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【エッセイ】 カワとナッツ君〜不思議な友人関係〜

もう30年以上前の話になる。

親友とはまた違う 遠いようで近い
大切な存在。
彼は今 何をしているのかな。
時々 頭をよぎる。



第1章 あだ名

改めて振り返ってみる。
彼との付き合いはいつからだったろうか。

記憶が正しければ 小学校3年生の
クラス替えから卒業まで同じクラスだった。
4年間ということになる。

彼はいわゆる「親友」ではない。
放課後に遊んだのも4年で数回程度。
そんな距離感だ。


それでも お互い惹かれるところが
あったのか 不思議と仲はよかった。

僕は彼のことを苗字から
「カワ」と呼んでいた。

一方の僕はというと 一悶着あった。


ある時 別のクラスメート S君から
「ナッツ君」というあだ名をつけられた。
僕が面長だったからだそうだ。

「ナッツ君」 いや あだ名を
つけられること自体がバカに
されているようで嫌だった。

でも それを主張する意気地はなかった。


いじめられるのではという予期不安が
勝っていたからだった。


以後 不思議なことにこのあだ名は
カワを始め ほとんどの同学年の男子に
広まっていったのだった。
語呂がよく 特徴をつかんでいた
からであろう。


今は あだ名をつけてくれたS君には
感謝している。

未だ付き合いのある親友からも
「ナッツ君」と呼ばれるほどだ。



第2章 入院見舞い


4年生の秋になかなか重い病気に罹り
学校を3週間休んだ。
病名は忘れてしまったが 脊髄注射が
必要なほど重症だったらしい。

入院2週間の間 ずっと点滴生活。
見たことのない 緑色の便が出た。


夜中の点滴針交換で 新人さんに
3回失敗され 殺されると涙目になった。

選手交代。ベテラン看護師さんに
1発で決めてもらった。
救世主とは彼女のことを言うのだろう。

そんな入院生活で カワを含めたクラス
代表の5人が見舞いに来てくれた。
嬉しいような恥ずかしいような。

ただ お土産が衝撃だった。

小説「白旗の少女」???

どうやら お土産でマンガを買おうと
してくれたようだが 書店のおばちゃんに
真面目くんにはこれと オススメされたそうだ。

おばちゃん…。
いくら真面目くんな僕でも
マンガが読みたかったよ。

ちなみに 白旗の少女は一度も読まず
実家の何処かに眠っている。
クラスメートには秘密である。


3週間の休みを経て 久しぶりに登校した。
そこで真っ先に飛びついて来たのは
やっぱり カワだった。

「ナッツくーん!!」

飛びつきざまに頬にキスせんが勢い。

待っていてくれた。
本当に 本当に嬉しかった。


第3章 児童会役員選挙

うちの小学校の児童会は
会長 副会長 書記を6年生
1クラス1人ずつ候補選出し
選挙活動と演説会を経て
4〜6年生の投票で決まる。

会長 書記はすぐ決まったが
副会長の立候補がいない。


他薦となったところで カワが手を挙げた。

「ナッツ君がいいと思います」

カワ? 何考えてるんだ?

人見知りでとにかく裏方に徹したい
僕にとって演説会すら地獄。
全校児童の前で活動報告とか論外。

あっさり同意する周囲。
全会一致で決まってしまった。

ありえない。
僕の意向を無視した いじめ行為だ。


そっちがその気なら 連帯だ。


ということで半泣きになりながら
推薦人にカワを指名した。

それでも 二人の友情は壊れない。
二人で朝の挨拶と演説会をこなした。
カワもしっかり役割を果たしてくれた。
持ち前のトークでしっかり宣伝してくれた。


結果は次点。

心から良かったと思ったのは
言うまでもない。


でも 何であの時カワは僕を
推薦したのだろう?


第4章 それぞれの高み

小学校を卒業する頃には 僕は学年で
トップクラスの成績を収めていた。

だからといって その頃は中学受験も
主流ではなく校区の中学校に行くだけ。
一方で 運動はからっきし。


カワは逆で 運動会のヒーローだった。
6年生最後のリレー。
アンカーで圧巻の走りを見せ
10m差を大逆転。


やっぱりすごいわ カワ。

僕はきっと 自分の持っていないカワの
「運動神経」や「コミュニケーション能力」に
憧れていたのだ。


カワと僕の不思議な関係。


親友でないのに惹かれる理由は
それぞれが持っていない
才能への「憧れ」だったのかもしれない。


それぞれの才能で高みを目指していく。
それもいいと思った。


第5章 その後

中学校入学以降 カワとは別のクラスに
なってしまい 顔を合わせる頻度は減って
しまった。


それだけでなく カワは
1年で部活を辞め
2年からは いわゆる不良仲間と
つるむようになり 不登校気味に。

中学校の間で数えられそうなくらいしか
カワの顔を見ることはなかった。


それでも、卒業前には顔を見せるようになり
安堵した。


時は流れ 10年後。
小学校のクラス会が開催された。


抜き打ちで乾杯の挨拶をさせられる僕。
相変わらず面白くない無難な挨拶に
なってしまった。
悪い意味で真面目くんの面目躍如である。


辺りを見回すと、カワも来ていた。

直接話すのは何年振りだろう。
何を話したか覚えていないのが
僕の悪い癖だ。
ただ ひとつ覚えている。


カワは僕の知っている憧れの
カワのままだった。


短時間だったが、思い出話に花が咲いた。
本当に 会えて嬉しかった。


クラス会から さらに20年近く経つ。
再会のときに交換した連絡先は
使われないまま。

カワは 今何しているんだろう?


でも僕は 確信している。


カワは 今もあのときのカワのまま。


僕は 少し躓いたけど
また 前を向く。
いつか再会したときに カワに今の僕を
笑い話として伝えよう。

真面目くんのふりしすぎて 壊れたわ。
ゆるくないから これからは素で生きるわ。


いくつか 思い描いているうちの
小さい  小さい 夢のひとつである。


(了)

#創作大賞2024
#エッセイ部門

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