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坪売り18

岸部の納得の裏に何が。

山本は暴露したついでに「何が、なるほどなんですか?」という様に尋ねた。岸部の思い当たる節はどこなのだろう。

「山本君、俺が外資系の企業に転職する理由は前にも言った通り『情報』なんだよ、それこそ毎日のように何百坪という移転案件が社内会議で飛び交う」

「その中にはどの会社の誰が何坪決めたなんていう話だけ集めている情報通のおじさんなんかもいるんだよ。その中で今回、ビルネの担当が決めたらしいという話を聞いていてその案件が過去にグランドオフィスがやっていた顧客なんだよどうも・・・」

「え?という事は流出している先はビルディングネットワーク社なんですか・・・」

「多分そういう事になる・・・俺はさすがにその辺は恩義もあるから当時の案件に対しては手を出していないし、いくつか紹介を受けて新規でぶつかることはあるけど、その話を聞く限りだと自分が担当していない案件も持ち出しているね」

そういう岸部は饒舌に語った。

「結果としてグランドオフィスは太いパイプの顧客を抜かれて、かつ首謀者がわからない・・・しかしミヤさん達はパソコンや携帯得意じゃなくてファックスと黒電話の人たちだからな」

岸部の口元がほほ笑んだ。むしろ懐かしむような口調である。
この話でどうやら岸部が関わっている話ではなさそうだと確信を得ることはできた。が如何せん社内の情勢は良くない事は理解できた。

「そうそう、今回山本君をわざわざ連絡したのはもし会社で営業がしにくいのであれば、ウチに来ないというお誘い。といっても俺に何かの採用の権利があるわけじゃないのでそこは期待しないでくれよ」

「会社が今仲介部門にもっと人員を投入しようという話になったんだけどウチの会社は合併してから新規採用をあまりとってなくて人材が40代越えが多いのよ。20代や若手、企業の移転メインで担当した有力そうな人がいたら声をかけろって言われてるんだよね」

そういうと、岸部は続けざまに会社の説明や今自分の担当している案件について話をしていったこういう、したたかさがあるから岸部は敏腕営業だったのだと思った。

その後も移転担当した案件の概要や今日本における不動産の価値の話、昨今六本木ヒルズを始めとした企業で続けざまに話題になっている話で解約気配、いよいよヒルズも空室が出てくるから仕事が面白くなるといったネタまで多くの情報を聞いた。気づくと23時20分となり終電間近であった。

「まぁ今すぐにとは言わないけど6,7月あたりで色々声かけたりするので気になるなら面接だけでも受けに来なよ。大変な時だから自分の身の振りしっかり考えな」

そういって名刺をもらい別れを告げた。

今の会社に不信も不満もあるが、転職できたとして岸部と同じラインにたてるような営業になれるだろうか。そして会社の情報は何処から何処へ流れているのか。

久々の再開と入り混じる不安の気持ちと酔いで気分が優れなかったが、新宿駅の改札へ向かうため山本は地下道を走り出した

主にオフィスに関する不動産知識や趣味で短文小説を書いています。第1作目のツボ売り、それ以外も不動産界隈の話を書いていければ良いなと思っています。 サポート貰えると記事を書いてる励みになります。いいねをしてくれるだけでも読者がいる実感が持ててやる気が出ます