坂口恭平日記[歌会]前野健太×坂口恭平 ーマエケンはお世辞を言わないー
開演時間5分すぎに駆け込んだら、お客さんたちが体育座りでアトリエ側のステージを観ている。この画にまず驚かされながら、光沢ある木製フロアに座り込んだ。
今回の「坂口恭平日記」をきっかけに、とくに音楽活動に興味・関心をもつようになったので、この歌会は心待ちにしていた。
そして、育児明け子育て真っただなかの自分にとって、前野健太さんといえばEテレ某番組のあのコーナーである。
坂口さん、マエケンさん、それぞれギターをチューニングしながら、トークがゆるゆると始まっていた。
テンポよく話す坂口さんに、マエケンさんのポソっと返すやりとりがふっと笑いをまきおこす。しゃべりながらのチューニングも音楽のひとつ。こちら勝手にはじめるんで、というリハーサル延長線上にあるちょっとした内輪感が、リスナー心をくすぐる。
一曲目、坂口さんの「春の亡霊」からはじまる。
続いてマエケンさんで、かわりばんこにそれぞれが歌いたい歌を弾き語る。(大まかなセットリストは文末に掲載)
坂口さんは、ギターのコードを確認して歌いだしたと思った瞬間が憑依的。場の空気を自分の世界に持っていってしまう。声には野生味があって、たまに畳み掛けるようになにかを訴えてくる。歌詞ではなく気で殴られるようなロック魂。絵画作品から感じられる穏やかさと静謐さとはまた別のなにかで魅せられた。
マエケンさんは、イアホン越しに聴いていたあの声色とギター音色が、生ライブだとより骨太に感じられ沁みてきた。アコースティックギター弾き語りの原風景を、久しぶり間近に感じる。ちょっと猫背な佇まいも絵に。声の色気とせつない余韻がたまらない。缶ビールより瓶ビールが飲みたくなるのはなぜだろう。
ちなみに、マエケンさんは坂口さんの音楽の先生だとのこと。制作した音源をマエケンさんに送り続けてアドバイスをいただいているそうだ。マエケンさんはお世辞を言わないらしい。鬱の時も電話で話す間柄でもあるとのこと。「(坂口さんが)鬱のときは話しやすいんだよね」と話すマエケンさんに温かな笑いが起きた。豊かでやさしい空間だった。
歌ものはマエケンさん、インストはShhhhhさん。坂口さんはこのお二人(師と尊敬している)に褒められたら、他の人になにを言われようが構わないらしい。
そして
スペシャルゲストのように迎えられたフーちゃんこと坂口さんのパートナー。
マエケンさんも大好きだという「西港」という楽曲を中心に、一緒にヴォーカルを披露した。まっすぐに澄んだ歌声が、歌詞の内容にとてもマッチしている。また、街なかちかくの商店街を歌った楽曲もあり、サザエさんのような世界観で、日常風景の一コマを歌った。ちなみにフーさんはドリカムが好きだそうだ。坂口夫妻を見守るマエケンさんの姿が微笑ましかった。
ホント、あっという間の2時間弱。
観覧料のみ実質無料ライブでよかったのだろうか。
気づいたら脚をくずしベタずわりしていた。
靴を脱いでくつろいでいたお客さんもちらほら。
生のライブって、生楽器って
人の歌唱ってやっぱりいいな。
からだ中の細胞がほくほく喜んでいた。
久しぶりに有機的なギターの音色、ひとの声帯からの熱い声、叙情的な歌詞を間近で浴びた。坂口さんのエレキギターとサックスの生泣きっぽい感じもグッときた。時代の流行りは関係ないけれど、ロック魂を秘めた洗練されている音楽は良質な主食のようで満足感がある。好みもあり、どの耳が言ってんだよ問題もあり、洗練ってなにかと言われたらまだ言語化できないが、今住んでる場所にしっくりくる山と海豊かな地方都市の生活感だ。水の煌めきはあっても、煌びやかな気取りはなく、裏通りや商店街の匂いがする余韻までお腹に溜まる音楽を久しぶりに聴いた。ShhhhhさんのDJによるBGMの回でも感じた地に足がついていると言えるような音楽だ。このあたりはまだうまく説明できない。
最後にマエケンさんの「今の時代がいちばんいいよ」をマエケンさん×坂口さんで掛け合うように歌いあげた。ともに少しバツが悪そうに讃えあうアドリブも素晴らしかった。表現についてリスペクトしあう者同士が育む空気感ってこんなにも気持ちいいものなのか、と。YouTubeで観た千葉雅也さんとの対談でも感じたが、肉眼で観る坂口さんのパステル画のあの空色だ。
また、マエケンさんは「坂口恭平日記」に捧げる新曲を初披露した。在住民としても嬉しくなる歌詞だった。こうやって坂口さんの継続力と人徳のおこぼれをいただいたら、この地で踏ん張って生きようって思えて、こんな感覚あるのかと自分でも驚いている。人の気持ちを再建設するハコを「建てない建築家」。
もちろん坂口さんについて知らないことだらけだが、いろいろ番長、よろしく頼みますって感じだ。美術館から駆け足15分のうちの中で、選挙カーの行き交う声をアンビエントしながらこの文を書いている。
次はライブハウスでぜひ…!
【大まかなセットリスト】
※空欄はタイトルが分からず、また抜けている楽曲もあります。分かり次第訂正します。🙏
M1. 春の亡霊(坂口恭平)
M2. (前野健太)
M3.夜明け(坂口恭平)
M4. (前野健太)
M5.カレー屋(前野健太歌う坂口恭平の楽曲)
M6. (坂口恭平)
M7.西港(前野健太×坂口恭平×フー)
M8.商店街(前野健太×坂口恭平×フー)
M9.休みの日(坂口恭平)
M10. (前野健太歌う坂口恭平の楽曲)
M11.雨の椅子(坂口恭平)
M12.霧(坂口恭平)
M13.防波堤(前野健太)
M14.新曲🤫(前野健太)
M15.三月の水(坂口恭平)
M16.東京の空(前野健太)
M17.今の時代がいちばんいいよ
(前野健太×坂口恭平)