見出し画像

令和版粋なゲーマー養成講座:ダークサイド12:TRPG選民主義とライフ・スタイル格差

解説:昔々、だいたい25年ほど前、エンターブレインのTRPG専門誌『ログアウト』で連載していた『粋なゲーマー養成講座』の続編的な何か。今回は、オンライン・サークルのクラスター間格差に関し語り合います。一応、ライトサイトの続き。

文:朱鷺田祐介 イラスト:田中としひさ

ようこそ、私の研究室へ。

 TRPGも半世紀の歴史を経て、プレイ集団ごとの差異が拡大した。どのゲームをどのようにプレイし、プレイヤー集団の背景、例えば、経済的な能力、文化傾向、年齢性別などの集団的な個性が拡大していった。これをクラスターの個性化と呼ぶ。クラスターは個別の方向性を持つ集団を指す。
 20世紀の間はオフライン・セッションが大勢であったことから、地域性、主にプレイするゲーム、年齢(あるいは学生か社会人か)が主なクラスター格差の発生源であり、傾向の異なるクラスターは、大きなイベントでもなければ、別々に生きていればよかった。
 21世紀に入り、オンライン環境が充実し、動画からCoCという強力な参入経路が増えたことで、地域や年齢、性別にとらわれない新たなユーザー層が増加した。それは、旧来のゲーマー層とは異なる人々であり、若年層に訴求するとともに、若い社会人を中心に加速していった。そこでは、公式サポートのあまり届かない世界で、また、新しいクラスターが、いくつも誕生し、それぞれが開かれているように見えて、実は狭い仲間感覚の価値観を育てていった。それをダイバーシティ(多様性)と呼ぶことも出来るが、どちらかと言えば、新たなカースト制度かもしれない。

令和6年8月

【主な登場人物】

難解好夫(なんかい・すきお。60歳、フリーランス、TRPG歴41年)
少々梶理(ちょっと・かじり、14歳、CoC大好き中学生、TRPG歴半年、通過リスト50+)
色々知照(いろいろ・しってる。53歳、政府外郭団体系NPO管理職、TRPG歴36年。なんだかんだ言って、難解さんと30年以上ゲームをしている古株ゲーマー。世話好きだが、なぜか独身)
少々梶郎(ちょっと・かじろう、48歳、邪神系コンベンション主催者、会社員、TRPG歴35年。梶理の父で、親ばかが高じて、娘のためにTRPGコンベンションを開催する)
難解ひろこ(なんかい・ひろこ。難解の妻、旧姓・曖昧(あいまい)。46歳。自営業。和装小物製作、TRPG歴27年)

邪神CON打ち上げにて

「邪神CON(*1)終了! お疲れさまでした!」
 イベント主催者の少々梶郎(ちょっと・かじろう)の挨拶を皮切り(*2)に皆が乾杯(*3)。居酒屋(*4)を貸し切り、打ち上げが始まる。

「いや、この一杯のために生きている!」(*5)
 邪神系コンベンションの初心者枠で「Electric State RPG」(*6)を回した難解好夫(なんかい・すきお)は、生ビールを一杯。

 そこで、少々がさらに手を上げて、皆の注目を集める。

「本日は開催にご協力ありがとうございました。
 打ち上げも開催できること、喜ばしいことです。
 その上で、あえて、お願いいたします。
 コロナはまだ終わった訳ではありません(*7)。
 飲食していない間は、可能な限り、マスクをし、咳エチケットに配慮してください(*8)。皆さんのご協力がオフラインのコンベンションを維持しています。ご協力感謝します」

 うんうんとうなずく難解。

難解「TRPGコンベンションも、ノーマスク勢(*9)が増えているが、あえて言いたいな。マスク重要だぞ」
色々「お、さすがに難解さんもコロナにかかった後は殊勝ですね」

 実は8月頭にコロナにかかった難解さん。(*10)

難解「ワクチン接種していたから、軽症で済んだが、結構、熱が出たし、体力も持っていかれた(*11)。何より、コミケ(*12)に行けなかったのは、痛かったな」
色々「発症がコミケ直前でしたからねえ」
難解「この酷暑で夏バテかと思った(*13)が、4日前に飲んだ暗黒司(*14)が『コロナ発症なう』(*15)と連絡してきたので、検査したら、陽性だった。泣く泣く諦めたよ」
色々「いや、今年のコミケは炎熱地獄でしたから、体力落ちた状況での一般入場は無理ですよ。気温35度、入場待機列のいる場所はコンクリートの上ですから体感温度は40度を越えてましたね(*16)」
難解「空調服(*17)でもきついと聞いたが」
色々「使っている人がいましたが、『熱い空気が入ってくる。限界(*18)』とか、『バッテリーが死んだ。もう俺はダメだ(*19)』とか」
難解「どこの宇宙SFだ!?(*20)」

セッション応募の敷居が高すぎる件


 そこへ、少々梶郎とその娘、梶理がやってくる。

少々「娘が相談したいことがあるとか?」
難解「昼間はうまく行ったんやろ?」

 昼のコンベンションでは、有名シナリオを回そうとして、苦戦していた梶理ちゃんであった(*21)が、難解の助言を聞き、結局、自作のシナリオを回したという。

梶理「実は、オンラインのCoCセッションに応募したいのですが、なんか難しそうなことが書いてあって・・・」

 梶理が差し出すスマホ画面を見る難解。

難解「何々、大正日本を舞台にしたシナリオか、面白そうやな。
 必須サプリ、『クトゥルフと帝国』(*22)はまあ当然やな。
 『比叡山炎上』(*23)から、修羅と術を持ってくるか? 
 ええんやないか?」
梶理「そこじゃなくて、その下」
難解「オンセツールはココフォリア(*24)。
 俺はユドナリウム(*25)派だが、まあ、これも普通だろう?
 まあ、今どき、VRC(*26)でCatsUdon(*27)とか、FVTT(*28)とかでも、対応は可能か。VRゴーグル(*29)がなくても対応できるしな」
梶理「その下」
難解「指定された画像サイトで立ち絵を製作のこと?
 このサイトか、おお!? なかなかの絵師(*30)が登録しているな。
 どこが不味い?」
梶理「その下」
難解「立ち絵1体、3-10万?(*31)
 これが必須? アホか!」

TRPGも格差社会?

