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6月の化石 ザ・ループTRPGリプレイ 第二回「結婚式の庭にて」

解説:グラフィック社刊行「ザ・ループTRPG」のリプレイ記事、実際のゲームの様子を元にした読み物です。第一回はこちら。

text :朱鷺田祐介 Illust:桐部ゆき

キャラクター作成を扱った第一回はこちら。

OP:メーラレン湖の6月


 6月のメーラレン湖は短い夏を祝うように、多くの花が咲く。蜜蜂は蜜を求めて飛び交い、それを狙って小鳥が飛び交う。
 短い夏は恋の季節だ。
 大人たちは蜂の巣から集めた蜜で、蜂蜜酒(ミード)を醸す。そのまま秋まで熟成させて、10月末のサマン祭(ハロウィーン)に飲み尽くすのだが、それにはひとつの例外がある。結婚式だ。若者が結婚するとなれば、蜂蜜酒を贈るのがお約束だ。そう、蜜月(ハニームーン)だ。

 これはそんな6月のスワットショーランデットで起こった、ちょっと不思議な冒険の物語だ。それは結婚式から始まる。

第二回:結婚式の庭にて


【登場キャラクター】

運動部員 ルイ・アームストロング 13歳 
(プレイヤー:蝸牛くも)

ロッカー ジャスティン・ウェーバー 14歳
(プレイヤー:柴田勝家)

コンピュータ・ギーク フレデリック・レンノ 13歳
(プレイヤー:BakaFire)

変人 セイラ 11歳
(プレイヤー:桐部ゆき)

ゲームマスター(GM)朱鷺田祐介

キャラクターシート

【囲み終わり】

結婚式だ!


GM(朱鷺田):……という訳で、ゲームを始めましょう。
(ここでオープニングを読み上げる)
セイラ:結婚式だ。わくわく。
GM:結婚するのは、みんなが通っている基礎学校の理科の先生、ラーシュ・エーケベリと……
一同:メモメモ。

GM:この人、そんなに重要じゃないから。

一同:おいおい。
GM:ザ・ループの女性物理学者ダーガ・ストロンベリが結婚することは、ステンハムラでも話題だ。あ、この人もそんなに重要じゃないです。
一同:ぶっちゃけたよ。

 誰が重要なNPC(ノン・プレイヤー・キャラクター)かを言っておくのは、話を簡単にするGMのテクニックである。特に、「ザ・ループTRPG」は1980年のスウェーデンという外国を舞台にし、出てくるキャラクターも聞き慣れない名前になりかねないので、こういう気配りをしておくとよい。
 なお、基礎学校はスウェーデンの義務教育で、日本の小中学校に当たる9年間の学校である。

GM:君たちの通う基礎学校の先生が結婚するというので、生徒の皆さんは参列して、お祝いの歌の合唱をします。ザ・ループに両親が勤めている場合は、相手のダーガさんも知っているかもしれません。
ルイ:うちの両親は、ザ・ループ勤めなので、顔見知りのはずですね。
GM:まあ、この村の人間、いえ、この島の人間はだいたい顔見知りです。親しい付き合いがなくても、どこの誰かはすぐに分かる。
 そういう状況なので、君たちも結婚式に参列します。

 スウェーデンも、キリスト教なので、結婚式は村の教会で行い、その後、教会の庭でガーデン・パーティという段取りです。

セイラ:日付は学校の後?
GM:お休みの日にしましょう。

キッドの登場

GM:まあ、そういう導入をしますよ!という話をしつつも、「ザ・ループTRPG」では、シナリオのことをミステリーと呼びますが、ミステリーには明確な構造がありまして、まず、キッドのエブリデイ・ライフのシーンをちょっとプレイします。
 このゲームでは、シーンもシナリオ本編に絡む「ミステリー」のシーンと、キッドの日常描写を行う「エブリデイ・ライフ」のシーンを交互に行うことになります。そのため、1シーンすぎると、家に帰って日常生活を行う、といったプレイになります。
 冒頭に入る「エブリデイ・ライフ」のシーンは、「キッドの登場」と第されていて、キッドの自己紹介になりそうなシーンを短く描写しようというものになります。

フレデリック:このエブリデイ・ライフは結婚式の日にした方がいいのかな?
GM:OPの結婚式に無理につなげなくてもかまいません。
フレデリック:結婚式とは無関係で、何日か前でいいのかな。
GM:はい、その理解でかまいません。
 さて、誰からやりましょうか?
 じゃあ、わかりやすいジャスティンから。

ジャスティン:俺の歌!

