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逆説のHR

2023年5月6日、四谷三丁目駅前のオスローコーヒーにて。

僕は逆説的な思考、逆張りの発想に苦手意識がある。
「普通に考えたら~」「とはいえ~」とついつい、まとも"らしい"結論に行き着いてしまう。

丸く物事を収める分には都合の良い性質なのだけど、どうやらこれから先より良い仕事をする上では適応を要する課題と最近感じており、その背景を書いてみたいと思う。

■順張りのHRの限界

「正しいとは思うけど、もっと逆張りの発想ってしないで良いんかな」

ちょうど一年前に、HRのOKRを策定していたときにCEOから言われた言葉だ。

記憶をたどれば、HRとしてセオリーに則った取り組みを幕の内弁当のようにてんこ盛りにして、それらしく論理的に整合してまとめた記憶がある。

今思えば、これは完全にリソースが優位な場合に成立する戦い方だ。
セオリー通りの戦いは、過当な競争市場での戦いだ。
ピーター・ティールも「隠れた真実を探せ」「競争ではなく独占を」と言っていた。

僕は結構大きな会社で、相対的に恵まれたリソースの元で働いてきた。
あと、HRは結構エクセキューションを磨き込めばそれなりに結果が出る。

僕個人としても、「よほど馬鹿げた方向性に進まない限りは、人の1.5倍のスピードで1.5倍の時間働けば生産量はおよそ2倍」と思って働いてきた口だ。(一方で、世の中には人の2倍のスピードで2倍の時間働く人達がいることも知って幾度か心が挫けた。)

ただ、リソースが限られたスタートアップ環境で、あるいはその中でも本当に抜きん出てユニコーン級の成長を目指すのであれば、どこかに「普通ではない」「不自然な」仕掛けが組み込まれるべきと考えるほうがむしろ自然だ。

■組織ブランドはいかにして競争優位性を生み出すか

僕は、様々なインターネット企業の創業を描いた書籍を読むのがとても好きだ。

「リクルートのDNA」、「不格好経営」、「渋谷ではたらく社長の告白」、「NETFLIX コンテンツ帝国の野望」、「ツイッター創業物語」、「クラウド誕生」、「フェイスブック 若き天才の野望」etc…

いずれも、些細なエピソードのひとつひとつからその会社の匂いを感じられて、小説のように一気に読んでしまう。

ただ、読み終えたときにその匂いや「らしさ」がどこから生まれているのか、一言で表現するのはなかなか難しい

この言語化の難しさが模倣の難しさであり、その企業をその企業たらしめる優位性だとも感じる。当たり前なのだけど、具体エピソードに触れれば触れるほどリアルにMoatを感じる。

①INNOVATION STACK「イノベーションは問題解決の連鎖から生まれる」

昨年、「INNOVATION STACK」という書籍に出会った。

Squareの創業者ジム・マッケルビーが、Amazonの参入にも動じずになぜSquareが勝ち切れたのかを振り返っている本だ。

■「ある問題を解決するときの問題は、それが新しい問題を創り出し、新しいソリューションが必要になって、そのソリューションがさらに新しい問題を創り出すということだ。この問題─ソリューション─問題の連鎖が続くうちに、やがて次のどちらかが起こる。問題の解決に失敗して死ぬか、あるいはすべての問題を解決して、手元に絡み合いながらも独立したイノベーションの集まりが残る。この成功した集まりこそが、ぼくの言うイノベーションスタックだ。」

■「どんな市場でも、いちばんおもしろいのはその果てにある端っこの部分だ。どうして市場はそこで止まるのか?」

■「他の人がそれをやっていない理由は必ずある。そしてその理由が、他の連中はとにかく自分ほど頭がよくない、というものであることはめったにない。どれほど創意あふれる人物だろうと、自分が発明したいと思っているものを発明した本当に最初の人物だという可能性は無限小に等しい。」

■「イノベーション要素が一気に産業に解き放たれたときの影響力が持つ複雑性は、そうした要素自身の相互関係によりさらに複雑になる。すべてがすべてに影響するとき、そこに登場するのは動学的システムだ。動学的システムは理解しづらいし、コピーはほぼ不可能だ。」

■「真似っこたちはまた、企業文化自体もイノベーションスタックの一部だというのを忘れていた。イノベーションスタックと共に発達する企業文化は、当然ながらイノベーションと調和してそれを作り出すのに貢献する。」

『INNOVATION STACK だれにも真似できないビジネスを創る』ジム・マッケルビー著

Squareの場合、「どんな小さな小売店でもカード決済を使えるようにする」というシンプルな課題があり、それを実現しようとする上で発生する無数の課題(および解決したときに現れる新たな課題)を解決する小さなイノベーションの集合こそが「イノベーションスタック」で、真似の出来ない競争優位を生み出していた、という言説だ。

