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2022年1月の記事一覧

二か月間のキャンプを通じて子供たちが吸血鬼に覚醒する
新機軸のSFファンタジー(『愚かな薔薇』/恩田陸)

二か月間のキャンプを通じて子供たちが吸血鬼に覚醒する 新機軸のSFファンタジー(『愚かな薔薇』/恩田陸)

   吸血鬼小説とSFのハイブリッド

 二〇一一年から一九年まで『小説 野性時代』に不定期連載された『ドミノin上海』、〇七年から二〇年まで『メフィスト』で続いた『薔薇のなかの蛇』など、恩田陸には時間をかけて紡がれた作品が多い。『SF Japan』(〇六年~一一年)と『読楽』(一二年~二〇年)で書き継がれた『愚かな薔薇』もその一つだ。
 叔父夫婦に育てられた少女・高田奈智は、母親の故郷である磐座

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江戸に染まらない下男が女を救うために行方を追う。心理の綾に彩られた時代小説/『底惚れ』(青山文平)

江戸に染まらない下男が女を救うために行方を追う。心理の綾に彩られた時代小説/『底惚れ』(青山文平)

   消えた女を捜すハードボイルド時代小説

 青山文平は一九四八年神奈川県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒。経済関係の出版社に勤めた後、九二年にライターに転身し、同年に「俺たちの水晶宮」(影山雄作名義)で第十八回中央公論新人賞を受賞。同作を含む短篇集は九四年に上梓された。一度は創作活動を離れたものの、二〇一一年に『白樫の樹の下で』で第十八回松本清張賞を受けて本格的にデビュー。一五年に『鬼はもとよ

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