ジャスティン:俺には音楽しかないぜ。家でギターを弾いている。
GM:そうしていると、最近、会話がなくなった姉がこっそり出ていった後、母親が「ジャスティン、うるさいわよ」という。
ジャスティン:OK! 母ちゃん、うるさくても俺がロックなんだ。
 聞いてくれ。ソング・フォー・ザ・マム!

母親(GM):うるさいんだよ!
ジャスティン:それさえもロック、OK!
フレデリック:だから、ロックってなんなんだよ!
GM:そうして、ジャスティンの日々は過ぎていく。音を奏でる傍ら、音楽の神へのラブレターを書くが、またも失恋だ。
ジャスティン:今日も世界は俺に残酷だ。だけど、それがロック。
GM:だいたいこんな感じで、ちょっとだけ日常を描写する。家庭の事情とかにもちょっと触れる。
ジャスティン:家族、仲良さそうでよかった。
フレデリック:仲いいのか? 今、姉がどっか行ったぞ。
GM:お姉さんは、最近、夜になると家を抜け出してどっかいっちゃう。
ジャスティン:姉貴ヤバいぜ。
ルイ:それはジャスティンが夜中までギターを弾いているせいじゃないのか?
ジャスティン:そんな気もするぜ! 家にいたくないのかな?
GM:お姉さんは野生生物クラブに入ってから奇行が続いている。
ジャスティン:ちょっと心配だな。

 そんな思いをロックに託して歌うジャスティンであった。

 ちなみに、姉の件は・・・まだ秘密だ。

フレデリック:孤独をこじらせて・・・

フレデリック:学校でも誰かと話すことなく、終わるとさっさと家に帰り、パソコンを起動してカタカタとキーボードを打つ。
 えっと、掲示板、いや、インターネットってありますか?
GM:80年代なので、インターネットはありますよ。
ルイ:時代的に、パソコン通信ですね。
GM:はい。日本の商用パソコン通信サービスであるニフティサーブが1987年営業開始ですね。その前からインターネットは存在します。

 そもそも、インターネットはアメリカの軍用ネットワークから発達したものでうんうんかんぬん。

フレデリック:では、カタカタやって、掲示板を見て回り、「なんかペーテルの噂が増えているなあ」とか独り言をつぶやく。
 ここで、ルイとの関係を使わせてもらおう。
 そうするうちに、母親がやってきて「ちょっと、ルイ君、来ているわよ」とか言う。
ルイ:お、呼ばれたな。来たぞ!
フレデリック:なんだよ、忙しいのに。
母親(フレデリック):もう入ってもらったわよ。
フレデリック:そうして、ルイに首根っこ掴まれて、秘密基地に連れていかれる。「離せよ、離せよ!」という感じで引きずられていく。

 Baka Fireさんの一人小芝居に、皆、爆笑。

フレデリック:しかし、ペーテルの噂が増殖しているな。きっと、村中に広まっていて、インターネットの村の掲示板があれば、そこで噂が蔓延している感じ。
GM:どうやらこのステムハムラ周辺で起こっている謎の現象らしいよ。

 ペーテル・ルートがどんどん強まって、次はあの事件を!となるのも、ザ・ループTRPGの面白いところ。

ルイ:今日も怒られた。

ルイ:いつもように学校から帰ってきて、ベッドのところに行き、猫のマカンに愚痴る。「また、怒られちまったよ。テスト頑張ったんだがなあ」
セイラ:「にゃああん」(猫の真似)
ルイ:いや、マカンは返事しないんだ。ただ聞いているだけ。
 しばらくすると、親がやってきて、「宿題やったの? テストどうだった?」とか、またきゃんきゃん怒られる。
母親(セイラ):また、バット仕舞ってないし、ちゃんと片付けなさいよ!
ルイ:いや、帰ってきたばっかりだし、着替えもまだ出してない。
母親(セイラ):早く出しなさいよ。まったく、誰が洗濯すると思っているの!
ルイ:はーい。
セイラ:反論はしないんだ。
ルイ:自分が悪いのは分かっているし、母親には言い負けるし。結局、猫のマカンのところに戻ってまた愚痴る。「また、怒られちまったよ」
フレデリック:色々うまくいってなくて、しょんぼりしちゃうタイプなんですね。
GM:そんな感じの日々ですが、ここで、母親がもう一言。
「日曜日は、基礎学校のエーケベリ先生とダーガの結婚式でしょ。あんたも出席するのよ。ちゃんとしなさい!」
ルイ:ああ、そうだった。
GM:他のメンバーもだいたい同じことを言われていると思ってください。

