令和版粋なゲーマー養成講座:ダークサイド8:ナラティブの光と影
解説:昔々、だいたい25年ほど前、エンターブレインのTRPG専門誌『ログアウト』で連載していた『粋なゲーマー養成講座』の続編的な何か。今回は、TRPGシナリオを書いてみたい、という話。ライトサイドの続き?
ナラティブ系RPGの光と闇を語ろう。
文:朱鷺田祐介 イラスト:田中としひさ
ようこそ、私の研究室へ。
ナラティブ系、という怪物がTRPG界をのし歩いている。
TRPGもまた時代として変遷が続いており、近年のキーワードのひとつが「ナラティブ」である。「ナラティブ」という言葉は、色々意味があり、デジタルゲーム業界では「プロットに限らない広範囲のストーリー要素」を意味する。海外のメイキング記事などを読むと、ゲームにおけるナラティブ、というような表現が出てくる。
TRPGにおけるナラティブは、ナラティブな要素、語りや即興性を重視するもので、時には、厳密な物理再現だけでなく、カッコいい演出によって、物理法則やルールを超越することすら含む。
しかし、この概念が来る前から、日本ではストーリー演出優先のゲームが多々登場してきた。トーキョーN◎VAにおける登場判定は、まさに物理的な法則を凌駕して、ドラマへの参入を許可する。
しばしば、スタイルは物理法則を超越し、カッコいいかどうかで決まることすらある。
『天羅万象』の凄さを表現する言葉が好きだ。
「1000人の雑兵と、覚悟を決めた一人のサムライ、勝つのはどっちだ!」
ここでコンマ1秒のためらいもなく、「サムライ」と言い切るのが『天羅万象』のナラティブである。
もちろん、21世紀に誕生したナラティブなTRPGは、ナラティブ重視のスタイルを支援するルール、ギミック、データを持つ。ルールを簡便化して軽量化することが多いが、それはナラティブの核ではない。時として、データの豊かさこそがナラティブを支えることもある。使い捨て、一発屋でないナラティブ体験を支えるだけの体力がデータの量で補足されるからである。
さあ、ナラティブはどこに行くのか?
令和5年9月
【主な登場人物】
難解好夫(なんかい・すきお。60歳、フリーランス、TRPG歴40年)
少々梶理(ちょっと・かじり、14歳、CoC大好き中学生、TRPG歴半年、通過リスト50+)
色々知照(いろいろ・しってる。52歳、政府外郭団体系NPO管理職、TRPG歴36年。なんだかんだ言って、難解さんと30年以上ゲームをしている古株ゲーマー。世話好きだが、なぜか独身)
少々梶郎(ちょっと・かじろう、47歳、邪神系コンベンション主催者、会社員、TRPG歴35年。梶理の父で、親ばかが高じて、娘のためにTRPGコンベンションを開催する)
難解ひろこ(なんかい・ひろこ。難解の妻、旧姓・曖昧(あいまい)。46歳。自営業。和装小物製作、TRPG歴27年)
ナラティブ系は大変?
「いや、この一杯のために生きている!」(*1)
無事、邪神系コンベンションで「深淵第二版」(*2)を回した難解好夫(なんかい・すきお)は、色々知照(いろいろ・しってる)、少々梶理(ちょっと・かじり)とその父、少々梶郎(ちょっと・かじろう)らと、サイゼでイタリア飲み(*3)。まずは生ビールを一杯。
難解「TRPGを遊んだ後の生は最高だぜ」(*4)
色々「これだけはやめられないなあ」(*5)
少々「ああいう大人にはなるなよ」
梶理「父よ、友達けなす、ダメ」
なぜかアーニャ構文(*6)の梶理ちゃん。
それには理由がある。
梶理「今日の『深淵』(*7)でひっかかることがあって」
難解「どうしたんや?」
梶理「あれ、アドリブ(*8)ですよね?」
難解「ああ、ほぼアドリブや」
梶理「あれ、どうやってやるんですか?」
難解「ふふふふ、秘密だ」
梶理「ずるーい」
少々「そこは私も聞きたいですねえ。『深淵』はGMが難しそうで、出来るかどうか、毎回悩むんですよ」
色々「そういう人が多いねえ。
なんで『深淵』には朱鷺田祐介がついていないんでしょうねえ」(*9)
難解「そういうが、あれは超・楽だぞ?」
色々「楽ですね」
梶理「え、どこが? 世界設定とか多いんじゃないですか?
