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坪売り14

会社の雰囲気は依然として厳しい。岸部やその他の中堅がいなくなり売り上げの見込みが立ちにくくなりクレームをもらう案件が多くなった。主には営業マン個人の対応について悪いというものだ。

当然ベテラン陣が営業する第1課よりも第2課の方がクレームは多くなってしまいその分売り上げへの見込みが立ちづらいのもその理由の一つである。

「隔週の土曜は営業会議を行う」

大曲社長のアイディアによって、土曜日の営業会議が開かれることが決まった。勿論目的は足りない売上をどう向上するかという点と毎週の進捗を社長の前で発表する場でありとても神経の磨り減ることであった。

業績が悪いが働く時間は体感で1.5倍に増えた印象だった。土曜日に強制的に招集をかけられる営業の進捗を報告する、いわゆる週の休みは日曜と祝日のみとなった。

「なんか最近おかしいよな」

土曜ミーティングの帰りに石田がそうつぶやいた。山本も同感であった

「オフィス移転は社会にとって大事だっていってた大曲社長が、急に土曜日集まれって言いだしたりするし、結局売り上げをどう上げるかって話ばっかりじゃん」

石田の不満は収まらないらしい。かくいう山本もあまりの激務によって付き合っている彼女との連絡が疎遠になり結局社会人1年経たず破局してしまった。現在の山本は仕事と家との往復の無味乾燥な日々である。

しかし同時に岸部のいっていた「ツボ売り」はオフィスを移転させることにすべての価値があるという、どれだけのツボを売ったかが大事だという言葉が頭に残った。

結局のところオフィスの営業はいかに多くの顧客に紹介したくさんの仲介をすることなんだと心のどこかで理解していた。不満はある、会社の雰囲気は月を追うごとに殺伐としてくる。

しかし、今の山本にとっては一つでも多くの顧客を仲介するしか術がないのだ。

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その1か月後、日曜にも関わらず山本と石田は会社から呼び出しを受けた。何が起きたかわからなかったのだが、会社に到着するなりエントランスでちょうど石田に出会った

「何があったんだ?」「いあや、わからないお前も呼び出されたクチか・・」

オフィスのフロアに上がりそのまま会議室へと通される。そこには第1課のベテラン勢とそして大曲社長、城島がいた。ただ事ではない雰囲気であった。

大曲社長から発せられた言葉は山本にとって意外すぎる言葉だった

「ウチの顧客案件が他社に流れている。お前たち二人が流しているんじゃないかという話が出ている、だれが流しているかを調べていったところお前たち2人にいきついた」

城島は二人と目を合わせない。その姿でこの場に味方がいないであろうことはわかる。

「営業第1課はベテラン勢ばかりだ、創業時からついてきている。しかしお前たちは違う、そして岸部らともつながりがあった。正直に言ってくれれば大ごとにしない。」

いや、すでに大ごとだと山本は感じた。身に覚えはない、しかし逃げ場はない。

主にオフィスに関する不動産知識や趣味で短文小説を書いています。第1作目のツボ売り、それ以外も不動産界隈の話を書いていければ良いなと思っています。 サポート貰えると記事を書いてる励みになります。いいねをしてくれるだけでも読者がいる実感が持ててやる気が出ます