 「キッドの登場」はあくまでも、ミステリー本編ではないが、ミステリーにつながる情報をちょっと入れておくのがよい。

セイラ:迷路

セイラ:学校に行ってます。もちろん、ペットのネズミのマイケルも一緒ですが、クラスの女の子たちにこう言われます。

「週末の結婚式、まさか、そのネズミ、連れて行かないよね?」

 私としてはいつも一緒にいる子だから、連れていきたいけれど、親からも止められるしなあ、と思って
「そ、そうね。そう思う」
と目を合わせずに答えて、そそくさと家に帰る。
ルイ:セイラ!
セイラ:家に帰ったら、マイケルに「ごめんね」と謝る。
 家に戻ったら、戻ったで、親から「また変な格好して!」と言われるのだけれど、女の子の服は、似合わないし、着たくもない。ふりふりの格好は嫌だけど、はい、というしかない。がっかりしながら、秘密基地に行くと、みんなゲームしたり、ギター弾いたり、好きにやっていて、ここはいいなあと思う。
ジャスティン:そうだ、俺の歌を聞け! これがロック! フリーダム!
セイラ:でも、そうやって、秘密基地でみんなと遊んでいることで、回りの女の子からは「あの子、年上の男の子たちと遊んでいるんだって」と噂される。
ジャスティン:年齢なんて関係ない。それがロック!
GM:謎のロッカーと付き合っているらしい。
セイラ:そうそう。年上の男の子。
ルイ:年上の・・・
フレデリック:男の子だな。
GM:まあ、はたから見れば、逆ハーレムだな。ルイなんか、一応、野球部のエースっぽい。
ルイ:ぽい!
GM:フレデリックは、最新鋭のコンピュータを駆使する孤高のハッカー。
フレデリック:ただのぼっちをこじらせたギークですが。
GM:そして、謎のロッカー、ジャスティン!
ジャスティン:俺のハートは音楽の女神に捧げたんだ!

 こんな感じで、悩み事や心の拠り所、家族との関係などを出しながら、自分のキャラを表現していく。

 かくして、このキッドたちの冒険は、6月の結婚式から始まる。

ミステリーの導入:6月の花嫁

 基礎学校の数学教師ラーシュ・エーケベリとザ・ループの女性物理学者マリア・ストロンベリが結婚することは、ステンハムラでも話題だ。結婚式はステンハムラの教会で行われ、小学校の生徒を含め、街中の人々が参列する。もちろん、キッドたちも例外ではない。大人たちはご祝儀代わりに、蜂蜜酒やぶどう酒を用意するが、生徒たちも参列し、お祝いの歌を歌う。そのまま、教会の庭を使ったガーデン・パーティが続く。生徒たちにとっては、結婚式での説教は退屈だが、パーティで提供されるピザやお菓子がお目当てだ。

GM:という訳で、君たちも、結婚式に参加する。
ルイ:このあたりはキリスト教?
GM:スウェーデンは社会主義政権が長い国なので、北欧で唯一、国教を持たない国で、日本と同じくらい宗教意識は薄いと言われている。歴史的には北欧神話からカトリックに改宗した後、15世紀頃に、プロテスタントに移行した。一番勢力の大きいスウェーデン教会は福音派のルター派で、聖ルチア祭などの古い儀式もある。ステンハムラの教会は、こちらにしておこう。
ルイ:じゃあ、母親の横で着慣れない服の首が合わなくてもじもじしていることにしよう。賛美歌は口パクで。

GM:お約束の説教は退屈だが、きれいな花嫁のためにキッドたちもお祝いの歌を歌い、その後は教会の庭でガーデン・パーティだ。
 基礎学校の生徒たちはあちこちで騒いでいるが、君たちは庭の隅っこにあるお菓子やケーキのテーブルの近くにいる。

セイラ:お菓子をもきゅもきゅ。
フレデリック:どんな人が来ていますか?
GM:基礎学校の先生とザ・ループの研究者が結婚したことで、学校の先生たちや、ザ・ループの研究者たちがたくさん来ています。
 その中には、あなたがたの好きな女性の先生も含まれています。ロヴィーサ・アンデルスという理科の先生です。ロヴィーサは古生物学が専門で、恐竜や三葉虫とか、化石の話をしてくれるので、子供たちに人気です。
フレデリック:なるほど。
GM:ロヴィーサ先生は20代後半、27,8ですね。彼女は専門のことを話している時は饒舌ですが、こういう場で人と交流するのは苦手で、パーティでも隅っこに立っています。
セイラ:マニアによくある。
GM:で、その近くに、地味で暗そうな青年がいます。学校の先生ではないので、ザ・ループの研究者でしょう。ロヴィーサに声をかけたいのですが、これもまたうまく言い出せないらしくて、もにょもにょしている。
セイラ:むふ。気づいちゃった。
GM:その青年は片腕が機械式のロボットのような義手になっている。
ジャスティン:ハイテクじゃないか?

