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イントロダクション・ストーリーズ

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既存の楽曲の前段になるような物語を頼まれてもいないのに勝手に想像する、そんな下品なコンセプト先行型の掌編集です。
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記事一覧

09 A.D.I.O.S/The Mirraz

 目が、醒めたら。  いやさ意識の上では瞬きをした間に、全てが終了していた。  左腕、関節の辺りに点滴を挿され、それが麻酔であるという説明を受けたかどうかの内に落ちた、給電ケーブルを引き抜かれたみたいにがくんと視界が。  そして次に光が戻った時には部屋が移っていた、寝台の上に仰向けで横たわっていた。おむつをあてられ脱いだ筈の下着を穿かされていた、GUで購めた三枚1,000円のボクサーパンツだ。トランクスタイプは都合が悪い、なにしろ途端に股ずれを引き起こし歩行を不快たらし

08 とん平のヘイ・ユウ・ブルース/左とん平

 どんな娘かと訊かれ、ちんちんを踏むのが上手そうな娘だと正直に応えられなかった事実がなによりの証左、俺の魂は今の今まで死に続けていたのだ。  いやさしこたまの麻酔を都度に射っては眠らせ続けていたのでありそうやって葬っていたのだ自らの手で。  2,000万円。  即ち老後資金を貯めるべく、時給896円の最低賃金で粉骨砕身、疲労困憊の内ほうほう帰宅したならコンパニオンガールにもむくりと起きない、股しない。  最早今世の内には多摩蘭坂、宝くじは買わないってゆーかないってゆー

07 夢/GReeeeN

 そもそも目的が違うと思いますよ。彼らは自分の身は隠して、その上で覗き行為をしている訳でしょう。むしろ私は隠れたくないんです、隠れてこそ満たされる彼らとはやはり相容れないと思いますね。  そうです、床として認識されたいという事です。ですから踏んでもらって全然構いませんし、普段通りに過ごしてもらいたいという事です。  いえ、完全にいないものとして振る舞われるとそれはそれで私の希望とは違ってしまいます。私という人間はどこかで意識していて欲しいんです。私という人間がいる、私とい

06 僕らチェンジザワールド/忘れらんねえよ

   もう我慢の限界だ。 =========================  ベンチと灰皿が置かれ喫煙所になっている非常階段の踊り場に、上司と部下が連れ立ってやってくる。 「お、馬並せんせーじゃないですか」  先客を見付けた途端に脂下がった上司が、部下に言いなす体で既に迷惑そうな顔をしている彼を弄り始める。 「お前知ってるか、馬並せんせーの早撃ち伝説。入社1年目で社内一の美人孕ませて嫁にしちゃったんだぜ。な」  パスを回された先客、鉄柵に肘を置き外に視線を向け

05 愛/真心ブラザーズ

 きっと一番に効果的だという確信、即ち明確な意思を以て今回初めて、今までは使用を避けてきた直截的な表現を投入した。それを無断で変更された。だから毎度の事だと分かってながらも脚本家は逆上し、素知らぬ顔をしている演出家に罵声を浴びせた。 「今回ばかりは勘弁ならねえ、変更が必要な理由を説明してもらおうじゃねえかしっかりと」 「変更じゃなくて改善、元が詰まんないから良くしただけ」  まるで風圧を感じてないみたいな様子の演出家、小さなため息を零して続ける。 「せっかくの好い流れ

04 yumeutsutsu/赤い公園

 郊外型巨大商業施設、その屋上駐車場を買い物以外の目的で利用するものがあるならばそれは、出来得る限り帰宅時間を遅らせたいサラリーマンかスリルを欲する不倫カップルか、独りになって考え事をしたいギターケースを背負った女子高生のいずれかだ。  夕刻を過ぎた週末の街、踊り出す直前のミュージカル俳優みたいなそれを高い場所からぼんやりと眺める。  全ての人影が遠くにあり並べて美しく見える、その距離感を以て初めて人々の営みを実感する、そんなふうに感動していると次第に自らの孤独が浮き彫り

03 街はいつも満席/THE BOOM

 旭橋駅でゆいレールを降車、ペデストリアンデッキを往きバスターミナルビルのテナントを覗く。  サンキューマート、星乃珈琲店、ABC-MARTにダイソー。洗練された内装に優しい色味の照明、清潔な店内の居心地は悪くはないけど沖縄っぽさも観光地感も皆無、早々に次の目的地へ移動して仕切り直しを図る。  南米の遺跡みたいな姿の那覇市庁舎前を過ぎ、スクランブル交差点を渡れば国際通りの入り口。  迎えてくれるシーサーを素通りして君はA&Wのメニュー看板に吸い寄せられていく。ハンバーガ

02 テレビ壊したい/日本マドンナ

 一期一会の精神で臨んでこそその真価に触れられる。  だから録画はしない、スケジュールアプリに登録もしない、頭で記憶しておいたその時間にテレビを点けられた時にだけ、観る。それが彼女の深夜映画の流儀。  日付けが変わってからの深夜、未明にひっそりと始まる映画のテレビ放映を彼女はそう呼んでいる。或いは他には誰も使うもののないハッシュタグ。 =========================  まるで義務のようにこなした営みの後の微睡から脱け出し、部屋を、深海みたいな闇に沈

01 大都会/クリスタルキング

 園児服を着た女児と、母親と思しきがポニョの歌を歌いながら目の前を横切って往った。およそ落ち着ける場所とは言い難い、が、仕事が一段落ついてやっとたどり着いた公園のベンチ、ここでハンバーガーの包みを開くとしよう。  カツレツではなく照り焼きにしたサメ肉を挟んだハンバーガーはちょっと余所ではお目に掛かれないメニュー、さてどんな味がするのだろうか、と、艶やかな卵液の照りと白ごまの香ばしさに吸い込まれるようにバンズにかぶりつこうとしたところで見知らぬ男に、声を掛けられた。 「晩御