【連作詩:翼望】 その一 イスラフェル

かつて恐怖にまみれた詩人が詠った詩の天使イスラフェルは
女のような柔らかで繊細な顔立ちに
華奢な身体つきでありながら強靭さも称え
月桂冠をいただいた捲毛を煌めかせ
その美しい声でもって
人々どころか草花やけだもの
月までをも惑わせた
あるときふと降り立った地上で出くわしたひじりにひと目で心を奪われ
我と我が身とその役目さえも忘れ
ただただ聖を魅了しようと躍起になった
銀色に光り輝く大きな翼を怪しげに拡げ
媚薬を含んだ歌声で奏でる愛の歌が
聖にだけは届かなかった
昼となく夜となく歌い続けるその様子に
天は嫌気がさし
均衡を保って琴を奏でることができないよう
右の翼だけをもいでしまった
もがれた背中の穴からは
澱んだ濃紺の血が激流のごとくほとばしり
地が割れるほどの悲鳴を発したが
涙を枯らしたそのあと
一命をとりとめた堕天使は
地上に聖と共にいられることを
むしろ喜ばしく思っていた
柄にもなく乙女のごとくに頬を紅潮させたりして

その二:https://note.com/tokocahier/n/n8bfc1d6d5ec1
その三:https://note.com/tokocahier/n/n9e65738c1a32
その四:https://note.com/tokocahier/n/nba04af0827af
その五:https://note.com/tokocahier/n/n629d8666828f
その六:https://note.com/tokocahier/n/n7ee134706321

#創作大賞2023 #オールカテゴリ部門

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?