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令和版粋なゲーマー養成講座:ライトサイド10:TRPGの歴史と可能性

解説:昔々、だいたい25年ほど前、エンターブレインのTRPG専門誌『ログアウト』で連載していた『粋なゲーマー養成講座』の続編的な何か。

文:朱鷺田祐介 イラスト:田中としひさ


ようこそ、私の研究室へ。

 2024年、あけましておめでとうございます。
 1月末ですが、月1連載になりつつありますので、お許しください。何しろつい最近まで、2023年12月59日とか言っていましたので。

 1974年1月の後半に、『ダンジョンズ&ドラゴンズ』の初版が出版されたことから、1月の最終日曜日がTRPG誕生の日とされたそうで、なんとTRPGの歴史も半世紀を迎えました。講師がD&Dに出会ったのは大学2年生の夏の終わり、1982年のことですので、もう40年以上になりますね。
 当時、お世話になっていたSF翻訳家の小川隆さんが「アメリカで流行っているゲームだそうなので、やってみましょう」と持ってきたのに参加しました。朱鷺田の盗賊はダンジョンの2部屋目で天井が落ちてきて死にました。
 よく考えたら、当時の小川隆さんは海外SF系の編集者であり、安田均先生が翻訳された『衝撃波を乗り切れ』などの担当者でしたので、その流れで情報が入っていたのでしょう。

 50年記念ということで、このTRPGの歴史を振り返ってみるのもまた、よき機会でしょう。実際のところ、TRPGは進化と変化、浸透と拡散を繰り返し、サブカルチャー全体にさまざまな影響を与えています。その流れと結果を誰かがきちんとまとめておくべきなのでしょう。本来は、業界のトップリーダーであり、まさにTRPGの歴史を背負ってこられた安田均先生に誰かがインタビューしてほしいところ(4Gamerで活躍されている徳岡正肇さんが適任ではないかと思いますが)です。

 まあ、歴史というのは、当時を知る多くの人々が多面的に語ることで、その陰影から、色々なことが読み取れるものでございます。講師ももう還暦を過ぎて1年以上、このあたりで何か話しておくぐらいしか、後進に残すものはないかもしれません。
 まあ、そういう訳で、今回は思い出回でございますよね。本当?

令和6年1月

【主な登場人物】


難解好夫(なんかい・すきお。59歳、フリーランス、TRPG歴40年)
少々梶理(ちょっと・かじり、14歳、CoC大好き中学生、TRPG歴半年、通過リスト50+)
色々知照(いろいろ・しってる。52歳、政府外郭団体系NPO管理職、TRPG歴36年。なんだかんだ言って、難解さんと30年以上ゲームをしている古株ゲーマー。世話好きだが、なぜか独身)
少々梶郎(ちょっと・かじろう、47歳、邪神系コンベンション主催者、会社員、TRPG歴35年。梶理の父で、親ばかが高じて、娘のためにTRPGコンベンションを開催する)
難解ひろこ(なんかい・ひろこ。難解の妻、旧姓・曖昧(あいまい)。46歳。自営業。和装小物製作、TRPG歴27年)

難解さん、浄化される。

 今日も今日とて、とある邪神系コンベンション(*1)。
 会場の隅っこで、古参メンバーの難解好夫(なんかい・すきお。61歳)の妻のひろこと、色々知照(いろいろ・しってる。52歳)が、雑談をしているところへ今回の主催者、少々梶郎(ちょっと・かじろう、47歳)とその娘の梶理(かじり、14歳)がやってくる。

