
”きっしょいね きっしょいね それ
きっしょいね きっしょいね
逆にファンになってきたじゃん”
「きっしょいね」から「逆にファンになってきた」の流れ、中毒性のことかと思いましたがコメント欄での考察に「数年前まではボカロをバカにしてきた層が、流行りに乗ってボカロ好きになってる」ということの皮肉という意見が。なるほど……しっくりきますね。ここも皮肉でした。
”そのタイトル その絵 そのストーリー
その音楽 その歌 そのメロディ
アレっぽいな それ 比況 アレっぽいな それ
その名言 その意見 その批評
そのカリスマ そのギャグ そのセンス
神っぽいな それ 卑怯
ぽいな ぽいな ぽい 憧れちゃうわ!”
(””内はYouTube概要欄より引用)
色々なモノを羅列し、「アレっぽいな」「神っぽいな」と曲中でリフレインします。
そして「憧れちゃうわ!」と、これは2つの解釈を考えたのですが、1つは憧れちゃうわと言いつつ馬鹿にしているような解釈、もう1つは本気で憧れ執心し、また繰り返すような「っぽいモノ」のループや拡大を指している解釈です。どうなんでしょうか?
更にコメント欄では「これが神曲と言われている流れまで含めて皮肉」「Oh my god(英語)とgott ist tot(ドイツ語)が字面と発音がいい感じの単語拾って使っててミーハー感」「若者に対する皮肉を込めた歌が、若者たちに"神曲"と呼ばれてTikTokで踊られまくる」など、様々な視点の「皮肉探し」が飛び交っています。
MVや曲調も流行りの曲と系統を合わせ、過去のピノキオピーの楽曲とは雰囲気などがガラッと変わっています。
その音楽センスで「ドンピシャで今流行る曲」を作りながら、内容は流行を皮肉っているというなんとも皮肉的なコンテンツとして完成された作品ですね。
自称、音楽愛好家/卯花ロク
(出典:ニコニコ動画)
卯花ロクは2020年6月に「告解、教室にて」を初投稿し、瞬く間に注目を集めた新しいボカロPです。
「自称、音楽愛好家」は2021年4月に投稿され、YouTubeでは30万回再生と1万いいねを獲得しています。
卯花ロクの楽曲はそれぞれの主人公の視点でストーリー調で描かれており、「自称、音楽愛好家」では音楽を嗜む女子高生が主人公になっています。
1番では
”謎めいてる歌詞と難解なその展開 虫唾が走る”
”こんなもん聴く奴は所詮さ
聴く自分が好きなだけの
お飾りな好意を拗らせた自涜者でしょう?
ランキングの上位は総嘗め それ以外は排他で
聴く時間も記憶も無駄なんで
選りすぐられたモノだけ摘んでいけ
これこそが音を楽しむ音楽ね
擦られまくった歌詞だって 聴き覚えがあったって
誰も彼も聴くなら問題ない
数があれば評価は後からついてくる
つまりは出来上がりだ 良ミュージック”
と、数字を獲得する曲こそに価値があることを主張し、そうでない曲に価値はない、というような批判的な内容に加え、「新しさは要らない」と言わんばかりの口ぶりが続きます。
しかし、2番では
”いつかの馴染みの旋律
今では爆発的人気 聴かない日はないくらいだった
よく見ればこの歌詞深いし 展開も飽き飽きしないね”
と手のひらを返します。
更に、
”結局どれもこれも似た曲で
知ったような言葉と点々點と感嘆符を
並べればほら私も理解者ね
漂ってる見解なぞって 専門用語も足しちゃって
好きだなんて付け合わせも添えて
豚も生産者も大木を登ってくね
誰もが幸せだね ラブミュージック”
と、似たような曲でも流行ればそれが「良い曲」なのだと言っています。それを理解する自分こそが音楽愛好家だという主張も見えますね。
ラストのサビでは
”せいぜい今だけは楽しませといてね
学内を満たしてた旋律はパッタリさっぱり絶えていた
どうやら消費期限が過ぎたようね
成り代わるように溢れ出た旋律に私は諸手挙げる”
とあり、「今だけ」という流行への釘刺し、聞かなくなれば「消費」されたと判断します。そして次の流行に移っていますね。
そして、ここまでの「音楽愛好家」の語りに対してラストは
”「そこのお嬢さん 線が抜けてますよ?」”
という一言で締められています。イヤホンの線が抜けていると言われている、つまり「音楽愛好家を自称しながら、流行に流されているだけの、曲なんて聴いていない人」という指摘にも捉えられますね。
この流行曲と視聴者への皮肉を込めた楽曲でボカコレ2021春にエントリーした卯花ロク。結果、見事にルーキーランキング1位、全体ランキング2位を勝ち取りました。
こんなにも流行を皮肉った楽曲が、VOCALOID界隈の大規模イベントで1位・2位をとったことこそ、皮肉的ですよね。
まとめ
音楽や流行への皮肉が流行り、神と呼ばれるのは、皮肉そのものが流行しているということですね。各種SNSやYouTubeコメントでも多くの解釈や考察が飛び交います。
今はストレートな言葉や表現よりも、視聴者の思考の入る余地のある作品や、さらにそれが皮肉やネガティブなものであることが求められているようです。ある意味では、自分の思考込みで完成するという形が視聴者を惹きこんでいるのでしょう。
今注目されている曲も、その皮肉通り、次の流行に押し流されていくのでしょうが、それすらも歌詞通りの皮肉となり、死なない作品となっていくのが面白いですね。
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