マイクロターゲティング-SNSが変えた世界の運命
このnoteでは、SNSそのものがユーザーの様々な情報を収集しており、その情報がまさに今政治の分野で利用される実情を、マイクロマーケティングの手法や選挙コンサルティング会社、また実際の事例などに触れながらご説明し、様々なSNSが普及した今、私たちがどんなことに気を付けてそれらを付き合っていくべきかを考えます。
選挙で活用が進むSNS
2013年、日本ではネット選挙という言葉がメディアなどで報道されました。このネット選挙とはインターネット選挙運動のことを指す言葉で、具体的にはインターネットを活用しウェブサイトやSNSを通して選挙運動を行うことを意味します。それ以前はインターネットを利用した選挙運動は禁止されていましたが、2013年に公職選挙法が改正され、こうした選挙運動が一般的になりました。ウェブサイトやSNSの他にも、ブログや掲示板、ライブ配信を含む動画配信サービスでの選挙活動が可能です。
アメリカでは1990年に入ってからすでにインターネットを利用した選挙運動が行われており、90年代にはEメールを活用した選挙活動が、また2000年に入ってからはインターネットによる献金の募集などが行われました。最も早くウェブサイトやSNSで選挙運動を行ったのはバラク・オバマ元大統領で、Twitterなどで活動的に選挙運動を行っていたことが知られています。規制面では費用の規模に関する規制が主なものです。
その他欧州ではアメリカ費用面での規制や更新日に関する制限があります。またドイツではインターネットでの選挙運動についてはほとんど規制がありません。このように多くの先進国ではインターネットでの選挙運動が広範囲にわたって可能となっている実情があります。なお、日本ではコロナ禍の影響もあり、75.8%の人が街頭演説などの従来の選挙運動を控えるべきだと答え、56.1%の人がネットでより気軽に立候補者の情報を見たいと答えています。ことのことからも、日本では今後も選挙運動におけるインターネットの活用は増えると考えられます。
出展:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000056.000019431.html
選挙コンサルティング会社とは
この話題について書く上で欠かせない存在が選挙コンサルティング会社です。日本では選挙プランナーともいわれることがあります。特徴は最先端の心理学や行動経済学などの知見をもとに、データを科学的に活用しながらマーケティングの観点で選挙に勝利するための戦略を立案する事業を営んでいることです。
また選挙運動には大きく分けて2種類あり、有権者が住む地域を回り名前を有権者に覚えてもらう地上戦と、それ以外の方法で自身のイメージやブランドを高める空中戦があると言われています。そして選挙コンサルティング会社は後者の空中戦を専門としていることが多いです。
SNS運営が収集するデータ
この話題について考えるうえでなぜSNSが選挙活動において重要なのかを理解する必要があります。そのカギの一つとしてSNSがユーザーについて大量の情報を収集していることが挙げられます。
我々は普段、自身の興味関心などに基づき赴くままにSNSを利用していることがほとんどです。しかしそのSNS上での活動履歴にはさまざまな情報が含まれています。たとえば、登録するときに生年月日や性別を入力したり、SMS認証を利用したことがある人は少なくないはずです。これにより、すでにユーザーがどこに住む何歳の男性もしくは女性なのかのカテゴライズができます。そしてSNSを運営する会社は、検索ワードや投稿に含まれるハッシュタグなどから、今ユーザーがどんなことに興味があり、何を趣味としていて、どんな政治思想を持っているのかなど事細かくユーザーについての情報を収集することができます。
企業が利用する私たちのデータ
なぜSNSはここまで我々の情報を詳細に収集するのでしょうか。それは、こうした情報をもとに的確に宣伝広告を打ちたい企業から広告枠を高額で受注するためです。広告は単に多くの人にサービスや商品を知らせるだけでなく、確実に購買につながることが重要視されることがあります。そうした場合、何に興味があるどんな人がその広告を見るのかが非常に重要になるわけですが、ユーザーごとに表示する広告を変えることができるSNSのページは、まさに特定のタイプのユーザーにターゲットを絞った広告が打てる最高のツールになります。こうした背景もあり、SNSを運営する企業の多くは広告収入により収益を得ています。
SNS広告の市場は年々拡大傾向にあり、年10%超市場規模が成長しており、今後もこの成長ペースは維持されるものと推計されています。したがって今後もSNSにおける企業広告はより高度になってゆくと考えられます。
出展:https://www.statista.com/outlook/dmo/digital-advertising/social-media-advertising/worldwide
ケンブリッジアナリティカについて
こうしたSNSの広告枠を利用する企業の一つにケンブリッジアナリティカがあります。正確には後述の通り、ケンブリッジアナリティカはもう存在しない企業です。
ケンブリッジアナリティカはデータの科学的な分析力が強みの選挙コンサルティング会社です。行動心理学や脳科学などの研究や広告代理店のリサーチおよびマーケティング、イギリスの銀行での投資銀行業務などを経験した精鋭によって2013年に設立されました。データの分析やその分析をもとにした戦略の立案においては、申し分のない実力と実績をもったメンバーで構成された企業でした。
マイクロターゲティングとは
ケンブリッジアナリティカが得意としていたのはマイクロターゲティングという手法でした。これはSNSなどを通しユーザーに対して的確に広告を打つ企業と基本的には同じ手法です。ユーザーの情報から、詳細にユーザーを分類し、それぞれのカテゴリに属するユーザーに最適な政治広告を見せることで、効率的に政治運動における空中戦、つまりイメージやブランドの向上を目指したものです。
これは今までの選挙活動と画期的に違う点が1つあります。それは、有権者それぞれの政治思想に沿った選挙活動が低コストで実現できてしまう点です。従来の選挙運動は、多くの人に自身のマニフェストなどを告知することがその本質でした。一方で有権者それぞれの政治思想に沿った選挙運動では、有権者にとって耳障りの良い、いわば都合の良い側面だけを伝えることができてしまうことを意味します。
データゲート事件の真相
こうしたマイクロターゲティングの効果について、政治学者は懐疑的な人が多いです。こうしたターゲティングによる政治運動は大きな効果をもたらすほど正確なユーザーのカテゴライズができないとする政治学者もいます。また、皮肉にもケンブリッジアナリティカが自社の宣伝の一環としてその成果を誇張したことも、様々な憶測や批判を生んだ背景にあります。
一方でSNSからユーザーの人格モデルを作成することやそれを政治的に利用することは、有権者のプライバシーを侵すだけでなく、様々な倫理的問題を内包した行為であるという批判もあります。こうした様々な批判を受け、ケンブリッジアナリティカは2018年に廃業に追い込まれました。この一連の騒動について、2016年の大統領選やブレグジットに大きな影響を与えたとして、ウォーターゲート事件にならいデータゲート事件と呼ぶ人もいます。
SNSと選挙について私たちが心得るべきこと
SNSを使うメリットとして情報の即時性や1次情報が入手しやすいことがよく挙げられますが、SNSを使用した様々なマーケティング手法が確立された今日において、中には特定のユーザーをターゲットに意図的に色付けされた様々な広告が紛れていることを忘れてはいけません。
そうした情報に惑わされず、選挙など極めて大切なことについて何が本当に正しいのかを考えるにあたり、大変重要なのは消極的に得た情報に頼らないことです。大切な意思決定はふとした時に目に入った情報をもとに決めるのではなく、自らネット検索や書籍などから積極的に情報を集め、より多くの正確な情報をもとに行うことが大切です。また、そうやって得た正確な情報や知見は、せっかくですからSNSにてご自身で発信してみるのも良いかもしれません。そうした有権者一人ひとりの心がけが、世界をより良くすることを心から願っています。
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