 「ザ・ループ」の舞台は、1980年代ですが、ところどころ、こういう進化したテクノロジーの産物が存在しています。Amazon Primeで制作された「ザ・ループ」のドラマ・シリーズでも、登場人物のひとりが、片腕だけこうした機械義手になっていました。

セイラ:じゃあ、ロヴィーサ先生に近づき、「こういう場は落ち着きませんねえ」と話しかける。
ロヴィーサ(GM):そうよね。私も苦手。
セイラ:はじっこ、落ち着きますよね。
ロヴィーサ:落ち着くわねえ。
セイラ:ところで、あの人はロヴィーサ先生のお知り合いですか?
ロヴィーサ:ベルトルトさんでしたね。ザ・ループの研究者の人。
GM:そこで、やっとふんぎりがついたらしい青年が近づいてくる。
青年:ロヴィーサ先生、ベルトルト・オングストロームです。
ジャスティン:あれ、どこかで聞いた名前?

GM:SF作家の柴田勝家さんなら、お気づきかもしれませんね。
 オングストロームは、10のマイナス10乗メートルを示す長さの単位で、19世紀、スウェーデンの物理学者アンデルス・オングストロームの名字から取られています。
ジャスティン:ああ、なるほど。
GM:分光学の創始者で、息子のクヌートも物理学者だった学者の一族ですね。このメーラレン湖の北にある古都ウプサラにある北欧最古のウプサラ大学には、オングストロームの名前を冠した最先端の素材工学研究所があるほど。まあ、この人は、その一族の末裔という設定です。アンデルスの5、6代目の子孫かな。
ジャスティン:エリートか!
GM:ザ・ループには、こういう国内外から招聘されたエリート科学者がたくさんいます。
ジャスティン:うちの叔母さん、レーナ・テリーンも?
GM:レーナ・テリーンは、早熟の天才。飛び級して博士号を取得、ザ・ループで時空間の秘密を研究していた(過去形)。
ジャスティン:あの叔母さんならしかたないか。

 このリプレイはフィクションです。あくまでも設定ということで。

GM:ベルトルトはポケットから何か石のかけらのようなものを取り出す。
ベルトルト:えと、ロヴィーサ先生は、こういうもの、お詳しいですよね?
GM:その瞬間にロヴィーサ先生の目がきらきらして、ベルトルトの手からその石を取り上げ、しげしげと見始める。
ロヴィーサ:「こ、これは!」
セイラ:何か、珍しいのですか? その石。
ロヴィーサ:アンモナイト? でも形が違う。亜種かしら?
GM:化石ですね。アンモナイトは、古生代シルル紀から、中生代白亜紀末まで、海に生息していた頭足類の一種。巻き貝の甲羅を持つタコやイカの親戚で、オウムガイに近い。
ルイ:え、何何、恐龍の化石?
ジャスティン:化石、それはロックな話か?
セイラ:ロックかなあ?
ジャスティン:ロックな話じゃないか? 石だよ。

 それは確かに、Rockだ。

ロヴィーサ:え、ちょっと待って。これ、どこで見つけたの?
ベルトルト:え、ああ、石切場だよ。

GM:ステンハムラの郊外には、20世紀初頭まで使われていた石切場があります。

ロヴィーサ:でも、これは私の知っている種類じゃない。もしかして、新種かしら?
セイラ:新発見?
ベルトルト:(顔を真っ赤にしながら)見たことがない形のアンモナイトだったので、先生に渡したかったんだよ。
ルイ:もしかして、石切場には、化石がたくさんあるかな(わくわく)
ベルトルト:ああ、珍しい化石がたくさんあるんだ。
セイラ:面白そうねえ(変わったもの好き)
ジャスティン:そいつはロックだな!

フレデリック:ちなみに、僕は少し離れた場所にいたが、会話に交じるべく、じりじりと近づいていく。

GM:この村の名前ステンハムラも英語にすれば、ストーンハンマー、石切場が主産業の村だったのです。村の外れに石切り場があり、地下まで石を切り出してあり、また、崖が削られた場所もあります。
ジャスティン:ニチアサでよく見る風景かな。
GM:そうですね。
 20世紀初頭までは、ストックホルムの石造建築物の材料を切り出していましたが、閉鎖され、今は立入禁止です。
 行くと面白い場所ではあるが、やはり危険なので、子どもたちは行っちゃダメと言われている。
セイラ:そんなあ。
フレデリック:(すっと近づいてきて会話に参加する)あそこは、行っちゃだめなんじゃないか?
ロヴィーサ:そう行っちゃだめですよ。
GM:彼女は基礎学校の教師という立場上、注意しますが、その後、ベルトルトを振り返り、「こんな化石があるなら、私も見てみたいですねえ」
ベルトルト:では、もっと化石を探しておきましょう。また、お持ちしますので、どこかでお会いできれば。
セイラ:ふーん(ちょっと怪しげだなあ)
ジャスティン:どうやら、ほの字みたいだぜ。