 自分のPCを立ち上げ、しばし、検索する難解さん。

難解「結論から言うと、やめとけ」
梶理「どうして?」
難解「このオンラインサークルは、お貴族様や。
 中学生女子が入っても苦労する」
梶理「面白そうなセッション告知だったのに」
難解「そりゃそうや。その告知画像も外注(*32)だし、シナリオも界隈の有名作家(*33)に依頼している」
梶理「◎◎さんの新作をいち早く遊べるから、気になっているの!」
難解「そこがお貴族様ということだよ。
 ここのメインメンバーは裕福なビジネスパーソンばかりの集団だ。それで趣味に金を突っ込むことにためらいがない。界隈の有名絵師に立ち絵を頼んで、5万払うのを当然だと思っている」
梶理「5万円・・・・」
難解「残念だが、金の感覚が違う。付き合うには金がかかりすぎる」
梶理「会費とかは書いてありませんが・・・」
難解「具体的な金額は出てなくても、かかる金というのがあるし、社会人と中学生では、そもそも、生活時間帯にも違いがある。
 『シャドウラン』で言えば、ライフ・スタイル(*34)やな。これが違うと付き合うのが大変なんや」

 難解さんと少々父の間で、視線が交錯する。

少々「好きなことはやらせてあげたいのですがね。お金には限界がありますねえ。こんなところにも格差社会がある(*35)なんて」
難解「いや、趣味だからこそ、突っ込める金で経済格差が表面化する。それは、『マジック:ザ・ギャザリング』で学んだやろ?(*36)」
少々「難解さん、いくら課金したんですか?」
難解「自動車が買えるぐらいかな?」(*37)
少々「・・・」
難解「いや、そこも否定することやない。
 例えるなら、スキーだ。
 ちゃんとスキーを楽しみたいなら、レンタルでも出来るが、最終的には板を買った方がいい(*38)。靴も持っていた方がいい。ウェアまでレンタルしてたら、高くつく。年に5回、スキーに行くなら、買った方が安くつくし、大会に出て競うまで目指すなら、1ランク上のものを買う必要がある」
少々「TRPGも一緒だと?」
難解「配信を見て、CoCの入門プレイをするだけなら、Quick Start(*39)でいいが、継続するなら、やっぱり、ちゃんとしたルールブックは欲しいし、やっていれば、サプリメントが欲しくなる。まだ、お前んところは、二世代ゲーマーだから、親も理解があるし、子供が欲しいルールブックも家にある(*40)が、ゲームに興味もないし、読書しない親だったら、6000円のルールブック(*41)を買う小遣いが出ないだろう。
 ここから、フィギュア(*42)に進むか、海外ゲーム(*43)に進むか、コレクション(*44)に進むとかいくらでも沼(*45)は待っている。同じくらい金を注ぎ込めるヤツとしか、楽しく遊べないものだよ。
 打ち上げが、こういう大衆居酒屋の焼き鳥でいいか、それともレストランのコースじゃないと我慢できないか?(*46)」

拡大する「界隈」のクラスター化


梶理「じゃあ、こっちのサークルは?」
難解「カラフルな告知だな。サイトもイラストがたっぷり、立ち絵も貸してくれるか。なかなか親切じゃないか?」(*47)
梶理「でも、掲示板が・・・」(*48)
難解「交流掲示板があるなら、そこをROMって見るのは、サークルの雰囲気を知るのにいい手段だな」
梶理「ROM?」
難解「リード・オンリー・メンバーだ。今はなんて言うんだ?」(*49)
梶理「読み専のことですね」
難解「・・・まあ、いい。掲示板がどうしたって?」 
梶理「なんか雰囲気が」
難解「(流し読みして)このサークルには、姫がいるな」
梶理「姫?」
難解「サークルメンバーがもてはやす女性のことだ。昔、オフラインでのオタク・サークルは男が多めだったので、そこに可愛い女性が参加すると、そこでお姫様のように扱われたもんだ」(*50)
梶理「でも、これ、オンライン・サークルですよ? そもそも、女性かどうかも非公開です」(*51)
難解「ハンドルネームの設定が女性なら姫、男性なら王子だ。
 このプレイヤー、可愛い立ち絵が描けるので、もてはやされているが、発言がヤバい。『絵が描けないKPはゴミ』とか『絵描き以外に、人権がない』とか、この発言をサークル主が放置しているなら、彼女の信者(*52)以外は、居心地悪いなあ」
色々「ここで、乗り込んで、説教しちゃると言わないあたり、難解さんも丸くなりましたね(*53)」
難解「まさか、これがコロナの後遺症?」(*54)

 とっぴんぱらりのぷぅ。

解説っぽい何か

ここから先は

3,813字 / 3画像
7人以上のライターが月に1本以上、書いています。是非、チェックしてください。

アナログゲームマガジン

¥500 / 月 初月無料

あなたの世界を広げる『アナログゲームマガジン』は月額500円(初月無料)のサブスクリプション型ウェブマガジンです。 ボードゲーム、マーダー…

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?