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中学生の頃、幽霊部員になった。

美術部だった。
美術といっても八割はイラスト部みたいなもので、放課後に美術室で各々が好きに描いて好きに話す。そんな活動内容だった。イラストを描くのが好きだったことと自由度の高さに惹かれて入部。小学校からの友人も一緒だった。

はじめは楽しく過ごしていた。漫画やアニメの話をするのも、好きなキャラクターを描くのも楽しかった。
でも夏の終わりかけ、担任の先生に勧められて生徒会に立候補し書記として当選してから少しずつ変わっていった。

なかなか部活に行けなくなった。生徒会の時間が増えたことで顔を出しにくくなった。

そう言うとかっこよく聞こえるけど(聞こえるのか)それは上辺の理由。本当は、私のいないところで深まっていく部員たちの仲に嫉妬していた。小学校からの友人も別の友達と距離をつめていて、美術室に入るとちょっと息が苦しくなった。仲が悪くなったわけではない。顔を出せば受け入れてくれる。ただちょっと、しんどかった。

それからは生徒会を言い訳に、だんだん顔を出さなくなった。
ちがう、出せなくなった。
行こうとしてもあのしんどさを思い出すと扉を開けるのがこわくなって「ごめん、今日休むね」の繰り返し。いつしか、生徒会がなくても休むことの方が増えていった。有難いことに、自由度の高さに加えて部活の顧問は生徒会も兼任してたから何も言われなかった。

二年生の夏。生徒会の書記に再び立候補して、もう一年間生徒会役員になった。同時に美術部の幽霊部員にもなっていた。
「カンザキ、幽霊部員だもんね」
友人が笑う。チクチク痛む心を見ないよう、私もとりあえず笑っておいた。


幽霊部員のまま迎えた二年生の冬。友人と急速に距離をつめた友達の距離があからさまに変わっていた。一緒にいた二人は分かりやすくお互いを無視してて、「触れるな」というオーラはとても冷たかった。外は少しずつあたたかくなっても関係は冷え切ったまま、最高学年になったのと同時期に距離をつめた友達は退部した。


二人が険悪になった理由を私は知らない。結局、知らないまま卒業した。
幽霊時代、美術室の中でなにがあったんだろう。それとも部活外でもめたのか。小学校からの友人は、時々彼女への愚痴を小さくこぼしていた。なんて言ってたかは覚えてない。でも幽霊だった私はそれをすくうことができなかった。


三年生の夏。二年間務めた生徒会を引退して久しぶりに美術室へ向かった。知らない後輩も多かったけど、何事もなくその中に入れた。部活の友達はいつものように迎え入れてくれた。

あの時感じたしんどさは薄まっていた。でも、だからって、嬉しいとも思えなかった。

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