冒険の始まり

 ……という訳で、君たちは、結婚式の後のパーティで、ロヴィーサ・アンデルス先生と、ベルトルト・オングストローム博士の出会いを目撃し、石切場で化石が出ていることを知りました。

ルイ:よし、化石を探しに行こう!
セイラ:面白そう!
ジャスティン:そいつはロックだ!
フレデリック:待てよ、お前ら、まず、準備だ。いや、事前調査だろ?
 GM、石切場に行くには、どうすればいいですか?

GM:石切場はかつて、この村の主要な産業でしたので、誰でも場所は知っています。距離も近い。自転車ならすぐだし、歩いても15分とかからない。 立入禁止なので、フェンスで囲まれてはいるが、もうオンボロで、穴だらけ、簡単に入り込める。

セイラ:これで新しい化石を見つけたら、私達の名前が化石につけられるかもしれない!
ルイ:それ、とっても冒険家っぽいよなあ。
セイラ:ルイ兄ぃはいつも冒険したいって言っているもんね。
フレデリック:でも、行っちゃダメって言われているだろう?
(と、いいつつ、ちらちらと見て、誘われ待ちしている。フレデリックとしては、友達と何かしたい、というところがある)
セイラ:大丈夫、あたしより大人だから。
フレデリック:でも、行っちゃだめなんじゃないのかよぉ。

 誘ってほしいのに、いい子ぶってみせるフレデリックのツンデレなロールプレイ。

ジャスティン:行きたい! 行こう! これがロックだ!
ルイ:確かに、岩(Rock)があるな。
フレデリック:ロックってそういうことなのかよ!
 なあ、お前のロックってそれでいいのかよ!
ジャスティン:ロックはロックだ。
フレデリック:釈然としねえ。
ルイ:あいつのロックって、わかんないよな。
ジャスティン:俺がロックだ!
セイラ:ジャスティンがロックだって言うなら、ロックだよ。
フレデリック:もしかして、おかしいって思っているの、おれだけか?!
セイラ:いいじゃん、いいじゃん。
ルイ:石切場には石(ロック)が詰まっているんだよ。
フレデリック:なんか反論できねえ。

  そう言いつつ、準備に取り掛かるキッドたち。

セイラ:大人たちにばれないように行こうね。その辺、人気(ひとけ)はあるの?
GM:石切場は使われなくなった後は閉鎖されており、基本、人はいない。いるとしたら、野生生物、極端に孤独を愛する変人か、好奇心の強い子供たちぐらいのものです。

 日本で言えば、戦隊物や仮面ライダーの撮影現場になるような場所。
 石切場は山を削っているのと同時に、地下に向かって掘り下げており、迷宮のようになり、一部、水没した場所もある。

セイラ:この時期の気温は?
GM:メーラレン湖地方を含むスウェーデン南部は、北緯60度という、緯度の割に暖かく、摂氏20度ぐらいまで上がります。泳ぐには寒いかもしれないが、泳ぐ人がいない訳ではなさそう。

 このあたりの温度感は、やや欧米系と日本人の間では差があるかもしれません。日本は湿度が高く、暑さが厳しいのですが、ヨーロッパは乾燥していて、寒さが厳しくない。

フレデリック:結婚式のシーンはそんな感じですかね?
GM:ああ、もうひとつ、イベントがある。

夏のオーロラ

GM:パーティが終わろうとしたところで、上空に不思議な光が舞い始める。オーロラだ。

一同:えーーー。

GM:確かに、スウェーデンでは、オーロラが見えるが、昼間から見えられるのはかなり珍しい事柄だ。
フレデリック:そうなんですか? 呆然としちゃうよね。
ジャスティン:オーロラって夜に起こるものでは?
GM:その通り、オーロラは、太陽風に運ばれてきたプラズマが、地球の夜側に入り込み、電離層に降りてきて、大気中の分子と反応して光る。

セイラ:大人たちはどうしていますか?
GM:いい質問だ。ザ・ループの幹部のひとりで、ロヴィーサの養父であるイェオリ・オーレン博士が近づいてきて、ベルトルトに問いかける。

「どう思うかね」

ジャスティン:学会の偉い人だ(汗) 