少々「本日はGM、KP(*2)を引き受けていただき、ありがとうございます。演目は予定通りで?」(*3)
色々「今日は初心者(*4)が多いんですよね? 予定通り、『新クトゥルフ神話TRPG』(*5)の入門シナリオを用意しています」
少々「ええ、そうなんですよ。もう大変で。色々さんには、いつもご配慮いただき、ありがとうございます。えっと、難解さんは?」
難解「『深淵』ガンダムSEED DESTINY」
少々「はあ?」
難解「『深淵』第二版(*6)のシステムを使って、『機動戦士ガンダムSEED DESTINY』(*7)の世界線をやり直す」
少々「ええっと」
色々「ああ、『ガンダムSEED FREEDOM』(*8)を見たんですね? どうでした?」
難解「傑作やった。20年の時間が監督夫妻の怨念(*9)を美しい劇場版に結晶化させた」
色々「種運命(*10)否定派の難解さんが!」
難解「シン・アスカが救われたんや(*11) ルナマリア(*12)とラブラブやった!」
色々「ああ、難解さんの中の何かが浄化されていく」
難解「すみきった~」
色々「ああ、『ひろがるスカイ!プリキュア』(*13)も完結しましたね」
難解「すみきった~」
梶理「父よ、難解さんはなんの話しをしているの?」
少々「そうか、梶理がプリキュアを卒業して、もう8年か(*14)。
 今から20年あまり前に放映された『機動戦士ガンダムSEED』というアニメがあってな・・・・その続編『機動戦士ガンダムSEED DESTINY』は色々あって・・・なぜか今、その決算というべき劇場版が公開されたのだ。
 なんかこの話、涙なしには語れないな」

難解「私の中にあなたはいます。あなたの中に私はいますか?」(*15)

梶理「えっと、ファフナー?」(*16)
色々「キャラデザは一緒だが、順番が逆だ(*17)
 って、なぜ、ファフナーを知っている?」
梶理「去年、父がアニメを見ていた」(*18)
色々「ああ、なるほど」
少々「それはさておき、なんで、『深淵第二版』なんですか? ガンダム系TRPGならば、『ガンダム戦記』(*19)でしょうが!」
難解「それは違うな。初代からの宇宙世紀(*20)は、戦争物だから、シミュレーション要素やデータ面、歴史面が充実している作品、『メ・・・』、いや、『ガンダム戦記』が最適なのは当然だ」
少々「今、別の作品名を口走ろうとしましたね」
難解「なんの話だ。俺は、あのエクセルがないと、機体デザインができないゲーム(*21)のことなど話してはいない!」
色々「あれのことかなーー」
難解「ちなみに、サプリメントが出たばかりの『メタリックガーディアン』(*22)でも、『バトルテック』(*23)のTRPG版(*24)でもないぞ」
色々「それ本当に、メで始まります?」
少々「マじゃないかな?」
難解「それはさておき、WING(*25)以降のガンダムで重要なのは、キャラクターの感情面のドラマだ。そうなると、俺が使いやすいのは、縁故と夢歩きがある『深淵』なのだ(*26)」

アニメをTRPGで遊ぶこと

 さすがに初心者多めの回で、『深淵ガンダムSEED DESTINY』とか言い出す難解さんに、主催者の少々も困り気味(*27)。

少々「・・・とはいえ、初心者多めの回なので、もう少しライト目のゲーム(*28)をしてもらえるとありがたいんですが?」
難解「TRPG初心者向けではあるぞ?」
少々「どこが!」
難解「少々、お前は初心者の定義を勘違いしているぞ! とりあえず、クトゥルフ神話TRPGを用意すればいい(*29)というものではない」
少々「ええ?」
難解「初心者には、ゲームに入る敷居を下げることがまず重要だ」
少々「はい、そうですね」
難解「『深淵ガンダムSEED DESTINY』は、今、公開されているアニメ原作ということで、世界観はわかりやすい(*30)。まあ、ガンダムをかじっていればOKだ(*31)。
 実際、クトゥルフ神話よりは敷居が低いと思うぞ?(*32)」
少々「え?」
難解「何、お前は俺のクトゥルフ神話解説を聞きたいか?」
少々「・・・・」
梶理「え、聞きたい!」
難解「では、まず、ラヴクラフトの人生から語る必要があるな(*33)。HPLが生まれたのは1890年8月20日……」

 以下、5分ほど話すが、まだ、クトゥルフ神話作品が書かれるまでに至らないのであった。

初心者向けのTRPGとは?