そしてそれは「他の人がやっていない理由が必ずある」課題の解決の集合体であり、小さいけれど、多分「普通の発想」「普通の判断」をベースにすると到底生まれないソリューションに支えられている。

「普通は~」「とはいえ~」と言いたくなるときのもうひと踏ん張りの思考の重要性をとても感じさせられた。

②トレードオフ「一貫したトレードオフの意思決定が競争優位を生み出す」

先日、週次の全社の定例でCEOが以下のインタビューコンテンツを引き合いにしながら「トレードオフ」の意思決定の重要性を話していた。

第1 Step:生産性のフロンティアを達成する
第2 Step:トレードオフを伴う独自の活動を選択する
第3 Step:活動間にフィット感を生み出す

「PIVOT LEARNING 【星野リゾートに学ぶ①】真似されないビジネスモデルの創り方」星野佳路

一言で言ってしまえば「守破離」なのだと思うが、自身の冒頭の課題感とも通じてとても心に残った。

そして、ただ逆張りの判断をするということではなく、「いかにトレードオフの意思決定に一貫性(フィット感)を持たせるか」が要であると認識した。

ありふれた帰着なのだけど、詰まるところ企業活動にミッション・バリューが求められる理由はこれで、どれだけミッション・バリューに愚直に一貫性をもってトレードオフの意思決定をやりきれるかが偉大な組織とそうじゃない組織の分水嶺なのだと思う。

■「逆説のHR」が組織に競争優位性をもたらす

翻って、HRの活動に照らすと、どうか。

人事活動は「とはいえ~」なシチュエーションだらけだ。

事業活動以上に、目の前の判断が誰かのリアルな快・不快に直結するし、直面すること自体が耐え難いほど苦しいこともある。

事業やサービスの意思決定は、究極的には「そのサービスを買わない」というユーザーの判断を下されてそれを飲み込めば話は終わるが、組織活動においてはなかなかそうもいかないものである。

ただそんな「普通は~」「とはいえ~」なシチュエーションでも愚直に目的に照らした判断を下すこと、何かを捨ててフォーカスすることでしか、競争優位な組織は作れないのだろうとも思う。

僕は前職の人事の考え方で「大黒柱を引っこ抜く」という考え方があり、とても好きだった。いわく、

「チームで一番活躍している奴を他のチャレンジに異動させる」
「一番活躍している奴はぬるま湯に浸かっている可能性がある。もっとチャレンジさせないともったいない。」
「活躍している奴の背中に隠れている奴もいるかもしれない。もっとチャレンジさせないともったいない。」

とのことだった。
「さすがにそれって組織壊れるリスクありませんか?」と聞くと、「まあ、そういうこともある。それはしょうがない。」と返ってくるのである。
一方で「でも大抵はみんながなんとかしてくれるよ。信じている。」とも言われた。
「永久ベンチャー」というコンセプトや、人に向き合おうとする根底思想に基づいた、トレードオフな素敵な考え方だと今でも思う。

エキセントリックに振り過ぎてもいけないのですべてに逆説的な判断をするわけではないが、都度、逆説的な選択肢と、トレードオフな選択をする意志は持たねばならないと感じるのである。

■クリティカルシンキングと胆力

では、逆説的思考とトレードオフな意思決定に何が必要かというと、要はクリティカルシンキング(批判的思考姿勢)と胆力なのだと思う。

批判的思考またはクリティカル・シンキングとは、「物事や情報を無批判に受け入れるのではなく、多様な角度から検討し、論理的・客観的に理解すること」とされる。

wikipedia「批判的思考」

ここからは個人的な内省だ。

末っ子に生まれた生存戦略なのか、なぜか天邪鬼な性格ゆえに、クリティカルシンキングは割りと得意だ。大抵上司に言われたことはまず疑うし、誉められると自虐し、指摘されると言い訳する性質だ苦笑

多分、戦略や方針を考えるときに逆説的な選択肢は結構頭をよぎっているのだ。何かを指摘されたときに「その発想は無かったです!」と感じることもあまりない。

ただ、胆力が足りないのだと思う。

人と違う判断をすることへの慣れや、それをしたときに自分で負わなきゃいけない責任への覚悟。

まだまだ至らぬことを痛感するが、あまり絶望せずに少しずつ歩みを進めていきたいと思うのである。おわり。

※また、本文章とは関係ないが、ナレッジワークはHR(特に採用リーダー)を募集中なので、もし当記事を見かけられたHRの方は是非カジュアル面談でお会いできれば幸いだ


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