浪人時代の恋愛と医学部受験の闇
思い出の場所に行ってきた。
市ヶ谷—
駅を出てすぐ左に曲がると、満開の桜が咲いている。
その美しい桜を撮ろうと、必死でカメラを構えている男性がいる。
橋を見下ろせば、濁った池。
わずかながら、自然の良さを感じさせる。
その向こうには、うっすらと新宿駅周辺の様子が見える。
私は浪人時代の1年間を、予備校で過ごした。
予備校に入ったら、大学生のような青春を謳歌できない…なんてことはなく、
浪人時代は毎日、自分の感情と向き合う日であった。
同じ方向を向いて共に過ごす仲間と笑いあった日。
成績がなかなか伸びず、焦りともどかしさを感じた日。
初めて好きになった人と、手をつないだ日。
人を信じられなくなってしまった日。
色んな人がいた。
朝から晩まで勉強一筋の人もいれば、予備校でナンパしている人もいた。
二浪、三浪なんてあたりまえの世界で、
見事第一志望を手にした人もいれば、行方不明になってしまう人もいた。
輝かしい結果を残す人なんてほんのわずかで、
その裏にはたくさんの「夢を捨てた人」がいるということを知っていた。
中には、亡霊のように取りつかれた人だっていた。
そんなことは、市ヶ谷の池を見ればわかる。
ほら、濁っているだろう?
というのは冗談だけど
色々なことを思い出しながら、私はとある予備校に顔を出してみた。
本当の目的は、もう1年浪人している友達(連絡はとれていないが)
の合否が知りたかったから。
何度見まわしても、その子の名前はなかった。
こうしてまた一人、一人と連絡が取れなくなっていくのだろう…。
他に知っている人の名前があっただけに、複雑であった。
それから、担当の先生に会いに行った。
なんと私のことを覚えていたのだ。
「成功することだけが全てじゃない。」
そんなこと、敗者が言うセリフなのかもしれないと思った。
だけど、この1年間は決して無駄ではなかったし、何より楽しかった。
予備校を出ると、満月であった。
夜遅くまで勉強していたという達成感も、懐かしいものだった。
市ヶ谷に来ると、あの頃の感触を取り戻したくなる。
「思い出は美化される」というけれど…。
あなたがほかの人と付き合っているということを知っていても尚、
あなたに会いたくなってしまうのだ。
繕った希望に満ちたあなたを見たいわけじゃない。
欲望のままに生きるあなただとしても会って話したい。
真摯に向き合っていればよかった。
あの時は自分ばかりで、人の気持ちを尊重していなかった。
そう気づいた時には、連絡が取れなくなっていた。
会えない。
そんなことぐらいわかっているけれど、あなたが生きていると
分かったときは、心の底から嬉しかった。
後悔。
だけど、前には戻れない。
後悔を背負いながらも、前に進むしかないのだ。
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