難解「本来、原作物であるクトゥルフ神話TRPGを遊ぶなら、ラヴクラフト作品を知らずに遊ぶのは、邪道としか言いようがない!(*34)
 そういう意味で、世界観から入りやすい、アニメ原作、あるいは、デジタルゲームのTRPG化作品が初心者向けと言えよう。時期が時期なら、現代伝奇ものを扱える真・女神転生TRPG覚醒編(*35)と行きたいところだが」
少々「せめて、21世紀の作品にしてください」
難解「魔都200X(*36)ですら15年以上前の作品だがな。
 まあ、そういう意味で、『深淵ガンダムSEED DESTINY』は旬の作品と言えよう!」
少々「しかし、SEED DESTINYは2004年、20年前のアニメですよ?」
難解「こんなこともあろうかと、サンプルキャラ(*37)もあるぞ。シン・アスカ、ルナマリア・ホーク、アグネス・ギーベンラート、アルバート・ハインラインだ」
少々「シンはDESTINYの主人公(?)(*38)ですね」
梶理「父よ、なぜ、疑問形?」
少々「そこには暗くて深い物語がある」
難解「HDリマスター版(*39)で多少救われたが、シン・アスカの救済が必要だったのだ」
少々「ルナマリアもDESTINYのレギュラーですね。後の二人は?」
難解「アグネスは、ルナマリアのライバルの女性パイロットで、通称『月光のワルキューレ』(*40)、今回の映画の新キャラだな。
 アルバートは技術士官。まあ、真田さんだな(*41)」
梶理「真田さん?」
色々「こんなこともあろうかと!」(*42)
梶理「え?」
難解「宇宙戦艦ヤマト(*43)なんざ、もう50年前のアニメだ。1974年だからな。それはさておき、アニメや映画、ゲームを原作とするTRPGは初心者向けの導入材料として、よいのだ」

そして、歴史が改ざんされる


少々「そう言えば、日本にTRPGを広げたのも、『ロードス島戦記』(*44)というアニメ原作ものでしたね?」
難解「待て! それは順番が逆だ!」
少々「え?」
難解「あれは、コンプティーク(*45)でTRPG紹介のためのリプレイ記事(*46)から始まったのだ。人気が出たので、GMの水野良(*47)が小説を書いたら、バカ売れして、漫画になって、OVAからTVアニメになったんだ」
少々「そうだったんだああ」
難解「お前、あの頃、ソードワールド(*48)のGMしてただろう? なんで、この流れを知らないんや?」
少々「ソード・ワールドが出る前に、TVアニメやってましたし、SWはドラゴンマガジン(*49)のリプレイしか読んでないし」
難解「いかん、このままでは、20世紀のTRPGの歴史が!?
 やはり、TRPGの歴史を誰かが語らねば!
 よくわからない若造が『TRPGの歴史』とか言う本を出す前に!」
色々「あれは酷い本でしたねー」(*50)
難解「その場にいた当事者が生きている間に(*51)聞かないと、聞けない黒歴史(*52)もあるからな。
 そう言えば、ブライアン・ラムレイ(*53)も死んだな。RIP」
梶理「その人は?」
難解「タイタス・クロウ・サーガ(*54)やニトクリスの鏡(*55)の作者だ。クトーニアン(*56)、魔道書『クタアト・アクアディンゲン』(*57)や『グハーン断章』(*58)の生みの親だなあ」
梶理「ああ、こういう場合は、ご冥福をお祈りします、でいいのかな?」
難解「キリスト教徒だから、安らかなにお休みください(Rest In Peace)の略でRIPが適切だろうな。ご冥福だと仏教の極楽に行ってしまうが、キリスト教徒の場合は、最後の審判まで一休みという解釈なのだ」
梶理「ところで、『深淵』の部分には誰も突っ込まないのですね?」
色々「まあ、難解さんだし、後、作者も普通に『深淵ガンダム』とか『深淵プリキュア』とか回しているしな(*59)」
難解「俺が回している限りは、現役のシステムだ!」

 とっぴんぱらりのぷぅ。

解説っぽい何か

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