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お誕生日味

 今月頭に23歳の誕生日を迎えた訳ですが、その当日を私は仙台で迎えました。というのも、敬愛する椎名林檎のライブチケットを勝ち取っていたために、有給を取り夜行バスに揺られながら誕生日午前0時を迎えるというイレギュラーな誕生日一日の幕開けとなったのです。
 待望の5年ぶりのライブに当選するだけでも大歓喜案件なのに、それが誕生日の日と重なるなんて・・・しかも仕事も落ち着いていて快く有給も取らせてもらうことができ、仙台の友人とも予定が合い久々に会えることに・・・。
その日一日が自分の誕生日を祝福するために世界が動いているのでは?と錯覚して良いほど私にとってはめでたいトピックスで満ち満ちた一日でした。

 椎名林檎のライブに関しては言わずもがなですが、本当に最高の2時間で、最高だろうな、と思っていた程度を大きく上回るほどの最高加減でして、言葉では形容しがたいくらい最高だったわけで、実に4回泣くほど最高でした。(要は最高)
 これは今私の持ちうる言葉全てをどうにか使い尽くして、最大限この”最高”の有様を仔細に書き残しておきたいと思っているので、近々レポ的にまとめてみます。よかったらそちらも覗いてもらえると嬉しいです。

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 相変わらず前置きが長いですが、今日はこのライブの前に食べたケーキがなぜか印象的だったので、忘れないうちに書き残しておきます。

 「誕生日だからケーキ食~べよ」と、友人から教えてもらったカフェに入りメニューの中から一番お誕生日ケーキっぽいケーキを選びました。
 本当はショートケーキとか、ベタ中のベタを食べようと思っていたので、「マウンテンケーキ」という名称と、運ばれてきたケーキの見た目のラフさに、少しだけ意に満たないような気もしてしまいましたが、そこは誕生日特有の多幸感で上手く目を背けることが出来ました。

 最初は上に乗ったホイップクリームを口に運び、次にその下層のホワイトチョコとイチゴを食べる。続いてそれら全てを一緒に食べてみたり、各食材だけを食べてみたりと、自分の中で決して確立されてはいない「味を楽しむ」方法を実践してみながら、少しずつ食べ進めていきました。そして口内に充満したこのケーキの味を、私は「美味しい」「甘い」以上に「誕生日の味」と真っ先に認識し、「誕生日味」が味蕾を通して全身を巡ったような感覚になりました。
他の日に同じものを食べていてはまず抱かないであろう「誕生日味」という知覚に、23歳にしては過度に思える「誕生日への昂り」を自覚し、思わず笑ってしまいました。

ただこれまでを振り返ると、小学生くらいの頃からずっと誕生日にリクエストしていたのはチーズケーキかフルーツタルトで、ホイップやイチゴ=誕生日となるほど思い出深い味では決してないはずなのでした。
 個人の食の経験を超えて、一般的なイメージに個人の味覚が紐づくこともあるのか、興味深いな〜なんて、脇道を逸れるように考えてみたりもしました。

ケーキを食べ終わる頃には、少し飽きを感じるくらいの甘ったるさで全身が満たされていました。そして白紙に戻ったお皿を見つめながら、「誕生日味」の余韻に浸る中で、途方もなく私を甘やかしてくれたその味は、変わらず祝福の味でありながら、知らぬ間に自愛の味に変わっていることにハッとしたのでした。

親から注がれた際限ない愛情の一片として与えてもらったその味が、自らを愛でるために自らで用意した味に変化している。
慌ただしい日常の中で自分自身に向けられる愛情を持ち合わせられたことに喜ぶべきか、それを他人と分け合うことなく持て余していることを悲しむべきか、どう捉えていいか分からないまま、ただただその変化を一つ歳を重ねたという事実への傍証として脳内で処理し、店を後にしました。

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