91の魔族とか、91の運命とか(*10)。
ナラティブ系って、もっとライトなものじゃないんですか?」
難解「逆やで、ナラティブを支えるのはデータや(*11)。魔族も運命も必要になったら、参照すればええ。自由にやって、必要な敵を出したら、ええようにゲームが出来ている」(*12)
梶理「ゲーム・バランスは?(*13)」
難解「簡単に言うて、『深淵』は雑な数値管理でも出来るように、PCが目的を達するためのギミック(*14)がたくさんあるゲームや。推定寿命、運命カード、縁故・・・まあ、4人やったら、召喚値100(*15)までの魔族はどうにでもなる。魔剣持ちの呪われた天才剣士(*16)がいれば、召喚値150の火龍(*17)を出しても問題ない」
梶理「でも、運命の絡め方とか?」
難解「運命の解決方法は全部、運命の書に書いてあるで。
その上で、あれは最悪、夢歩きすれば、進む」(*18)
梶理「確かに。
父の騎士が夢の中で魔族に会った瞬間に話が進みだした」
難解「力は欲しくないか?」(*19)
少々「欲しい!」
色々「.1秒も悩まなかった」
難解「少しは悩めよ、と少々に言っても無理か」
色々「おかげで、ダーク・ファンタジーって何?(*20) という雰囲気になった」
少々「これは騎士道というものだ」(*21)
梶理「父よ、それでよく母と結婚できたな」(*22)
少々「娘よ、すべては愛の為せる技!」
なんか、今日のロールプレイを引きずっている少々父であった。(*23)
トラウマを抉るマスタリング
梶理「しかし、難解さんのKP、エグい」
難解「なんだとーーー」
梶理「後半の怪物描写、怖くて泣きそうになった」
難解「そんなことはしていないぞ。
ただ、ちょっと間を置いて、こう言っただけだ。
『ぽたり。緑色の肌から、蠢く灰色の蛆めいた肉片が落ちた。
ぽたり・・・ずるっと』」(*24)
梶理「怖いーーーー」
難解「コツは擬音だ(*25)。
五感に訴えるような間合いで語るのがいい。
ぽたり・・・・・・ず、ずるーーーー」
梶理「怖い。怖い。夢に出そう」
難解「うむ、ダーク・ファンタジーのダークを堪能してくれ」
梶理「こう見えて、幼虫系は苦手」
難解「お前、CoCプレイヤーやろ!(*26)
『白蛆の襲来』(*27)読んでないんか!」
梶理「何、それー」
難解「クラーク・アシュトン・スミス(*28)の傑作や。白くて巨大な蛆みたいな魔法の怪物が氷山に乗ってやってきてな、魔術師が従属させられて大騒ぎという話だ」
梶理「巨大な…白くて… 」
難解「ついでに、目から赤い血のような小さな目玉みたいなのが涙のようにこぼれ続けて・・・」
梶理「ぎゃああ」
少々「そこまで!」
と、少々父がXと書いたカードを出す!
難解「なんや、その少し前までTwitterだったみたい(*29)なカードは!」
少々「これぞ、Xカード。TRPG中のセーフティ・ツール(*30)。よもや、難解さんが知らないとは言わせませんぞ?」
難解「今は、セッション中やない! 使用設定をしていないセーフティ・ツールは無効や!」(*31)
そこで、横から難解ひろこのエルボーが難解さんの脇腹を抉る。
ひろこ「女の子が嫌がっているでしょ!」(*32)
難解「う、すまぬ」
ひろこ「もう昭和30年代生まれは雑でいけないわ」(*33)
難解「・・・」
ひろこ「最近の若い子はデリケートなんだから、やりすぎはいけません」
難解「しかし、『深淵』はダーク・ファンタジーやろ?」(*34)
ひろこ「プレイヤーのトラウマをえぐってどうするの?」(*35)
難解「難しいのぉ」
結局はコミュニケーション
落ち着いた梶理ちゃんは、難解さんが奢ってくれたパフェで一息。
難解「すまん、やりすぎた」
ひろこ「うちの穀潰しがすいません」
梶理「いつもは回避していたんだけど、今回はちょっと」
難解「いつもはどうしていたんや?」
梶理「地雷チェックリスト(*36)をKPに渡して、シナリオに合うかどうか確認してもらう」
難解「あ、あれな」
詳しくは、こちら。
https://note.com/tokitayusuke/n/n3fe4d847cccc
