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【創作】大好きすぎる彼氏を瘦せさせたい女の奮闘記

その⑦ うらやましさを感じる

大学時代の友人と、5人で飲みに行った。うち二人は大学卒業ぶりなので、もはや今何をしているのか知らなかった。片方は既に4回転職したらしく、そのバイタリティに尊敬のまなざしを送ってしまった。
家が遠いのでお先に、という一人を見送ったタイミングでお手洗いに立つ。ほぼ落ち切ったリップ、どうせまた落ちるのだけど、一応直す。


「彼氏が太ってて、痩せてほしいって話をしてる」
お手洗いから戻った私に友人の一人が話題の解説をしてくれる。先ほど、二年前に付き合い始めた彼と半年後に入籍予定だという話をしていた子だ。去年から同棲していて、実家への挨拶も滞りなく進んだらしい。

一瞬の間ののち、思わず小さく手を挙げる。
「あの、私も。今めっちゃ同じ状況」
とこぼれてでてしまった。

「なんかさー、結構前から痩せろって言ってるのに『ラーメン食べた』とか写真付きでメッセージ送ってくるから『ほんまに痩せる気ある?』ってなるんやけど」
出身は関西、東京に住んで数年の彼女は、関西弁と標準語が微妙に混ざった話し方をする。
彼が関東の人だからだろうか、最後に会った時より標準語に寄っている気がする。

「このあいだ二人で旅行行ってさ。そしたら彼がホテルの鏡で自分の姿みて『え、俺太ったな』って。『だから言ってるやん』って思わず言ってしまった」
そう言って少し笑うと、氷が溶けて薄まったハイボールを飲み干す。
「でもまあそこからちょっとはまじめに痩せようとしてくれてる。この間一緒に走った」

「家の風呂場鏡ないの?」
「いや、ある。普段から鏡観てるはずなんやけど、ホテルの鏡で見て初めて太ったことを実感したらしい」
「まずは自覚させて焦らせた方がいいのかな」
それぞれが口々に言っているのを聞きながら、ウーロン茶のストローをかき回す。
太ることに焦りを感じないというか、それが別に問題ないと思ってる人の場合はどうすればいいんだ…。

「一緒に走ったんやけどさ、向こう背高いし足長いから私と一緒に走ってても全然強度あがらないわけ。結局私の方がはぁはぁ言ってて、なんでこっちががキツい思いしてるの?ってちょっと腹立ったわ」「でもまあなんか、やらないよりはましだろと思ってる」

彼女はクラッシックバレエ経験者で、そこも多分、太ることを良しとされていない畑。やはり根底にある“太る”ということに対する抵抗感とでも言うべきものが似ているのだろうか。私も、やんわりした言い方じゃなくてストレートに痩せろっていうべきなのかもしれない。
素直にぶつけられる彼女に、少しのうらやましさを感じる。
それが出来ないことが、踏み込み過ぎないという私の主義によるものなのか、相手への遠慮なのか、嫌われたくないのか、はたまた自分の過去の経験によるものなのか、分からない。きっとどれもが混ざり合ってこうなってしまっている。

ぼんやりしている間に話が進んでいて、会社の後輩たちとの世代間ギャップについてへと移り変わっていた。

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