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03 街はいつも満席/THE BOOM

 旭橋駅でゆいレールを降車、ペデストリアンデッキを往きバスターミナルビルのテナントを覗く。

 サンキューマート、星乃珈琲店、ABC-MARTにダイソー。洗練された内装に優しい色味の照明、清潔な店内の居心地は悪くはないけど沖縄っぽさも観光地感も皆無、早々に次の目的地へ移動して仕切り直しを図る。

 南米の遺跡みたいな姿の那覇市庁舎前を過ぎ、スクランブル交差点を渡れば国際通りの入り口。

 迎えてくれるシーサーを素通りして君はA&Wのメニュー看板に吸い寄せられていく。ハンバーガーで有名なご当地チェーン。傷心旅行の初手から食い気を発動させるなんてとても君らしいと思うけど、確かにチリチーズカーリーフライの破壊力は凄いけど。

 ここは奇跡の1マイル、タコライス、沖縄そば、ステーキ海ぶどうゴーヤチャンプルーと目移りしながら歩くのもきっと楽しい筈だからと、なんとか君を説得する。

 説得した筈なのに君は早々に、おみそはんが誘うままに御菓子御殿で紅芋タルトを、ふくぎやで黒糖を使ったバウムクーヘンを、もふもふと試食してオーバーアクションで感動を云って、それでなにも買わずに帰るのも気が引けるからと手荷物を増やす、増やしてしまう。へへへじゃないよ、全く。

 世紀の大発見をしたみたいなテンションで、カラオケBanBanの看板を指差して君が振り返る。いや行かないよ、と僕が首を横に振る。下唇を突き出して君がぶー垂れる。地元で出来る遊びを旅先でわざわざする理由が分からない、と僕が小首を傾げる。
 
 パイナップルを模したおもちゃのサングラスを試して笑う、豚の頭の燻製を見付けて目を丸くする、かりゆしウェアを身にあてて澄ました顔をしてみせる、島ぞうりアートの実演を覗き込んで感心する。

 オルゴールの上のバレリーナみたいに君がくるくるくるくると回る。

 ブルーシール高くない、と僕。サーティワンもこんなもんじゃない、と君。行った事がないから分からない、と僕。君、わたし以外に友達いないもんね、と君。

 溶けだしたパインソルベに気を取られ、信号で置いていかれたのろまな僕。離れ離れの一瞬の間に、開運グッズショップの前、ちゃらいお兄さんに手相を見てもらっている君。

 18ヶ月で終わった恋の、痛みを癒す旅行なんです。

 弱った部分を自ら不用意に開陳する君の脇の甘さに僕は苛立ち憤慨する。お友達もどうですか、と僕に気付いたちゃらいお兄さん。お姉さんの方は身持ちが固そうですね、と余計な一言が続く。

 見てもらいなよ、と君。仕方なしに見てもらう僕。つらい恋をしてきてますね、とちゃらいお兄さん。このこ、親友のわたしにも相談しないでいつも一人で抱え込んでるんですよ、と君。お二人、友達としての相性が最高ですよ、とちゃらいお兄さん。

 傷心のお姉さんの方は、ともしかしたら余計じゃない一言が続く。案外近くに運命の人、いるかもしれませんよ。

 これ絶対食べるやつ、と君。これ絶対絶対食べるやつ、と君。カルビープラスで買えるその場で揚げるじゃがりこを顔の横に掲げて、桜坂セントラルの前でセルフィー。旅行前に髪を切ってから後の、これが一枚目の、君がちゃんと笑ってる写真。やっぱり、食い気を発動させてこそ君は君らしいのかもね。

 今日が楽しい反動で、旅から帰ったらわたしまた泣くよ、と君。

 そしたらまた歌を作るよ、と僕。


                               ('21.3.2)

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