難解「俺はアドリブ派やし、『深淵』だとダークファンタジーだから、キャラのトラウマをえぐっていく展開が多いよな」(*37)
梶理「キャラのトラウマなら、我慢できますよ。キャラのなら」(*38)
難解「でも、野良卓(*39)とか、よく飛び込んでいるよな。ああいう時はどうするんや?」
梶理「あれはまあ、知り合いを狙いますよ。後、人当たりのいいKPさんかどうか、噂をチェックします」(*40)
難解「噂か」
梶理「検索すれば、KPが上手い人、下手な人の噂も見つかります。Tweetを見れば、人柄も少しは見えますし」
難解「今はポスト(*41)な。そう上手くわかるかね?」
梶理「アンケート系のツイート(*42)やTRPGビンゴ(*43)とか、そういうので、結構、見えますね」
色々「最近だと、『TRPG界隈の人に聞きたい20の質問』(*44)がありましたね」
難解「界隈って、なんやね?」
色々「業界だとプロ限定(*45)になるし、システムを特定すると世界が狭くなるしねえ(*46)」
難解「制作者はたぶん、そこまで考えとらんで。あれは無意識にオンセ界隈のCoCの仲間募集で(*47)流したんじゃないかな。そもそも、好きなシステムとか、魂のTRPG(*48)がないのは、色々が言うような配慮じゃなくて、無自覚にTRPG=オンセのクトゥルフになっているからやろ。そもそも、そうじゃないと他の質問がなりたたん。テキセ(*49)派、ボイセ派(*50)とか、スマホ派、PC派(*51)とか、キャラ作成や卓にかける時間、プレイする時刻とか、質問の大半が、オンラインセッション前提やろ(*52)」
梶理「なんか、悪いですか?(*53)」
難解「悪いとは言っとらん。俺ら、オフラインでCoC以外を遊んでいた古参兵向けやないなあ、と寂しいだけや(*54)」
梶理「でも、責められているような気がします(*55)」
難解「そら、愚痴るわ。ロールプレイは茶番派ですか? とか聞かれたら、馬鹿にしとるんかい? とも思うわ。この二択そのものがかちんと来るわ(*56) 例えば、今日の少々父は茶番かいな?」
少々「我が騎士道に揺るぎなし!」
梶理「父、ダメ騎士をしっかりと演じていた」
少々「冬の予感(*57)で折れそうな心を過剰な言説で耐える不器用な親父のロールプレイ、わかってもらえたか。我が娘よ!」
梶理「父よ、ハズい」(*58)
少々「なぜ?!」
語られない闇もある
少し後、中央線某所のウィスキーバー(*59)にて、難解さんと色々さんが、ウィスキーを傾ける。娘を心配する少々父、オンセがあるとかいう妻ひろこらと別れ、二人飲みである。
難解:を、これ、美味いな。(*60)
色々:結構、いけますね。
それより難解さん、なんかいい足りなかったんじゃないですか?
難解:まあな。
色々:どうしてやめたんです?
難解:中二の女の子に語る話じゃねえな、と。(*61)
色々:難解さん、どうしたんですか? もしかしてガンとか(*62)
難解:勝手に殺すな!
色々:自重するとか、難解さんに似合いませんよ。(*63)
難解:てめえ、この野郎。
・・・まあな、らしくねえや。
あの20の質問に噛みつくのも大人気ねえって思っただけだ。ガキが砂場で遊んでいるのに、爺が殴りこんでもいいことはねえ。
それにな、ナラティブ系の闇の可能性をつつくのもいいことじゃねえ。
色々なセーフティ・ツール、マナー、ゴールデン・ルール、ギミックを駆使して、ちゃんと身を守ってやがる。(*64)
色々:そこら辺は、CoCのオンセ界隈で色々あった結果ですからね。(*65)
難解:UI(ユーザー・インターフェース)の面はオンセの方が進化しているが、同時に車輪の再発見(*66)も多い。
層が広がれば、馬鹿も増える(*67)。
でもな、説教するのは、俺の仕事じゃねえや(*68)。
色々:じゃあ、どうするんですか?
難解:俺が好きに遊ぶさ(*69)。
あのガキには一度、地獄見せちゃる。
色々:それは止めて上げてください。
難解:にやり(*70)
色々:あ、なんか悪いこと考えてますね。
難解:沼へようこそ。(*71)
解説っぽい何か?
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