 ジャスティン役の柴田勝家さんは人類学の研究者でもある。

ベルトルト:私の専門は素粒子分光学で、気象関係は専門外です。
オーレン博士:それこそ、君のご先祖のアンデルス・オングストローム博士は、オーロラの波長を計測し、プラズマに反応して発光する酸素分子の存在にたどりついた。あれこそ分光学の範囲じゃないかな?
GM:ベルトルトは祖先の名前を出されて、顔を赤くしたが、ザ・ループの大物の言葉には反論できないまま、「用事を思い出しました」と言って去っていった。オーレン博士は振り返り、他の研究者に声をかける。

「プラズマと地磁気の専門家は、いないか?」

 すると別の学者が上空を観察しながら、「地磁気の異常じゃないですかね?」と答える。彼が鞄から取り出した計測器の針が異常な動きをしている。別の場所からは「時計が止まってしまった!」「いや、逆進している?」という声も。

フレデリック:あ、家のパソコンが不安だ。
GM:後で家に帰ると、リブートしますか? Biosチェックしてください。
フレデリック:最悪ぅ。
ルイ:エレキギターは?
ジャスティン:俺の魂が!
GM:エレキギターは大丈夫などころか、電源も入れていないのに、オーロラが出現したのと同時に、ぶーーんと音が出ますね。
ジャスティン:ついに、音楽の神に認められた。最高の力が手に入ったぞ!

石切場に行こう。


 さて、そんな感じで結婚式は終了。
 ロヴィーサ先生からは重ねて「石切り場には行ってはいけませんよ」と注意されるが、そうなると俄然、行きたくなるのがキッドたち。

セイラ:その場では「はーい! 分かってますよー」と答えた上で、大人たちがいなくなった場所で「で、いつ行く? いつ行く?」
ジャスティン:すぐ行くのが、ロックだ!

 わいわいと準備を始めるキッドたち。
 「ザ・ループTRPG」には所持金を決めるルールはないので、家にありそうなものは持っていってよい、ぐらいで対応する。

セイラ:洞窟みたいな場所らしいから懐中電灯がいるし、水が溜まっているかもしれないから、水着がいるし、何かあった時のためのロープ。
 水場に入る時の靴?
ルイ:普通に長靴じゃない? 落石に備えて、頭を守るもの、ヘルメットか。後、婦警さんにボートを貸しているので、長靴とロープはあると思う。
セイラ:ルイが冴えている!
ルイ:いつもは脳筋だけれど、冒険好きなので、冒険家の伝記とか、インディーの映画で見たことは応用できるんだ。
フレデリック:アウトドアの冒険だから、私のインドア装備は全然役に立たないなあ。パソコンも持っていけないし。
ルイ:岩をどけたら、ソケットがあったりして。
フレデリック:それはそれで、別のシナリオが始まりますよ。
セイラ:ネズミのマイケルを連れて行く。異臭に気づいてくれそう。
ジャスティン:カナリアか? 
ルイ:野球のヘルメットとバット。
セイラ:化石を取るためのハンマー。こんなところ?

フレデリック:この中に、パンを持っていこうという奇特な人がいないなら、私がその役目を果たそう。
セイラ:パンは持っていかないけれど、お菓子は持っていく。
ルイ:探検道具のことで頭が一杯だ。

ジャスティン:俺はエレキギター一本だけだ。
フレデリック:なんで、持ってくるんだよ!
ジャスティン:ロックだからな。
フレデリック:電源どうするんだよ!
ジャスティン:俺のハートが響かせる。
フレデリック:せめて、電源のいらない楽器にしろよ!
ジャスティン:気にするな、音楽はいつでも俺のそばにある。

 会話が成立していない。
 なお、ジャスティンはたぶん、普通のギターを持ってないかも。

セイラ:じゃあ、いつ行く? 明日? 今日?
ルイ:じっくり探索するなら、明日の朝からかな。
フレデリック:今、何時頃ですか?
GM:昼ぐらい。
フレデリック:行けるかな。
ジャスティン:6月のスウェーデンですよね? 日没は?
GM:今、北欧は一番、日の長い時期です。メーラレン湖地方はほぼ北緯60度。6月中旬はもっとも日が長い時期で、日の出が4時前、日の入りは22時すぎとなる。
フレデリック:遅! 
セイラ:全然、余裕じゃん!

