一つずつ心を込めて作る地域の光
お話しを伺った方
こしぇる工房add 高橋けい子さん 小野公司さん(2023年取材)
暮らしに遊び心を取り入れる
有限会社クワンが運営する「こしぇる工房add」は、滝沢市と盛岡市を拠点にさまざまなオリジナル商品を手掛けている。
「生活(くらし)にアートを。」をテーマとし、ふきんや文具、雑貨など、日常生活に取り入れやすいアイテムが特徴。
スタッフのアイディアや顧客の要望を取り入れて商品を開発し、全て手作りで仕上げている。
取締役会長の高橋さんは、「一度にたくさん作ることはできませんが、ライフスタイルや流行なども取り入れながら、遊び心のある品を届けていきたいと考えています」と語る。
オリジナル製法で作る南部炭染
「こしぇる工房add」では、2016年に新ブランドとして南部炭染を発表。
これは生産量日本一を誇る岩手の木炭を原料に染め上げるもので、構想期間を含めて約3年の月日をかけて開発した。
岩手県で作られる炭は品質が良いことで知られていて、爆ぜにくく安定した火力を保つことから茶道やバーベキューなどに用いられることが多い。
しかし、日常生活の中で炭を燃料として使っていた時代に比べると需要は激減。
そうした現状を知った高橋さんは、以前から「自然の素材でものづくりがしたい」と考えていたこともあり、炭の新しい活用法を模索してオリジナル製法の南部炭染にたどり着いた。
独学で試行錯誤を繰り返した日々
「絵を描くときに使う顔料には、土や石などを使うことがあります。それらと同じように、炭にも知られざる可能性が秘められているのではないかと思いました」
高橋さんは独学で染物の勉強をし、自宅のキッチンで炭染の研究開発をスタート。試行錯誤を繰り返すうちに、炭染に合う樹種や炭の状態なども把握できるようになっていった。
「炭染に向いているのは、ナラや竹の炭。マツは油分が多くて染物には向かないんです」と、高橋さん。
南部炭染では粉状にした木炭を溶かして染液を作り、手で揉み込むようにして染め上げていく。
そして、乾燥と水洗いを何度も繰り返してようやく完成となる。
現在は衣服やストール、靴下、帽子などのさまざまなアイテムがあり、玄関にちょこんと置きたくなるぬいぐるみのシリーズは、学生など若い世代に人気の商品だ。
日常生活の中で活躍する炭
炭が持つ魅力はさまざまで、冷蔵庫や靴箱の中に入れておくと臭いだけでなく湿度の調整や、カビの繁殖を防ぐ役割を担ってくれる。
また、遮光やUVカットを目的としたインテリアに応用されているほか、庭や畑に使えば土壌改良にもつながるという。
「こしぇる工房add」ではこうした効果を実証するため、専門の機関に依頼して自社商品の染色堅ろう度や消臭効果、UVカット率などをテスト。
いずれの数値も非常に高い結果になった。
「これまでお客様から依頼を受けて、カーテンや枕カバーなどを作ったこともあります。南部炭染は水洗いを繰り返して仕上げるため、色落ちもほとんどありません」
子どもたちを見守る取り組みも
そんな「こしぇる工房add」では、南部炭染のほかに手拭いも手掛けている。
特に20年近く作り続けている「防災拭い」は、累計販売数30万枚以上という大ヒット商品。
親しみやすいイラストで防災情報が詳しく描かれており、これまで防災グッズ編や地震編、津波編、新型コロナウイルス編などを製作してきた。
一般的な手拭いよりも長めに作ってあるため、骨折や怪我をしたときの応急処置や、裂いたものをつなぎ合わせてロープの代用品として使うこともできる。
また2022年度には、子どもたちの安全を守るために必要な情報を記載した「ピカイチぬぐい」を発表。
県内企業のサポートを受けて小学一年生に配布し、売上の一部は「いわて学び希望基金」に寄付した。
代表取締役社長を務める小野さんは「子どもたちが安心して通学できるよう、交通ルールや災害時の避難方法などを載せています。
今後の目標は、県内全ての小学一年生に配布すること。地域の企業の皆さまと一緒に、子どもたちを見守る活動の一つとして発展させていきたいです」と語る。
この先も、思いを込めて作り続ける
「こしぇる工房add」は、誰もが見過ごしがちな地域の資源に光を当てて新たなブランドを生み出すとともに、子どもたちへの取り組みを通して街の未来にも思いを馳せている。
その愛情あふれる思いが伝わるからこそ、ここで作られた商品は多くの人たちを魅了するのだろう。
二人は「これからも社会に役立つものや岩手ならではのアイテムを作り、届けていきたいです」と語ってくれた。
撮影:佐藤到
有限会社クワン こしぇる工房add
岩手県滝沢市大釜風林42-185-2F
TEL:019-656-8403
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