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染めて、切って、馴染ませて

最後に美容院に行ったのは昨年の11月末。
ライブの時期に合わせて髪を整えに行った。
あれから4ヶ月が立ち、色はすっかり抜けて、顎ラインだった髪も肩につくようになった。

私が美容院に行くきっかけは2パターンあって、ひとつはライブや観劇といったイベントに合わせて整えに行くパターン。
もうひとつは、思い立った時。気持ちがどうにも晴れなかったり、急な変身願望に駆られて予約をするパターン。
今回は前者でもあり、気持ち的には後者でもあった。


気圧の変化に弱い私は、ここ数日調子が良くない。
体と心が噛み合っていない感覚がある。馴染めていない。
動きたいのに、体は重いし全身ピリピリするし、やる気がすべて布団に吸い込まれてしまう。
でも家でゴロゴロしすぎると、日が沈み始めたあたりで「時間を無駄にした・・・」と自己嫌悪するのが私だ。それなら予定を入れて無理矢理動かそうと、前日にいつもお世話になってる美容院へ予約を入れた。

今日はあいにくの雨。
花冷えとはこのことかと、雨と空気の冷たさに指先が驚く。
弾む雨音やすべてを洗い流してくれる空気はすきだけど、濡れるのは苦手だ。泳ぐことはだいすきなのに。多分、鞄や靴、服が濡れてしまうのがダメ。
そんな憂鬱を上塗りしようと、せめていつも以上に丁寧にメイクをした。
ちゃんと着飾ると、不思議と外に出たくなる。メイクは私を偽ってくれる仮面のようだ。

今日はやたら外国の方を見かけた。
濡れたキャリーバッグを引っ張って電車に乗ってきた。
せっかく来たのに雨で大変そうだった。

ちょっと早めについた私は、予約時間の10分前に入るべく、一度わざと通り過ぎる。
そして何周か遠回りしてから、いい頃合いで店に入った。

髪色は暗めに、長さはこのまま伸ばしたいのでレイヤーを入れてもらうことにした。
今年転職を考えていることもあって、一旦髪色を地毛に戻す計画を立てている。
私の地毛は真っ黒ではない。ダークブラウンのような、でも光が当たると少しオリーブっぽくも見える、そんな色素薄めの色だった。だから中学校では何回か疑われた。

思ったよりも混雑していて、染める兼シャンプー、ドライヤー、カットで美容師さんが3人入れ替わった。カットしてくれた方がいつも担当してくれる人だ。

ドライヤーをしてくれた人は新人さんだろうか。丁寧に、ゆっくりと、撫でるように乾かしてくれた。
丁寧すぎてドライヤーの温風を本当に当てているのかわからなかったほど。
とにかく、ドライヤーでこんなに時間がかかった、いや、かけてくれたのは初めてくらいの体験だった。
もしかしたらこれが本来のドライヤーのあるべき姿で、私がせっかちなのかもしれない。

それからはいつもの人にバトンタッチして、レイヤーを入れてもらう。
すとんと重力のまま落ちていた私のボブに、動きが生まれた。
レイヤーなんて言葉は最近知った。それまでは段を入れたいとお願いしていた。
ベストもいつの間にかジレと呼ぶようになってるし、ひょっとすると、今当たり前に使ってる言葉も別の呼び方があったりするんじゃないかって最近少しドキドキしている。
ジーパンはジーンズ?パーカーはフーディー?

そんなこんなで1時間30分後。
私はニュー・モモノコに変身した。

ここからうまく馴染んで、抜けて、明るくなったらまた毛先だけ暗く染めて、最終的に全部地毛で覆い被さってやろうという計算。その間に明るくしたくなったらどうしよう。

美容院から出ると雨は止んでいた。
心なしか、身も心も軽い。
理由のないモヤモヤを上から染めて、いらない部分を切ってくれたおかげかもしれない。

きっとまた、私は理由のないモヤモヤに襲われる。
そしたらまた染めて、切って、私と馴染ませてひとつにさせよう。


家につき、洗面台で新しい私と対面する。
色落ちしてた髪色とはガラリと変わっていて、正直まだ目が慣れない。
夏休み明けに渋々黒染めをしていた一軍女子たちは、こんな感じだったのだろうか。


この髪色が馴染んで溶け合った頃には、私も私と溶け合っていたい。

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