 早速、行くことになり、各自家に戻って、準備。

フレデリック:パソコン、壊れた、最悪ぅとか言いながら、再起動する。さっき、結婚式会場で出たオーロラと何か関係あるのかな? とか考えている。
ルイ:「釣りに行く」とか行って家を出る。これは親はOK!
GM:ルイのご両親は、ザ・ループ勤務の学者さんなので、彼らも出かける準備をしている。
父:地下のグラヴィトロンを見てこよう。
母:私も粒子加速器のチェックが必要だわ。

 ザ・ループは、この時期、世界最大級の円形粒子加速器による実験施設である。地磁気の異常であれば、一番、影響を受ける可能性が高い精密機器の塊だ。

ルイ:地下で何かぐるぐる回しているんだよな。(残念な解釈)
セイラ:うちは?
GM:ザ・ループの研究者でない人々は、一瞬、「ザ・ループで何か起こったか?」と内心、思ったが、まあ、口には出さない。
 大人たちは、異常事態でわちゃわちゃしている。
セイラ:チャーーンス! このすきに冒険にいくぞぉ!

フレデリック:気の利かない奴らのために、パンを持っていくぞ。
……とかいいつつ、鞄に詰め込んだパンをみんなで食べるシーンを想像してちょっとうれしくなっている。
ルイ:しかし、ルイはそんなフレデリックの気持ちを理解せず、「なんで、パンだけなんだよ、チーズとかハムとかなんで持ってこないんだ!」
ジャスティン:パンしかないのかよ!
フレデリック:何も食わないで探検するつもりだったのかよ!
ルイ:探検の場合の栄養価から言えば…
フレデリック:こういう時だけ、探検ガチ勢になるんだから。
 釈然としねえ!

 パンを巡って、わちゃわちゃ言い合うキッドたち。
 こういうやりとりがよい。

ミステリー・シーン:石切場潜入

GM:みなさんは村から少しだけ離れた石切場にやってきた。
ジャスティン:ここがロック! たくさんのロックだ。
GM:石切場はフェンスで囲まれ、立ち入り禁止の看板もあるが、フェンスに穴もあるので、キッドなら簡単に入り込める。
セイラ:じゃあ、するり。

GM:20世紀初頭まで、ステンハムラの主要産業であり、ストックホルムの建築を担った石切場は、巨大でそこここに洞窟めいた穴があります。
ルイ:ダンジョンだ!
フレデリック:足元に気をつけろと、懐中電灯をつける。

GM:では、暗い石切場に入り込むシーンで、判定の練習をしましょう。
 足元が怪しい暗い階段を下りていきます。
 「ザ・ループTRPG」では、こうした障害をトラブルと言います。ナラティブなルールなので、それほど重要でないことに関しては判定しませんが、ここは練習を兼ねて、【ボディ】と〈運動〉で振ってみてください。

フレデリック:〈運動〉がない場合は、【ボディ】だけで?
GM:はい。今回は、特に技能がないことのペナルティはありません。
 ダイスを振って、6の目がひとつでも出れば成功となります。もしも、より多く、6が出た場合はそれを他の人に上げることができます。
フレデリック:支えてあげるとかそういう感じですね。

ルイ:アイテムを持っているとダイスの数が+1ですね?
GM:はい、アイテムは、状況に応じて+1から+3のボーナスをもらえます。例えば、今回、ロープを持っているので、+1。
ジャスティン:ありがたいね。

GM:さらに、自分のアイコン・アイテムがこう役に立つよと描写できれば、+2ですね。
ルイ:マウンテンバイクで一気に階段を駆け下りる!
GM:+2ですね。
ルイ:しないですけれどね。

ジャスティン:それでも、失敗したら?
GM:どれかのコンディションをひとつ受けます。

 「ザ・ループTRPG」で、被害を受けた場合、「動揺」「萎縮」「疲労」「負傷」「くじける」の5個のコンディションのいずれかにチェックを入れる。「くじける」は最後になり、ここまで入ってしまうと行動不能になる。
 適用されたコンディションの数だけ、振れるダイスの数が減る。

GM:また、プライドを使うと、1個の自動成功を得られますが、これは1回のセッションに1回なので、最後に取っておくべきでしょう。

セイラ:6が1個!
フレデリック:お、出た出た!
ジャスティン:出ないなあ。
ルイ:じゃあ、6が2個出ているので、1個ジャスティンに渡します。
ジャスティン:ルイ、ありがとう、助かったぜ。
 これが愛、これがロック!

