見出し画像

えほんのみせ ぱっきゃまらーど(東京都世田谷区)

 東京の松陰神社前駅(東急世田谷線)の近くにある「えほんのみせ ぱっきゃまらーど」の店主、山本陽子さんにお話をうかがいました。

画像2

「えほんのみせ ぱっきゃまらーど」の店主、山本陽子さん。

 お店について教えてください。

 2018年の10月に開店しました。絵本の新刊とベストセラーを中心に置いています。
 絵本は、表紙がとても美しいので、なるべく表紙が見えるように工夫しています。以前も書店で12年ほど働いていましたが、魅力的な表紙が見えるように陳列したいのに、毎月の新刊が多くて本棚にさしてしまうのが心残りでした。
 お店の奥には上下2段になった小部屋があり、そこでお子様が、ゆっくりと本を読むことができます。
『トム・ソーヤの冒険』に出てくる木の上の小屋のように、子どもしか行けない、自分の好きなものを持ってのぼっていくような小屋を作るのが、子どものころからの私の夢でした。今の子にもそういう体験をしてもらいたくて……。安全性のあるしっかりとした作りの小屋になりましたが、本当は廃材を使って鳥の巣のように作りたかったんです。ここに、宿題をしにやってくる子もいれば、嫌なことがあると、ぶすっとした顔でお店に入ってきて、だまったまま小屋にいる子もいます。

画像2

山本さんの子どものころの憧れがつまった、本が読める小部屋。

 お店を始めたいきさつは?

 書店に勤めて5年目くらいのときに念願だった児童書の担当になりましたが、お客様の要望に答えられなかったことがあり、それがとても悔しくて。また、絵本の専門家になりたい、と思って、2017年から絵本専門士の養成講座に通い始めました。ただ、そのころはまだ、自分でお店を開こうとは考えていませんでした。
 2018年からは、月に2回、病院の小児病棟の夜間ボランティアに参加しています。今も続けていて、専門士の資格を活かして、病棟にいる子どもへの読み聞かせなどができればと考えていましたが、病棟には制限があり、本を持ちこむことが難しいのです。病院のボランティアを続けながら、一方で、子どもが絵本を自由に読める場も作れたらいいな、と思うようになりました。
 また、私は世田谷区で育ちましたが、子どものころは、おもちゃ屋さんや駄菓子屋さんなど、子どもだけで行けるお店がたくさんありました。でも今は、ほとんどのお店が閉店してしまい、子どもが集まったり、自分で買い物を体験できる場所があまり残っていません。
 かつてあったそうしたお店のように、子どもたちが、「このおばちゃん、知っている。ここは、自分のお店だ」と思える店を作れたら、と考えて、絵本の専門店を始めることにしました。
 でも、お店に来てくれる子どもたちは、私が仕事をしていないと思っているようです。「ねえ、仕事に行かなくていいの?」と言われたこともあります(笑)。

 選書の基準はありますか?

 ページをめくる楽しさや、新しい世界の扉が開かれるようなワクワク感のある絵本を置くことを大切にしていて、誰に語りたいのかわからないような絵本は置いていません。音の鳴る絵本や飛び出す絵本も置かないようにしています。
 また、10年後、100年後も、この本は残っているかも、と思った本は置くようにしています。

画像3

壁一面にずらりと並んだ、おすすめの絵本。

 ご自身は、小さいころにどんな児童書を読んでいましたか。

 じつは、私の父親は絵本を読ませてくれなかったんです。本は買ってくれたのですが、絵本は幼稚な本だから読むな、と言われてしまって。『ぐりとぐら』などの絵本は、幼稚園にいるときに読めるだけ読みました。小学校に入ると、父親が『トム・ソーヤの冒険』『長くつ下のピッピ』を買ってくれて、家のすぐ近くにあった枇杷の木にのぼり、よく読みました。トムもピッピも、家庭の事情がいろいろあるのに、明るくて、とても強い。悲しいことがあっても、前をむいて生きる強さを教えてもらった気がします。今もなお、トムとピッピはずっと心の中にいて、支えてくれています。ふたりがそばにいるから大丈夫、ということが人生でいくつもありましたね。
 子どものころに、たくさんの絵本と出合っていたら、またちがう道を歩んでいたかもしれません。本との出合いで、人生が変わることもあるので、書店は大切な場所だと思います。

 徳間書店の本はいかがでしょうか。

 書店員時代、『マップス』はとても売れました。見開きごとに、それぞれの国の文化がわかるのがいいですよね。プレゼントとして『マップス』はおすすめしている一冊です。それから、『あめのひ』は描かれた雨粒の表現が素晴らしいな、と思います。

 今後の抱負を一言。

 子どもだけでなく、大人の方にも絵本の魅力を知ってもらい、絵本を通して豊かな体験をしてもらえるよう、お店を続けていきたいです。
 また最近、小学校の授業の一環としてブックトークをさせていただいたり、保育園の選書を担当したりしています。絵本専門店として、地域に貢献できるよう、積極的に活動を広げていきたいと思います。

 ありがとうございました!

お店の情報
〒154-0017 東京都世田谷区世田谷4-13-20 松陰PLAT1階A
11:00 ~ 18:00(火、木、土、日)
14:00 ~ 18:00(水、金)
定休日 月曜日
東急世田谷線「松陰神社前駅」から徒歩1分

(2020年11月/12月号「子どもの本だより」より)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?