 判定で協力できるのも「ザ・ループTRPG」の特徴。その協力を物語に解釈すると盛り上がる。

フレデリック:エレキギターが重かったのかな? 置いてこいよ。
ジャスティン:これは俺の魂。音楽はいつもともにある。

ダンジョン探索は大規模トラブルで


GM:次に、ダンジョン探索をします。
ルイ:来たな!
GM:ダンジョン探索は「大規模トラブル」(ルールブックP.72)のルールで処理します。これはよくクライマックス、このゲームで言うと「ショーダウン」で用いるルールですが、便利なので、ここでも使いましょう。
 これは、ある種の状況を解決するために、全員で何かの判定をして、成功を一定数かき集めるというものです。
 ここは導入ですので、普通のトラブルということで、プレイヤー数✕2の成功、つまり8個の成功があれば、OKです。
 使う技能は、そのシーンの解決に役立つのであれば、何でもかまいません。アイテムも使えます。自分はダンジョン探索でこんなふうに活躍するよと考えて、1回ずつダイス・ロールを行います。その結果、最低でも半分、つまり、4個の成功が出れば、仮成功で、コンディションを埋めて成功を追加できます。4個に足りないと完全に失敗ですね。

セイラ:ダンジョン探索ですね! じゃあ、私のマイケルが役にたつはず! 【マインド】+〈捜査〉+アイコン・アイテムで10個振ります。
GM:ネズミで〈捜査〉!
セイラ:2成功!
ルイ:我々はダンジョン探索に必要な道具を持ってきているだろうか?
セイラ:紙とペンとか?
フレデリック:こいつ、パンしか持ってきてない。使えないな。いや、パンをちぎって置いていけば迷わないぞ!
GM:しかし、ここ野生動物がいるので、食べられちゃうかもね。
セイラ:うちのマイケルがもぐもぐ。
フレデリック:食うなあ。しかたないから、壁に印をつけて迷わないようにしよう。なんか適当な筆記用具持っていていいですか?
GM:あなたが今、鞄に入っているようなものならOKですね。
フレデリック:じゃあ、それでダイス+1。マッピングするよ! 【マインド】+〈分析〉でこのダンジョンの謎を解く! 1成功!

ルイ:マッピング組がいるなら、ヘルメットかぶって、先頭に出て、バットを振り回しながら、露払いを担当しよう! 
 これ、ファンタジーRPGなら罠にかかる役目だな。
ジャスティン:戦士が罠を蹴破るパターン。
セイラ:野生動物がいるって言ってたものね。
ルイ:ヘルメットかぶって先頭を行くのは、ただのファイターだな。
セイラ:まあ、ルイ兄ちゃんはファイター枠でしょ。
ルイ:俺はハン・ソロじゃなくて、コナン・ザ・グレートなのか?

 ちなみに、原作のコナンはバーバリアンではありますが、やっていることは盗賊が多くて、ゲーム的にはローグ枠なのですが、それはさておき。

ルイ:バットで+1できますか?
GM:はい、かまいません。
ルイ:【ボディ】+〈運動〉にバットで+1、11個振ります。2個成功。
GM:ここまでで5個。仮成功ラインは超えた。

ジャスティン:なかなか、順調だな。ここは年上らしく、まともな技能で進む。【ボディ】4+〈運動〉3+ロープ(+1)で、あれ、1個もない。

 まともな行動を選択すると、出目が振るわないジャスティン。

GM:ジャスティン、ありがとう。これでルールの説明が出来る。
 1回のダイス・ロールで1回、コンディションにチェックを入れることでダイス・ロールを振り直せます。
ジャスティン:やった!
GM:ただし、コンディションに1個チェックが入るので、ダイスの数が1個減ります。
ジャスティン:うわあ。「動揺」にふっちゃお。動揺した!

 こんな俺の音楽が!

フレデリック:音楽じゃないし。
ジャスティン:パンしか持ってこなかった奴に言われたくねえ!
フレデリック:ノートとペンもあっただろう!
ジャスティン:2個成功。音楽が俺を裏切るはずがない!

 そして、歌おう! ダンジョンを探る歌ぁあ。

 さすが、石切場は音響がよい。
GM:ここで合計7個。最低条件の4成功は越えているものの、完遂には1個足りない。この部分は、誰かがコンディションを引き受けることで補うことになる。
セイラ:じゃあ、11歳で年下の私が疲れたということで。

 セイラは、「疲労」にチェックを入れる。これで回復するまで、ダイス・ロールで触れるダイスの数が1個減る。

GM:かくして、皆さんは石切場の洞窟の奥にたどり着く。

 なんと、そこにあったのは……

あとがき


 おまたせいたしました。「ザ・ループTRPGリプレイ 6月の化石」第二回です。

 結婚式きっかけに、キッドたちは石切場の探検に向かいます。
 ここで使っている「大規模トラブル」のルールは、色々な事件を豊かに描写できるので、いいですね。

 ここまでのプレイ時間は「2:20:16」。約半分ほどです。

 まだまだ序盤です。

 次回は2月中盤を予定しています。


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